大禍時の事故

 一説に、大きな災いの起こりやすい時だから「大禍時(おおまがどき)」と言うのだと、手元の辞典にある。夕方の薄暗い頃を指すが、確かにこの時間帯は物の輪郭がぼんやりして、視界の危うい感じがする▲夕暮れ時は災いを招きやすいことが、警察庁のデータでも分かる。昨年までの5年間で、歩行者が車にはねられたりした死亡事故を詳しく見たところ、日没の前後1時間の事故件数は、昼間の1時間当たりの件数の実に4倍ほどに上った▲道路横断中の事故が飛び抜けて多い。夕暮れ時、ドライバーの視界がだんだん悪くなり、歩行者に気付くのが遅れる可能性があるという。警察庁は、ドライバーに早め早めの点灯を呼び掛けている▲歩行者の側にしてみれば、災いを防ぐ頼みの綱は何と言っても反射材らしい。日没の前後1時間に事故で死傷した65歳以上の歩行者のうち、反射材用品を着用していた人は3%に満たなかった▲つまり、反射材を身に着けていれば、重大な事故に遭うことはあまりないといえる。反射材を用いた品が夕暮れ時の事故防止に役立っているのは確かだろう▲「大禍時」は「逢(お)う魔が時」とも書き、「魔物に出くわす時」も指している。ドライバーは点灯を、歩行者は光を反射する物の着用を。それぞれ心掛け、車が夕暮れ時の魔物と化すのを防ぎたい。(徹)

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