当たり前を見直すきっかけに ドキュメンタリー映画「愛と法」

 大阪に暮らすゲイの弁護士“夫夫(ふうふ)”の生活を通して、日本社会の生きづらさや多様性の大切さを伝えるドキュメンタリー映画「愛と法」が、29日から東京・渋谷のユーロスペースで上映される。監督の戸田ひかる(35)=小田原市出身=は、「家族や戸籍の在り方、日本で当たり前に考えられていることをもう一度見直すきっかけになれば」と語る。

 10歳から父親の転勤でオランダに暮らし、欧州社会ではアジア人女性というまなざしが向けられる中、マイノリティーとして育った。「きちょうめんや恥ずかしがり屋など、海外の人が抱く紋切り型の日本人のイメージと常に闘ってきました」と戸田。

 「『LGBT』(性的少数者の一部)を描くというよりも、お互いの弱さを受け入れている二人の姿がすてきだと思ったし、彼らの人間くささにとても引かれました」と二人に出会ってカメラを回し始めた。

 大阪で弁護士として活躍する南和行(カズ)と吉田昌史(フミ)。二人の元には、社会の価値観と法のはざまで苦しむさまざまな市民が訪れる。女性器をモチーフにした作品を発表し、逮捕・起訴された芸術家のろくでなし子や、君が代不起立の処分取り消しを求める元教諭、無戸籍者…。

 「二人は自分たちの経験からいろんな人の痛みが分かるし、そこから人々が隠していたり、隠さざるを得なかったりする日本の“本音”が見えてくると思った」と戸田。

 2年以上、二人の生活をカメラで追った。「普通の枠組みから外れると、日本では排除される。僕たちの姿を見て救われる人もいると思うから映画に出る」とカズとフミから言われた。仕事だけでなく、プライベートもすべてさらけ出す彼らの強い思いを糧に、映画を完成させた。

 今作は「家族とは何か」という問いも投げ掛ける。政治家が同性愛者を「生産性がない」と差別的な発言をする今の日本社会。映画では二人が里親研修に参加する姿を映すなど、多様な家族の型が描かれる。

 「家族の絆とか美しいじゃないですか、でも美しいものが彼らを苦しめているのも事実。そういう矛盾に気付いてほしい」と戸田は言う。

 今作はロンドン大の大学院で映像人類学を学んだ仲間とともに製作し、英国のBBCや米国の女性監督を支援するファンドからも資金を得て完成させた。香港国際映画祭、東京国際映画祭などでも入賞するなど、注目を集めている。

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