鑑賞者の気付きを誘う 横浜市民ギャラリー「新・今日の作家展2018」

 現代社会の多様性を表現する"今”ならではの作家や作品を紹介する「新・今日の作家展2018」が、横浜市民ギャラリー(同市西区)で開催中だ。「定点なき視点」をテーマに、表現者自身はもちろん、出会った人々の視点を通した作品によって、鑑賞者が気付かなかった境界線や物事のさまざまな側面に目を向けさせる3人のアーティストがそろった。

 1階の会場には、沖縄在住の阪田清子(きよこ)(46)の作品が広がる。「ゆきかよう舟」は約5メートルの長さの舟の形に、白く輝く塩の結晶を床面に敷き詰めた作品。よく見ると、塩の下には開いた本が何冊も見える。海を巡るイメージから、感覚を広げたいと形にした。

 新潟で育った阪田は「海に行くと、こちら岸、向こう岸といった境界線を意識させられる。日本海はさまざまな陸地に取り囲まれており、実際、いろんな国の言葉で書かれた漂流物が漂着する」と話す。

 「一方、沖縄では、例えば基地問題をとっても、賛成か反対か、なかなか声を上げられない人もいる。あちらにもこちらにも、どこにも行けない、分類されない存在を拾い上げ、声にしていければ」という。いろいろな立ち位置を、塩の舟は自由に行き交う。

 地下には、川村麻純(ますみ)(43)と岩井優(まさる)(43)の作品が並ぶ。

 川村の映像インスタレーションは「Tear Catcher」。日本に居住するイスラム教の人々の埋葬地が足りないというニュースをきっかけに、映像作品に取り組んだ。

 「イスラム教の人々の埋葬法は土葬で、日本では受け入れ場所が少ない。死んだ後で行き場のない人々が日本に存在する。それまで考えたこともなかったが、知らないでは済まされないこと」と川村。

 居住する水戸市内で、敷地の一角をイスラムの人々の埋葬地に貸している寺院で取材。土が盛られた子どもの墓に供えられた花を撮った写真は、ただ野に咲く花を捉えたように見える。

 さらに、100年後の日本の状況をイスラム教の人々が語る趣向で、5章立ての映像にした。

 「人が亡くなったときの悲しい気持ちは、時代や国を超えて共通のもの。美術はドキュメンタリーではなく、フィクションを取り入れられるので、より広く開かれたものができる。私も見る人も、いろいろと考えることができるものを作っていきたい」と話した。

 岩井の映像作品は「作業にまつわる層序学」と題して、それぞれに関連性のない10種類以上の映像を、次々に重ねて映し出す。最下層は2015年にドイツのベルリンで行ったパフォーマンスの記録映像で、細かく裁断した紙ごみを、ほうきで掃いて片付けていくもの。そこに、魚をさばく映像、皿を洗う映像、鶏がえさを食べる映像などがどんどん投影される。前の映像は透けて見えるが、次第に見えづらくなる。

 「例えばコップがあったら、誰が作ったのか、どこから来たのかといろんな想像ができるが、日常生活ではなかなかそんな想像力を発揮できない。日常の中にあるいろんな層の積み重ねが喚起できればいいなと思う」と岩井。

 「片付ける作業のリズムが好きなんでしょうね。ただし、浄化することが過剰になると排除につながる」と警告の意味合いも含む。見えづらくなる映像も「時間が過ぎていくと、そこで過去に何があったか分からなくなってしまう。歴史と同じ」という深い意識づけがある。

 映像を映し出す部屋の床には、同ギャラリーで展覧会の準備などに費やされた紙ごみをシュレッダーにかけて敷き詰める。「拾って投げて遊んでもいいし、ほうきで掃いてもいい。好きに楽しんでほしい」と期待する。

 10月8日まで。入場無料。問い合わせは同ギャラリーTEL045(315)2828。

出品作家の3人。(右から)岩井優、川村麻純、阪田清子=横浜市民ギャラリー

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