ライコネンが見せたプロらしい態度 F1フェラーリからザウバーへの移籍で

F1イタリアGP決勝で2位に入り、表彰台で観客に応えるライコネン=Ferrari

 プロとアマチュア。アスリートの世界において違いがあるとしたら、何だろう。真っ先に挙がるのが、金銭が生じるか否かだろう。そして、もう一つ大きな違いがある。それは、プロはトレードなどで所属やチームが変わる可能性が常にあることだ。トレードが話題になるのは、日本のプロ野球だ。フリーエージェント(FA)の導入後は、チームの主力が対象となる「大型トレード」こそ少なくなったが、現在でも頻繁に行われている。もちろん、中には選手が望まないトレードもある。過去にはトレードを拒否して引退した選手もいた。

 そして、F1でも“事実上のトレード”が波紋を呼んだ。2007年の年間総合王者で現在はフェラーリに所属している38歳のキミ・ライコネンと、ザウバーに所属する20歳の新人シャルル・ルクレールが19年にチームを入れ替わることが発表されたのだ。正確には、それぞれのチームが別々に契約を発表したので、正式にはトレードではない。しかし、(1)ルクレールはフェラーリの育成プログラムドライバー(2)パワーユニット(PU)を供給しているフェラーリにはザウバーのドライバーを一人指名する権利を持っている。このため、今回の両チームの契約はフェラーリ本体が下した事実上のトレードと言われている。

 ライコネンはこの決定をフェラーリのマウリツィオ・アリバベーネ代表から、イタリア・グランプリ(GP)が開幕した8月30日に聞かされたという。非情の決定を伝えたアリバベーネはイタリアメディアの取材に対して、「もし、『くび』を伝えたとき、それを聞いてライコネンがナーバスになったとしたら、土曜日にポールポジションを取っただろうか。私はプロフェッショナルなドライバーと契約している。そしてプロは契約した書類がすべてだ」と答えた。お互いにプロとしての契約をし、それが終了しただけだと。

 ライコネンもプロフェショナルな態度を見せた。シンガポールGPの公式会見で、今回の騒動を聞かれたライコネンは、「フェラーリからの『解雇』は自分の意思ではないが、ザウバーとの契約は自分の意思で2年契約した。それが全てだ」と答え、競争力が落ちるチームへの移籍を気にしていない様子だった。そして引退について問われたライコネンは「それは自分が潮時だと感じたときだろう」と答えた。

 どのスポーツにも世代交代という新陳代謝は必要だ。しかし、その一方で、しぶとく現役を続けるスポーツ選手にファンは共感するところがある。ライコネンの通称はクールな「アイスマン」が、それは表面的なもので、その中身は誰よりも「熱男」なのかもしれない。(モータージャーナリスト・田口浩次)

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