金属行人(10月2日付)

 「建設用鋼材の歴史というのは実に面白いよ」と、東海地区の鋼材流通業に50年以上携わる方が言う。その代表がH形鋼。普及にまつわるいい話を、氏が笑顔で教えてくれた▼昭和40年。建設用鋼材としてのH形鋼は、まだ日本でほとんど知られていなかった。S造そのものが普及していなかったせいもあるが、形鋼を張り合わせたり、厚板を加工して鋼構造物ができていた▼鉄鋼メーカーはH形鋼を普及させたい。「新しい鋼材があるよ」と言ってPRはするが、実際に躯体として使われるためには設計者への浸透などとともに、在庫拠点、販売協力者、一次加工などの設備―など具体的なインフラが必要になる▼そこで、メーカーが各地の流通業者に声を掛け、在庫ヤードの開設や販売協力会社にならないか、と持ち掛ける。いわばメーカーと流通は新しい鋼材を普及させる、という夢とロマンを持ち、一体となって取り組んだ。当然、さまざまな思惑が関係者に浮かぶ。また景気の浮沈や政治動向などによって需給と価格は変化する。しかし製販の基本認識は一致していた▼「だが今」と同氏は言う。「時代は変わり、役割も変化した。これからも夢を持ちながら、どう新しい世界を作っていくか。まさに温故知新だね」と。

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