超強力打線、補強、救世主…西武の10年ぶりV、終わってみれば「当然の帰結」

西武は今季1度も首位を譲ることなくパ・リーグを制した【写真:荒川祐史】

10年ぶりリーグ制覇の西武の軌跡、ロケットスタートを生んだオフの鍛錬

 2018年のパ・リーグは序盤から首位を快走した西武が1度も首位を譲ることなく、最後までトップを走り続ける形で歓喜のゴールテープを切った。しかし、その事実とは裏腹に、新たな王者となった西武はシーズンを通じて幾度となく危機に陥っていた。前回の日本一からちょうど10年。長きにわたった冬の時代を乗り越え、王座奪還を果たした獅子軍団の軌跡を振り返っていきたい。

 2014年から3年連続のBクラスと低迷期を迎えていた西武だったが、辻監督を新たに迎えた2017年は球団59年ぶりとなる13連勝をマークする快進撃を見せ、2位へと躍進を果たした。

 破竹の連勝を飾っていた時期に話題となったのが、赤を基調とした「炎獅子」ユニホームだった。チームが同ユニホームを着用した試合では20勝4敗という圧倒的な成績を残したことで”縁起物”として話題となったこのユニホームを、球団は本来の着用期間が終わった後の9月にも着用することを決定。しかし「炎獅子」を身にまとって臨んだ9月16日、ソフトバンクとの直接対決で敗れ、相手の歓喜の瞬間を目の当たりにすることになった。

 続くクライマックスシリーズ・ファーストステージでもこのユニホームは使用されたが、西武は初戦を完璧な内容で取ったものの、そこからの2試合は打線が振るわず。抜群の相性を誇っていた楽天にホームで破れ、炎獅子たちのシーズンは終わりを告げた。

 最後の最後で屈辱を味わった若獅子たちは、覇権奪回に向けて鍛錬の秋を過ごした。中でも少なからず話題となったのが、故障もあって捕手としては多くの出場機会を得られていなかった森の、オーストラリア・ウインターリーグでの「武者修行」だ。

 成績は42打数9安打1本塁打3打点、打率.214と今ひとつで、結局左ひざを痛めて早期に帰国する結果となったが、言語が違う投手とコミュニケーションを図った経験が、正捕手をつかむに至った新シーズンの飛躍につながったのかもしれない。

 年が明けて迎えたオープン戦では、前年にわずか78試合で23本塁打を量産し、4番の座を実力で勝ち取った山川が、16試合で2本塁打、打率.136と絶不調に陥ってしまう。しかし、いざシーズンが始まってみるとその懸念は杞憂に終わった。山川は3月と4月の24試合で打率.337、11本塁打、33打点と圧巻の数字を残し、月間MVPに選出される。

 その後も全試合で4番を張り、結局「定位置」を外れたのはオープン戦のみだった。その他の打者も軒並み開幕から好調をキープし、一時は上位から下位まで3割打者がずらりと並ぶ打線が完成。チームは4月までに19勝5敗と14個の貯金を作って、最高のロケットスタートを決めた。

4月からは一転して苦しい展開が続いた5月

 しかし、5月に入ってからは投手が試合を作れない展開が目立つようになり、勢いにやや陰りが見え始める。投手陣に関しては開幕前から懸念されていた点であり、牧田やシュリッター、野上がチームを去った影響は否定できなかった。代役として補強された高木勇、ワグナー、カスティーヨらがその穴を埋められなかったことも、この時期の苦戦につながってしまった面はあるだろう。

 加えて、前年まで不動の守護神を務めた増田と、左の中継ぎとしてフル回転していた武隈がまさかの大不振に陥り、大石も本来の投球を見せられず。さらには野田と平井も安定感を欠き、リリーフ陣は完全に機能不全へと陥りつつあった。

 だが、チームはこの危機的状況の打破に向けて、速やかに動き出す。まず、かつて広島で活躍したヒースを5月に獲得すると、7月には中日で出場機会を失っていた小川と、レッドソックス傘下でプレーしていたマーティンを相次いで迎え入れる。ブルペンの改善に向けて、その本気度が垣間見える補強を敢行した。

 その成果は、勝負どころの夏場になってから表れる。ヒースは速球とナックルカーブを武器に、8月からはカスティーヨの故障で不在となったクローザーに抜擢。その後は現在に至るまで試合を締める役割を全うしている。途中入団ながら40試合に登板して4勝1敗9ホールド11セーブ、防御率2.63という数字を残した右腕は、まさに苦しむチームを立て直した「救世主」と形容できるだろう。

 また2016年に中日で44試合に登板して防御率2.27という実績を残していた小川は、初挑戦となったパ・リーグにもすぐさま適応。幾度となくイニング途中からマウンドに上がってピンチを切り抜け、貴重な「左殺し」として冷静に自らの役割を遂行した。今季は14試合の登板で与えた四死球0とその安定感は際立っており、防御率も0.87を誇る。

9月序盤は苦しい戦いを強いられるも、終盤に大型連勝

 加えて、もう1人の途中加入選手であるマーティンも、初挑戦となった日本球界でそのポテンシャルを発揮。ピンチを背負う場面こそ少なくないが、150キロ超の速球と落差の大きいチェンジアップを武器にイニング数を上回る奪三振数を記録しており、自ら失点の芽を摘み取れる投球が持ち味だ。8月からの登場で、早くもセットアッパーとしての地位を確立し、20試合2勝1敗9ホールド、防御率2.29という好成績を残している。

 そして、シーズン途中ではなく開幕前に補強された選手のうち、忘れてはならないのが、榎田大樹投手だ。岡本洋介投手とのトレードでチームに加わると、序盤戦から安定感のある投球を続け、今や投手陣の屋台骨を支える存在に。キャリアハイの4勝を大きく更新して自身初となる2桁勝利を達成し、先発として完全に一本立ちを果たした。

 このように、補強した4選手がいずれも期待以上の大活躍を見せるという嬉しいサプライズがチームを後押し。7月に入ってからは野田と平井も復調し、これまで素質を高く評価されながら伸び悩んでいた相内も台頭。シーズン後半からは少しずつブルペン全体が安定していき、チームは徐々に盤石の体制を取り戻していった。

 しかし、9月に入ってから最初の10試合は5勝5敗と勝率5割にとどまり、ブルペンが試合をつなぎとめられないケースも散見される。その間に昨季の王者・ソフトバンクが猛追を見せ、優勝争いの先行きは全く見えない状況となりつつあった。

 正念場を迎えたチームを救ったのは、やはり今季のチームの代名詞となった強力打線だ。15日から行われたソフトバンクとの3連戦、ここぞという場面で自慢の打線が爆発。11得点、8得点、8得点と3試合すべてで大量得点を奪い、シーズンの行方を占う3連戦でスイープを決めた。今季の戦いぶりを象徴するような強さを見せつけ、一気にシーズンの趨勢を決定づけたのだ。

 開幕から首位を快走しながら、その戦いぶりは決して盤石ではなかった。しかし、圧倒的な得点力を武器にチームを助けた打線、的確な補強で生じかけた穴を埋めたフロント、これらのアシストを受けてブルペンを安定させ、先発陣からも3人の10勝投手を輩出した投手陣と、終わってみれば各セクションがそれぞれ役割を果たした西武。一度も首位の座を譲ることなく優勝を飾ったことは、ある意味では「当然の帰結」だったのかもしれない。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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