初の結核に関する国連会合——各国首脳は意欲的な公約を

米ニューヨークで行われる国連総会にあわせ、世界の首脳が結核をテーマに集う史上初めてのハイレベル会合が9月26日より開かれる。30年以上にわたって結核治療に取り組んできた国境なき医師団(MSF)は、各国が結核の診断・治療の普及を広げ、効果的で使いやすい検査・治療ツールの研究開発へ投資するなど、各国の首脳が意欲的な公約を掲げるよう訴えている。 

エスワティニ(旧スワジランド)のマンジニで多剤耐性結核とHIVに感染した患者を訪ねるMSFスタッフ。 治療薬の副作用で聴覚を失ったためジェスチャーで会話が行われる(2017年2月撮影)

エスワティニ(旧スワジランド)のマンジニで多剤耐性結核とHIVに感染した患者を訪ねるMSFスタッフ。
治療薬の副作用で聴覚を失ったためジェスチャーで会話が行われる(2017年2月撮影)

診断・治療の普及拡大が急務

結核は世界最大の死者を出す感染症でありながらその対応は遅く不充分だ。世界保健機関(WHO)が9月に発表した結核に関する年次報告書によると、2017年には160万人が命を落としたほか、1000万人が新たに発病した。結核感染者の3人に1人以上が診断されないままという状態が7年も続いており、診断または報告された症例の数が実際の数を下回っていることが大きな問題となっている。

結核症例の報告数がひどく少ない主な理由に、現行の診断・治療法の普及に向けた、各国政府の取り組みの遅さが挙げられる。例えばWHOは2013年、新しい抗結核薬「ベダキリン」を、まず薬剤耐性結核(DR-TB)治療に使用するよう勧告した。だが、ベダキリンをはじめとした新薬の利用は遅々として進まず、2017年に治療で効果があったであろう患者の約90%は、この薬を手に入れられないままであった。WHOの最新の勧告は、ベダキリンをDR-TB感染者全員に対し従来の注射薬の代わりに、主力の治療薬として使うというものであり、各国政府は、より安全で有効かつ注射不要な治療計画の普及拡大に向けた、素早い対応が求められる。

MSFのアフリカ南部医療ユニットで結核/HIV顧問を務めるガブリエッラ・フェルァッツォ医師は、「MSFの活動地で多くの人が苦痛に満ち、防げたはずの死を迎える様を見てきました。そうした人びとには高精度な診断や副作用の少ない治療法が届いていなかったのです。今回の国連会合では有効な診断と治療法を素早く普及させるという公約を掲げ、世界的な結核流行の流れを変えなければなりません」と話す。 

研究開発費用に大胆な投資必要

WHOの報告書によると、多剤耐性結核(MDR-TB)感染者のうち、正確な診断がついて治療を受けられた人は25%にとどまっている。また治療を始められるだけ「幸運」だった人も、2年に及ぶ苦しい闘病生活を経験しなければならない。その間、170回の注射と1万2000錠以上の薬を飲むことになる。どちらも過酷な副作用を伴い、聴覚障害や精神障害どころか自殺に至る場合すらある。しかもMDR-DBの治癒率は、治療を受けた人でもわずか55%にとどまる。

結核の診断と治療ツールの開発は慢性的な研究開発費用の不足に悩まされてきた。治療ツールの大半は1940年代から変わっていない上に、新しい治療薬は過去50年間でたった2つしか開発されていない。ベダキリンを含む新しい治療ツールについて、各国政府はすぐにでも普及に動く必要があるが、一方で簡便で速く治癒にたどり着ける結核の治療法の確立を急ぐ必要がある。新たな治療法、速く単純な診断、有効なワクチンを成人と子どもの両方に開発する必要がある。

MSFの必須医薬品キャンペーンでHIVと結核顧問を務めるシャロナン・リンチは、「ロケットやスマートフォンなどIT技術は飛躍的に進歩しましたが、人類は史上最古の病によっていまだ苦しめられています。この状況を改善するためには、速く、安全で、簡便な結核治療法が必要です。それは各国政府が政治的優先課題として取り組む革新性がなければなりません」と話す。

結核による問題の深刻さにもかかわらず、各国政府からの公約で結核分野の研究開発支援は極度に不足していて、推定によると、要求額と支給額には毎年13億ドル(1466億6990万円)の差が生じている。各国政府は研究に向けた資金援助を拡大しつつ、研究者グループを動かして新しい共同研究モデルも支援していく必要がある。またそうした研究開発によって生まれた成果物には、普及と購入しやすい価格設定が必要だ。 

MSFは30年以上にわたり結核治療に従事してきた。多くの場合まん延国の保健当局と連携して治療にあたり、紛争地帯、都市部のスラム、刑務所、難民キャンプや農村部で活動してきた。 2016年には2700人のDR-TB感染者を含む、2万人以上の結核感染者を支援した。 

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