翁長氏の遺志

 どっちも譲らない。そんな時間が長かったと語っていた。昨年の春、その頃の沖縄県知事、翁長雄志氏の講演を聞いた。知事になる前、県内には「基地の経済効果」を言う保守層がいて、「基地は県民の安全を脅かす」と言う革新派もいて、相反していた▲翁長氏はもともと保守系の政治家だが、安心して暮らす権利も、生活の豊かさも、ともに守られるべきだと訴えた。米軍の普天間飛行場を同じ沖縄県の辺野古に移すという政府の方針はそれを阻む、と▲「辺野古反対」の一点で保守も革新もなく集まる「オール沖縄」を形づくった立役者、それが翁長氏だった。8月に急逝した氏の遺志は新知事に引き継がれる。沖縄知事選で、辺野古移設に反対する玉城デニー氏が初当選した▲「オール沖縄」の結束は弱まったとも聞いたが、県民は「移転反対」を政府に突き付けた。工事を強行すれば反発はもっと強まるに違いない▲玉城氏は移設の賛否を問う県民投票で“抗戦”する構えらしい。結果に法的な拘束力はないが、対決姿勢はより鮮明になる▲「オール沖縄」を形づくるのにも大変な労を払った-翁長氏の話を思い出しては、移設問題の先の道のりも、まだまだ長かろうと思いを致す。安倍晋三首相は選挙結果を「真摯(しんし)に受け止める」らしいが、民意とどう向き合うのか。(徹)

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