ファイヤーダンス失敗&ボウルに一杯のポテトサラダ(Roftop2018年10月号)

何者でもなかったもの同士の出会い

——まずは自己紹介から…。

山口:ファイヤーダンス失敗です。本名は山口慎太郎です。

永田:ボウルに一杯のポテトサラダです。本名は永田詞也です。

——本名も言っていくスタイルなんですね(笑)。

山口:そうですね(笑)。本名も売っていきたいんで。ややこしいんですけど、ラジオネームのほうが知名度あって…けど初対面の方に言うと『こいつカマしてきたな』ってなるんで。

——作品についてはイベントでたくさんお話いただきたいので、今回はお二人の人となりをメインに聞いてみたいとおもいます。早速ですが、お二人はどういったきっかけで投稿をはじめたんですか?

山口:僕はバナナマンさんが好きで、兄からラジオやってるよと教えてもらって聞いてみたら面白くて。なんとなく試しにハガキを送ったら、たまたま読まれて、その衝撃がすごくて…。仕込みとかじゃなくて本当に読まれるんだ! っていう。作家になりたくて送っている人がわりと多いとは思うんですが僕は単純にバナナマンのお二人に読まれて安心したいという気持ちからでしたね。2013年くらいの話です。

永田:僕は2014年くらいの…25歳くらいのときに、僕はずっと大阪にいたんですけど全然友達もいなくてラジオも聞いたことなくて。でもテレビで見るバナナマンさんは好きで、動画サイトでたまたまラジオの存在を知って、『知らないところでこんな面白いことやってるんだ!』と。山口くんと同じくなんとなく送ってみたハガキが読まれて。何者でもなかったのがちょっとだけ何者かになれた感覚がありました。

山口:そうそう!

——そのころお互いのことはご存知だったんですか?

永田:ファイヤーダンス失敗って名前は僕が投稿し始めたときから知ってたんですけど…。

山口:ぼくもポテサラの名前はラジオで聞いて知ってましたね。実際会ったのは…TBSのラジオ番組が集まるラジフェスっていうイベントがあって、リスナー同士もその場でオフ会みたいに実際会ってつながったりするんですが、実は僕あんまり他のハガキ職人とは会いたくなかったんですよ。ハガキ職人って全員きもちわりいなって思ってたんで。

永田:それ載せて大丈夫?! (笑)

山口:まあまあいいんじゃない? (笑)。会いたくなかったんですけど、ラジオパーソナリティの人たちを見られたらいいなってイベントに行ったら、たまたま「ぺっちゃん」っていう僕たちより長年投稿しているハガキ職人と知り合って、それからぺっちゃんとは毎年会う感じになって、ある年からポテサラも参入してきて。

永田:僕もぺっちゃんと最初に仲良くなって、僕が初めてラジフェス行った年はファイヤーダンス失敗は来てなかったんですけど、ラジフェス終わった夜にぺっちゃんから『ファイヤーダンス失敗ん家行こうよ』って誘われて、そこが出会いですね。

東京と創作エネルギー

——永田さんのご出身は大阪とのことですが、どんなタイミングで上京されたんですか?

永田:僕はずっと大阪に住んでて、東京来るつもりもまったくなくてラジフェスでぺっちゃんと会った時に『大阪に全然友達いないんよー』って相談したら『じゃあ東京くればいいじゃん!』って言われて『あ、そっか、別にいいのか。好きなとこ行けるのか。』って思って。最終的な決め手は今年の1月に山口から今回の作品を一緒につくろうよって言われたことですかね。

——山口さんは東京出身ですか?

山口:僕は出身が熊本で大学進学とバンドをやるために上京したんですけどバンドも音楽向いてないなと思って抜けちゃって。一緒に上京した彼女にもフラれ…『やべえなんもなくなっちゃった…大学にも友達いないし、これはやばいな…』って思った時にラジオに出会ったんで依存しちゃいましたね。もう東京には慣れましたけど未だにしんどい街だと思ってます。好きですけど、ずっといるとは思いますけど。

——しんどい街…どんなときにそう思うんですか?

山口:たまに熊本の実家に帰ると何も書けなくなるんですよ。それってたぶん人同士のつながりが強いからか、『どうにかなるんじゃね?』みたいな、たぶん南特有の空気もあるんでしょうけど、危機感が薄くて。東京はちょっと油断したら明日死ぬやん! って思うのが、それが逆にエネルギーになるというか。

永田:といいつつ東京らしい街好きだよね、新宿とか渋谷とか。

山口:代官山とかね。気合いが入るんで。

——この『東京オリンピックまでにどうにかしたい七個のこと』をつくるきっかけはなんだったんですか?

山口:僕、ずっと脚本のコンテストに応募しては1次、2次で落とされてて。そんななかでもたまに脚本依頼とかはもらえているんですけど、嬉しい反面、明確な代表作といえるものがないので代名詞的な作品があればいいなと思いまして。

——お二人で脚本を書かれたとのことですが、永田さんを誘おうと思ったのは?

山口:作ろうとしている作品にお笑いの要素が多くなってくるなあといろいろ考えているそんなときにハガキ職人集まって大喜利をする集まりがあって、そこでポテサラがお笑い作家的なうまい回答をバンバン出すから、『あ、この人は作家的な考え方をする人なんだな、この人いてくれたらいろいろ円滑に進みそうだな』と思って、すぐに一緒にやりませんか、って誘って作っていった感じですね。

永田:ここ絶対つかってくださいね。

山口:褒められて喜んでる! (笑)

——永田さんは誘われた時どうでした?

永田:一緒にやりませんかって言われて、いままで1人でラジオ投稿するだけでなにか作品を作ろうと思ったことがなかったから、『やったー!』ってすごい嬉しくて。あと誘われてすぐくらいに山口がツイッターで『身の回りの面白い人さそってなんかつくります』っていってて、『身の回りって大阪も含めるんだ!』って思いました。400km以上離れてるのに身の回りって。(笑)

コメディードラマ・『東京オリンピックまでにどうにかしたい七個のこと』

——一本の映画ではなく7話のドラマ形式というのはなにかこだわりが?

山口:僕自身、正直映画っていうものに飽き飽きしていて、カロリーが低いように見せないと見れないなあと。家でバラエティ番組を見るテンションと、アメリカの1930年代の映画を見るテンションって全然違うじゃないですか。構えて『よし観るぞ!』って気合い入れないと見れないって入り口が面倒くさくて。それよりももっと気軽にパチっと見てもらえるように各話に分断しててしかもワンシチュエーションのコメディで、薄味の感じで観れるように7話のドラマ形式にしました。

——ドラマはどういった内容でしょうか?

永田:あらすじとしては、2020年の東京オリンピックに向けて『東京五輪特別治安維持法』というオリンピックで外国人が日本に来た時に悪影響に思える人は閉じ込めておくという法律ができたとしたらどうするか?という話なんですが、普通なら壮大な出来事として話を広げると思うんですけど、その法律がありつつ、普通の4人の若者の普段の生活を撮りたかったんです。

山口:架空の法律と、普段の生活の空気感っていうフィクションとノンフィクションを綺麗に融け合わせたっていうのは自信があります。見ているひとも自分に置き換えて見ていただけるんじゃないかと。

永田:作品全体を通して”悩み”というテーマがあって、悩みをかっこよく解決するのが定番だとは思うんですけど、20代の悩みの特性として、僕は『先延ばしにできる』っていうのがあると思うんです。

山口:そう! ポテサラはずっとそれを言っていて。

永田:僕は年齢的にもうあんまり先延ばしにできる感覚が薄くなっていて。

山口:その感覚の違いが面白かったですね、説得力があって。確かに俺ら20代前半には先延ばしにできるっていうのがあるわ、と。

永田:先延ばしにしてもいいと思うんですよ。そういう解決の方法もあるよって伝えたいです。

山口:いいやつ。

——最後になりますが、せっかくなのでお互いの印象とか聞いときますか? (笑)

永田:山口は…僕より感情を出せるし感情のエネルギーで何かできるひとです。怒りとかのエネルギーがすごい。

山口:ぼくの怒りのパワーは凄まじいですよ。良くも悪くも友達の前でもずっと怒ってたりします。ポテサラはそれシカトしてその横でグミ食ってる。

永田:面白がってね(笑)。

山口:ポテサラは…朴訥。

永田:ダサいて!

山口:穏やか(笑)。いやでも本当にそうで。僕が感情の振り幅が大きすぎて自分で追いつけないくらいなんですけど、ポテサラは僕がむちゃくちゃになりそうな時につなぎ止めてくれる人というか。ブレないから安心します。おかげで僕は死なずに済んでる。精神安定剤。

——本当にいいバランスのおふたりですね!

山口:ズッ友。

永田:ズッ友やな。

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