「寄宿学校のジュリエット」宅野誠起(アニメーション監督)×柴宏和(アニメーションプロデューサー)(Rooftop2018年10月号)

難しさというよりは楽しさが強いです

――いよいよ放送開始、今回はキャストが豪華だということも含めて、放送前ですがかなり話題になっていますね。

柴(宏和):そうですね。宣伝の方が頑張ってくれたこともあって、話題にしていただけてありがたいです。ただ、キャストの皆さんに関しては、宅野作品は毎回豪華な方々に集まっていただけているので、監督6作品目にしてようやく視聴者に届いた形なのかなと思っています。

宅野(誠起):今回は女性キャラが多いこともあり、より話題になったのかもしれないですね。

――『山田くんと7人の魔女(以下、やまじょ)』以来の多さですね。掲載誌も同じ週刊少年マガジンでジャンルもラブコメですから、原点に戻ってきたということも含め話題になっているのかもしれないですね。

宅野監督が『恋と嘘』含めて講談社作品としても3作目なので、宅野・講談社ラブコメ三部作にしようかなと思っています。ホイチョイ三部作みたいな。

宅野そうですね(笑)。

――マガジンは雑誌全体としてラブコメが多くなっていますが、その中から『寄宿学校のジュリエット(以下、ジュリエット)』をアニメ化することになったのはなぜですか。

今回は講談社の立石さんからお話をいただきました。ありがたいですね。宅野さんといえばラブコメという認知度もでたということかもしれませんね。

宅野ありがたいことだと思ってます。前作の『恋と嘘』がスタティックで心理描写に力を入れる作品だったこともあり、動きのあるアクション要素の強い作品をやりたいなと思っていたところでした。ヒロインがアイアンクローされたりと、ハチャメチャで毛色の違う作品なので、楽しくやらせていただいています。

――今回は寄宿学校が舞台ということで、一般の学園物に比べさらに閉ざされた世界になるので、シチュエーションに変化を起こしにくい面もあるのかなと思いますが。

宅野そうですね、舞台変化は起こしにくいですね。ただ、ヨーロッパの上流階級のようなテイストで、もともとの舞台が非現実的な雰囲気がありますし、東洋と西洋の争いの中心に島があるという政治的な対立もあるので、そういった部分で助けられています。あまり政治的な面は強くは出てきていませんけどね。

――そこが前に出てくると違う作品になってしまいますからね。

宅野実は1話のアバンに対立のことを世界観の説明として入れようかと思って、絵コンテにもしたんですけど尺があまりにもオーバーしてしまうので、カットしました。

――作品全体の流れを考えると正しいかなと(笑)。尺が足りなくなるくらい第1話からてんこ盛りなんですね。

宅野コメディは展開が早いので短くなることが多いんですけど、ジュリエットはドラマ要素も多いので、むしろ時間が足りない形になりました。

――ドラマの部分とは。

宅野犬塚露壬雄(以下、犬塚)とジュリエット・ペルシア(以下、ペルシア)2人の語り合いだったり、シャルトリュー・ウェスティア(以下、シャル)のペルシアに対しての思いだったりなど、情感をだした演出も必要となってくるので、そこも大事にしています。

――コメディとドラマの切り替えは確かに大変ですね。

宅野難しさというよりは楽しさが強いですね、そこが面白いところだと思っています。シナリオの吉岡(たかを)さんも意識して書いてくれて、助けていただいています。

最大限魅力を出せるように描ければと思っています

――楽しい中で作られているということであれば安心しました。ジュリエットは作品舞台もそうですけど、隠れて付き合っているという部分も昔のラブコメのようですね。

確かにそうですね。第1話で告白して2人は付き合っていくけど、周りには隠していますから。今はあまりないですね。

宅野さらに一途でぶれない。私は特にそこが気持ちがよくて好きです。例えば、狛井蓮季(以下、蓮季)は犬塚に思いを寄せていますが犬塚はペルシア一筋でぶれない。そこに妙な男気があって古風な昭和の男の要素を見出しています。その部分が高倉健さんや菅原文太さんに通ずると思っています。

――(笑)。

宅野ライターの吉岡さんが打ち出したんですけど「今回は男が惚れる男を描く」と、そこが芯にあったうえで女性キャラも魅力的に描く。犬塚という男は、男性から見ても嫌な気にならないキャラだと思います。今回は理想としてああいう男がいいなという思いを込めています。

――女性キャラクターも魅力的なキャラばかりですが、宅野さんはだれ推しですか。

宅野シャルです。

――早い(笑)。

宅野さんはシャル好きだったんだ。

宅野私は昔からああいう風に気丈で強がっている人が好きなんです。強い女性が前進していくのは魅力的だと思います。

――ジュリエットはシャルに限らず、全キャラクターがそうですよね。

宅野そうですね。ペルシアも剣を振り回して戦いますし、男性キャラも女性キャラも気持ちのいいキャラばかりで。

――そこは学園物だと珍しいですね。嫌なキャラ、ライバルというのは物語を展開させる意味でも必要ですから。

宅野そこは金田(陽介)先生の人間性が出ているんだと思います。

――これだけキャラがいると、かぶってしまったりで埋もれてしまうことがありますが、それがなく各キャラが立っているのも凄いですね。

宅野それぞれに魅力的なので、最大限魅力をひき出せるように描ければと思いっています。

――ちなみに男性だと誰がお気に入りですか。

宅野犬塚ですね。ほかは丸流千鶴とかもいいですね、なぜかジュリ男(ジュリエットの男装キャラ)が気になってしまうところが面白いと思っています。

――男装するのも学園物ではあるあるですね。

宅野先日、ジュリ男のアフレコがありましたけど、ジュリエット役の茅野愛衣さんには見事に演じ分けていただけました。

ハーレムものではない

――そこも放送が楽しみです。キャストの皆さんは宅野作品お馴染みの方々も多いですけど、どのように決められたのですか。

オーディションですね。

宅野金田先生と私たちの方向性が合致していて、サクッと決まりました。

――金田先生の中にもイメージはあったのですか。

そうみたいです。蓮季だけイメージが上手くわいていなかったみたいですけど、佐倉綾音さんの演技を聞かれて、これが正解だとおっしゃられていました。

――映像化に際しての金田先生からリクエストはあったのですか。

基本はお任せしていただいていますが、「ハーレムものではない」ということだけはおっしゃられてました。

――確かに、これだけ女性キャラが多くてハーレムものにならないのも最近あまりないですね。

宅野そこが古風なんですよ。

――アニメを見られた金田先生の感想などはいかがですか。

「可愛く描いていただいてありがとうございます」と言っていただけているので安心しています。

――キャラクターデザインも原作から出てきたようなデザインで素晴らしいです。

宅野森本(由布希)さんの描く絵は可愛くて素晴らしいですよね。

――宅野作品はどれも画作りにもこだわられていますから、今回も期待しています。

その点は今回も大丈夫です。

宅野どこをこだわりというのかわかりませんが、それぞれ作品が求めるものがあると思っています。今回はヒロインを可愛く描くことが大事なので、可愛くキラキラした雰囲気になるように撮影処理なども入れていただいています。

――ほか、今作でこだわった部分はありますか。

宅野学園ラブコメということで『やまじょ』と似ている部分も多い作品ですが、見てもらう皆さんには『やまじょ』とは違う楽しみも届けたいので、そこは苦労したところではあります。

――それは宅野ファンとしても楽しみです。いよいよ放送も始まるということで原作ファン、宅野ファンにメッセージをお願いできますか。

宅野今作は要所で主人公とヒロインの激しいガチンコ対決もあるので、ラブコメ好きな方だけでなく、より多くの方に楽しんでいただける物語だと思っています。アニメーションとしてもスタッフの協力のもと、妥協せず、今できる精一杯を詰め込んでいるので是非見ていただきたいです。

宅野さんの作品は『やまじょ』、『恋と嘘』と作品を重ねるごとにいい作品になっていると感じています。今回は、宅野・講談社ラブコメ三部作の集大成でもあるのでご期待ください。ここからさらに新宅野ラブコメ三部作につなげていきます。

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