カタルーニャ前州首相 独立へ変わらぬ闘志  スペイン出国後初めて日本メディアに語る 住民投票1年 

スペイン・カタルーニャ自治州で住民投票から1年を記念し、デモ行進する学生 ら=1日、バルセロナ

 全世界の注目を浴びたスペイン北東部カタルーニャ自治州の独立を問う住民投票から10月1日で1年がたった。昨年、州トップとして中央政府の反対を無視して投票を強行したプチデモン前州首相は、スペイン当局による反逆容疑などでの捜査を逃れ、ベルギーを拠点に独立運動を続ける。スペイン出国後、初めて日本メディアのインタビューに応じ、変わらぬ闘志を見せた。(共同通信・パリ支局=永田潤)

 ―投票を強行した決断をどう振り返るか。

 「(国を離れ)個人的につらい境遇ではあるが、状況の変化を求めたことは正しかった。表現の自由が抑圧されるような状態では生きられない。私たちが行ったことを誇りに思う

 ―あなたは国を離れ、拘束されたままの同僚もいる。予想していたか。

 「強権的なスペイン国家の伝統と異なる対応を期待したが、私たち(の予想)は間違っていた

 ―ベルギーへ来ることは予期しなかったのか。

 「最良から最悪まで全てのシナリオを話し合った。これは最悪だ。国が抑圧を選んだ結果、活動を続けるための対応をしなければならなかった。残っていたら、今は何もできないだろう

 ―住民投票では賛成多数だったが、世論調査の賛否は割れている。独立の民主的正当性は。

 「投票は民主的手続きに基づいて行われ、非暴力で意思を表明した。一部の市民が独立の考えを共有しないのは事実だ。独立を妨げるためボイコットを望んだ政党もあるが(投票という)正当な考えをボイコットするのは正当でない。(民族)自決権の行使について中央政府が協議に応じる可能性が全くなければ(投票を)行う必要がある

 ―欧州連合(EU)の反応は冷ややかだった。

 「EUがカタルーニャの独立を支持するとは思っていなかった。問題を知ってもらう段階だ。ただがっかりしたのは(中央政府による)表現の自由の侵害に対しEUが黙っていたことだ

インタビューに応じるスペイン北東部カタルーニャ自治州のプチデモン前州首相

 ―後継のトラ州政権との関係は。

 「テレビ会議などを通じて常に意見を交換している。関係は非常に緊密だ。しかし州政府の政治的な決定をしているのは私ではない

 ―真のトップはあなたなのでは。

 「行政の長はトラ氏だ。もちろん私には政治的リーダーシップがある。(昨年12月の州議選で自らの党派の)比例名簿1位だった責任がある。影響力がないわけではない。トラ氏を支えている

 ―中央政府のサンチェス新首相は対話を呼び掛けている。

 「私たちはラホイ前首相に対話を求めてきた。小さな変化だが、私たちに何を提案するのか全く分からない。私たちには独立したカタルーニャ共和国を目指す考えがある。私たちはいつでも(対話の)テーブルに着く

 ―条件はないのか。

 「唯一の条件は(自決権を行使するため住民投票を行うという)私たちの考えを尊重することだ。私たちは中央政府がカタルーニャの独立を認めることを対話の前提条件にしたりはしない。200万人を超す人々が独立賛成に票を投じた。これはさまつなことではない。このことを話し合わなければならない

 ―あなた方が訴えるカタルーニャにとっての「不公正」とは何か。

 「私たちの現実を管理する手だてがない。州議会に闘牛を禁止する権限はない。港や空港は中央政府の管轄だ。カタルーニャで勤務する裁判官にカタルーニャ語能力を義務づけられない。私たちの金を全てポケットに入れておきたいわけじゃなく、スペインとの連帯を続けたい。しかし中央に納める税に比べ、この地域への投資は少なすぎる。富を失い続けるのは受け入れられない

 ―独立して、スペインと連帯し続けることはできるのか。

 「EUの枠組みで可能だ。スペインに敵対するわけではない。スペイン語もカタルーニャ語と並んで使い続ける

 ―今後の方針は。

 「争いは終結にはほど遠い。(独立を目指す)立場を維持し、私たちの存在をスペインと欧州に訴え続ける

 ―帰国しないのか。

 「毎日、今日が亡命の最終日と思って取り組んでいる

 ―スペインで逮捕状は出たままだ。

 「(帰国は)私の声を絶つことになる。拘束されれば何もできない。選択肢ではない

   ×   ×   ×   

 1日、カタルーニャ州の州都バルセロナでは独立派住民が大規模なデモを行い、改めて気勢を上げた。ただ反独立派もデモなどを通じて声を上げるようになり、溝は深まった印象だ。また独立派の党派間では、強硬姿勢を貫くプチデモン氏らのグループと現実路線に転じたグループの間に亀裂が生じ、一枚岩が崩れた。独立運動の行く末は一層不透明となっている。

スペイン・カタルーニャ自治州での住民投票から1年を記念したデモに集まり「(民族)自決は人権だ」と書かれた横断幕を広げる市民ら=1日、バルセロナ

カタルーニャ独立問題
 スペイン北東部カタルーニャ自治州は独自の文化を持ち、商工業の発展で裕福な地域として知られる。2010年前後のスペイン経済危機で住民が中央政府に不満を募らせたのを背景に独立派が州議会の多数を握り、プチデモン氏が首相を務めていた州政府は昨年10月1日、独立の是非を問う住民投票を強行。約9割が賛成だったとして州議会は同月27日、一方的に独立を宣言した。これに対し、中央政府は州自治権を停止。12月の州議会選で独立派が再び過半数を獲得し、今年5月にトラ新首相が選出され、6月に自治権を回復した。

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