品位、壮麗、伝える使命 雲仙観光ホテル(雲仙市) 佐賀・長崎「登録文化財」巡り

 1935(昭和10)年10月10日午前10時10分。豊かな自然に囲まれた雲仙温泉街に、雲仙観光ホテルは誕生した。石畳の歩道の先に見える、赤い屋根と丸太組みの洋館。開業から83年がたった今も、かつて多くの外国人観光客らでにぎわった面影を色濃く伝える。
 標高約700メートルの温泉街は、明治時代から外国人の避暑地や保養地として活用されてきた。昭和に入り、外国人誘致が国策として推進され、全国15カ所にホテル建設を計画。雲仙にも白羽の矢が立った。
 ホテルが建設されたのは、雲仙が国内初の国立公園に指定された翌年。老舗旅館が並ぶ中に現れた洋風ホテル。3階建て延べ床面積約4900平方メートル、客室数39室。外観は自然と調和するように、スイスの丸太組みの山小屋がモチーフ。赤い屋根が緑に映え、ヨーロッパの雰囲気を醸し出す。館内の手すりや柱には日本伝統の「手斧(ちょうな)削り」による彫刻が施され、和洋の文化が融合する。
 開業当初から、国内有数のリゾート施設として注目された。54年、雲仙を舞台にした映画「君の名は」では、ヒロイン・真知子が勤めるホテルとして銀幕に登場。61年には、昭和天皇、皇后両陛下がご宿泊された。また、各国の駐日大使などがプライベートでも訪れるという。
 同ホテルコンシェルジュの佐藤重光さん(70)は「大切にしているのは『ホテルで暮らす』という理念」と話す。建物だけではない、接客もまた、気品と伝統を守る重要な要素。「その両輪があってこそ、ホテルは皆さまの安らぎの場所となる」。そんなホテルマンの努力に支えられ、2003年、国の登録有形文化財に指定された。
 文化財指定を機に、外観や扉、照明などの象徴的な部分を残しつつ改修工事を実施し、快適性を高めた。船橋聡子総支配人(51)は「時代に対応しながらも、変わらない良さがお客さまの心には深く残る。原点を大切にして、品位や壮麗といった唯一無二の価値観を後世に伝えていきたい」と話す。
 そして、力を込め、言葉を結ぶ。「雲仙観光ホテルには、その使命と責任がある」

 ■ちょっと寄り道/雲仙お山の情報館/トレッキングガイドも

 雲仙観光ホテルから中心部に向かって徒歩約5分、八角形の建物にちょこんと飛び出た時計台が目印の「雲仙お山の情報館」が見えてくる。
 環境省の学習施設で、雲仙の自然情報の発信や、歴史、文化、温泉をテーマにした常設展示がある。春のミヤマキリシマ、秋の紅葉など、四季折々で表情を変える雲仙の見どころをスタッフが丁寧に説明してくれる。
 毎月の自然観察会のほか、トレッキングやまち歩きのガイドなども実施。道路向かいにある別館には畳の休憩スペースもあり、登山や地獄巡りで疲れた足を癒やす観光客に人気だ。
 開館時間は午前9時~午後5時。本館は木曜休館、別館は年中無休。どちらも入館無料。問い合わせは(電0957・73・3636)。

 ■アクセス

 長崎自動車道諫早インターチェンジから国道57号を経由し、車で約1時間。島原港から路線バスで約40分、西入口バス停で下車し徒歩1分。長崎空港からは予約制の無料シャトルバスもある。

ロビーでは月日を重ねた柱やはりが、木のぬくもりを感じる空間を演出。開業当時の面影を今に伝える=雲仙市小浜町
スイスの山小屋をモチーフにした外観。赤い屋根が青空と緑に映える

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