【ノーベル医学生理学賞】 特集 大村智氏と山中伸弥氏の対談

対談する大村智北里大特別栄誉教授(左)と山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長=2018年7月19日午後、甲府市

 10月1日、本庶佑京都大特別教授のノーベル医学生理学賞の受賞が明らかになった。続編として写真特集も組んでいます。

 「ノーベル賞受賞者が語る!―本音で語るノーベル賞への道―」というテーマで今年7月19日、山梨大で大村智北里大特別栄誉教授と山中伸弥京都大iPS細胞研究所長の特別対談が行われた。2人は受賞までの道のりを語り、若い研究者や学生たちにエールを送った。過去の日本人受賞者2人の対談内容を紹介する。研究者を志したいきさつや心掛けていることを中心にまとめた。(構成 共同通信=柴田友明)

 2人の転換点

 大村氏は若いとき、教えていた都内の定時制高校での経験を語った。学校近くの工場で勤務を終えて、通学している生徒が油が付いた手で懸命に試験の答案に向き合っている姿に心打たれたという。仕事と勉学に励む教え子の姿に「これはいかん、(自分も)勉強し直そう」と触発された。「若者の多くが楽な道を行こうとする今こそチャンス。ひと踏ん張りすれば成功できる」と語った。

 山中氏は2年間研修医を経験して大学院に入ったころの話を取り上げた。研修医の時は毎日怒られ、大学院では教科書を見て勉強していたが、試行錯誤の状態が続いた。そんな中で、研究していたことで、仮説と異なる実験結果を得た。「なんでこんな風になるのだろう」と強い探究心が芽生えた。その瞬間に自身が研修医に向いていることに気付いたという。「予想外は誰にでも起こる。がっかりするか、すごいことだと喜ぶかで人生は違ってくる」と研究者としての考えを話した。

 課題

 対談では司会から「日本の科学力低下」を問われ、大村氏は日本の基礎研究の予算が減少していることに危機感を抱き「特に地方大学を活性化させないと、日本全国の活性化はない」と述べた。山中氏は少子高齢化で予算も限られ税収も減るとした上で、ミニ東大、ミニ京大ばかりあっても意味がないといい「(各大学が)もっと特色を出すことが重要」と語った。

 やわらかい話題として、司会者は2人のスポーツ歴についても尋ねた「スポーツで人間力をどう磨いたか」と問われ、大村氏は学生時代にクロスカントリースキーなどを通じて「何があってもくじけない不撓の精神を学んだ」と語った。山中氏もラグビーなどスポーツを懸命にやり、けがをしたときに診てもらった経験から医師を志した話を述べた。

ノーベル医学生理学賞】

 ダイナマイトの発明で知られるアルフレド・ノーベルの遺言により1901年に始まった賞で、世界最高の栄誉。「前年に人類に最も貢献し」「医学・生理学の分野で最も重要な発見をした人」に贈られる。過去の業績の場合もある。日本からは利根川進・米マサチューセッツ工科大教授(87年)、山中伸弥・京都大教授(2012年)、大村智・北里大特別栄誉教授(15年)、大隅良典・東京工業大栄誉教授(16年)の4人がこれまでに受賞している。

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