「横浜FCのJ1昇格を左右する、“指揮官のマネジメント力”とは」

リーグ戦残り6試合となった今季のJ2。優勝争い及び昇格争いは激しさを増してきた。

5連勝を飾った大分トリニータが首位へ再浮上し、勝点で並ぶ2位・松本山雅とともに昇格戦線をリード。しかし、勝点差4の3位・町田ゼルビアは2試合消化が少ないため、町田が首位を奪還する可能性も十分ある。

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3位から6位のチームが参戦できるJ1参入プレーオフを巡る争いも熾烈を極めているが、今回の当コラムでは、12年ぶりとなる昇格へ向け歩みを進める横浜FCにフォーカスを当て、チームを支えるキーマンや指揮官の采配に触れていきたい。

■個の力を活かす3-5-1-1がメイン

昨年10月に就任したタヴァレス監督は、3バックと4バックを併用しつつ、個の力を最大限活かす3-5-1-1を基本形に据えている。守護神は百戦錬磨の南雄太で、最終ラインは右から右SBもこなす藤井悠太、今夏に加入した田代真一、攻撃参加も光るカルフィン・ヨン・ア・ピンの3人。

アンカーは主将の佐藤謙介で、ウイングバックは右に北爪健吾、左に武田英二郎。汗かき役の渡邊一仁と進境著しい齋藤功佑がインサイドハーフを務め、トップ下に司令塔のレアンドロ・ドミンゲス、最前線にエースのイバが入る。

■コンセプトを支えるキーマンたち

チームの基本コンセプトは「ロングカウンター」だ。自陣のやや深めの位置にブロックを形成し、奪ったボールは素早く前線に預け、逆襲を仕掛ける。

戦術の根幹を担うのが、L・ドミンゲス&イバの両助っ人だ。

卓越したスキルを持つ前者は、パスセンスを活かし配球役として絶大な存在感を発揮。密集地帯でもボールを失わないキープ力に衰えの色はなく、プレースキックの精度も流石だ。

また、得点源として君臨する後者は、両足と頭どこからでもゴールを奪えるフィニッシュワークの多彩さが魅力。長身を利したポストプレー、中盤に降りてのチャンスメイクにも冴えを見せ、まさに“ヨコハマのイブラ”と呼ぶに相応しい実力者である。

更に、飛躍の時を迎えた北爪も見逃せないプレーヤーだ。

爆発的なスピードを誇るだけに、「ロングカウンター」との相性は抜群。一気にサイドを駆け上がり、決定的な仕事をこなす背番号14は相手に脅威を与えている。29試合に出場して4ゴール・8アシストを記録するなど、数字上のインパクトも◎だ。

そして、アンカーの佐藤は文字通り不可欠な存在である。気の利いたプレーを黙々とし続けるキャプテンは玄人好みの仕事人。

“ピッチ上の指揮官”として振る舞いつつバランスを取り、機を見た攻撃参加で得点にも絡む姿は、地味だが貢献度が非常に高い。

■有事に問われるのは…

ここまで4人のキーマンを挙げたが、選手たちの力を最大限引き出しているのがタヴァレス監督だ。

豊富な指導歴を誇るブラジル人指揮官は、フォーメーションを固定せず、時々に応じた布陣を採用して持ち駒を活かす術に長けている。カルロ・アンチェロッティ(ナポリ)やマッシミリアーノ・アッレグリ(ユヴェントス)と同じタイプだと言えるだろう。

現行の3-5-1-1も理に適った布陣である。飛び抜けた得点力を持つイバを絶対軸とし、サポート役にL・ドミンゲスを指名。これにより、イバは孤立することなくフィニッシュに集中できる環境が整ったのだ。自由に動き回るL・ドミンゲスにとっても、サイドよりトップ下で起用された方が持ち味を発揮しやすいはずだ。

この両者は年齢的な面を考えても、攻守にエネルギッシュに動き回ることが厳しい。ハイプレスを用いることが難しいのであれば、最終ラインを低めに設定し、ロングカウンターを仕掛けた方が理に適う。

カウンターであれば北爪のスピードも活かせるし、キープ力のあるイバ&L・ドミンゲスも生き生きとプレーできる。まさに適材適所の人材配置なのだ。

ここまで36試合を終えて、16勝12分8敗の7位。5位の大宮アルディージャ、6位の東京ヴェルディとは勝点で並んでおり、J1参入プレーオフ進出は十分に達成可能だ。上位陣の結果次第ではあるが、自動昇格の芽も残されている。

複数の布陣を上手く併用してきた指揮官にとって、残り6試合(+プレーオフ)は昇格に向けたラストスパートとなる。もっとも避けたいのは、主力の負傷離脱や出場停止による欠場だろう。特にイバ&L・ドミンゲスを失うようなことがあれば、戦力ダウンは否めない。

有事の際に問われるのは、指揮官のマネジメント力となる。

L・ドミンゲスを欠いた23節のアルビレックス新潟戦、24節のFC岐阜戦では、最終ライン及び中盤の形は変えずに2トップを採用。いずれも完封勝利を収めている。

前述した通り、タヴァレス監督は戦況に応じてシステムを変え、最善策を見出すタイプの指揮官だ。

35節のレノファ山口戦では、1点を追う展開で瀬沼優司と戸島章を並べる4-4-2にシフトチェンジ。ロングボールを長身2トップに集める形を披露した。反撃実らず2対3で敗れてしまったものの、新たな一手を試すことができたのは今後に向けた収穫だろう。

他にも4-2-3-1やクリスマスツリーの4-3-2-1がオプションとなっており、シチュエーションごとに異なる布陣で戦える柔軟性はリーグでも屈指だ。これらのオプションは、イバ&L・ドミンゲスにアクシデントがあった際はもちろん、徹底マークで封じられた場合でも効果を発揮するはず。

2007年以来となるJ1返り咲きに向け、ラスト2か月は指揮官の采配にも要注目だ。

2018/10/07 written by ロッシ

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