現庁舎解体の可能性も 横浜市が方針転換

◆文化庁の近現代建造物緊急重点調査「最重要」

 移転で市役所としての役目を終える横浜市の現庁舎(中区港町)が、解体される可能性が高まってきた。再開発事業者の「自由度を高める」ことを目的に、市が当初の保存・活用方針を事実上、撤回したからだ。ハマの戦後復興と成長を見続けた歴史的価値を唱える市民や専門家は多く、反対の声も上がっている。

 現庁舎は開港100周年を記念し、日本を代表する建築家、村野藤吾(1891~1984年)の設計で59年に完成。文化庁は2015年度に実施した近現代建造物緊急重点調査で、最重要の一つに位置付けている。新庁舎は20年の完成を目指し、同区の北仲通南地区で建設が進む。

 市都心再生課は来年1月に始める再開発の事業者公募で、現庁舎の保存・活用を条件とはしない。「地域活性化や街並み形成の度合いを公平に評価する。保存・活用を提案したからといって優遇することはない」と、事業者の提案次第で解体もあり得ると認める。

 現庁舎を巡り、市当局は当初、保存の姿勢を明確にしていた。50億円を費やした耐震工事を踏まえ、12年の市会では「お金をかけて免震補強したので(移転後も)使っていきたい」と説明。16年に公表した素案には「関内の歴史を継承する建物として活用を基本」とすると明記した。林文子市長も同年4月の会見で、保存を求める声が多いとして「大変うれしく思う」「昭和の建造物として大変意味がある」と話していた。

 なぜ、保存・活用方針が後退したのか。同課は「市会の議論や民間業者へのサウンディング(意見把握)を参考にした」と説明。17年3月に策定した「実施方針」では「柔軟に対応」する、と曖昧な表現に変わった。関係者は「更地にして開発したい事業者の意向が反映された」と指摘する。

 一方、専門家からは保存の要望が相次いでいる。

 建築史が専門の横浜国大の吉田鋼市名誉教授は「今も古びることなく、気品あるたたずまいだ」と評価する。村野建築に詳しい京都工芸繊維大の松隈洋教授は「合理主義を突き詰めた建物とは違い、街になじむ成熟した建物だ」と存在感の大きさを強調する。日本建築学会(東京都港区、古谷誠章会長)は昨年「戦後日本を代表する優れた近代建築」との声明を出した。

 市は今月下旬にも、現庁舎周辺の在り方について市民意見の募集を始める。

解体の可能性が高まった横浜市の現本庁舎=横浜市中区港町

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