【現場を歩く】〈インドネシア・ジャカルタ近郊のインフラ事情〉地下鉄・モノレール工事など急ピッチ メーカー・ゼネコン・商社など日系企業、大きく貢献

 インドネシア・ジャカルタ近郊の交通渋滞は、もはや名物の感すらある。国内では二輪車の販売が600万台前後、四輪車の販売が100万台前後と見られているが、周辺のインフラ整備が追い付いていないためだ。こうした慢性的な渋滞を解消すべく、ジャカルタ市内の地下鉄工事、市内と近郊を結ぶモノレールの整備などがいま急ピッチで進められている。また、ジャカルタ北部の国際港「タンジュンプリオク港」も、現政権の「海洋国家構想」に合わせて能力拡大を計画中。現地インフラ整備の現状と今後の進捗動向を実際の現場から探る。(後藤 隆博)

高速道路、モノレール

 ジャカルタ市内から東側に伸びるチカンペック高速道路沿いには、同市から半径70キロ圏内に日系商社やゼネコンが開発した多くの工業団地が隣接する。ただこの高速道路も、慢性的な交通渋滞に悩まされている。

 そこで現在、このチカンペック高速道路の高架工事が進行中。既存高速道路の中央分離帯を活用して工事は至るところで進められているが、具体的な開通時期がまだ見えてこない。現地工業団地に進出している日系メーカーでは「高架工事による車線規制などで、むしろ渋滞がひどくなった」との声もある。

 ジャカルタと郊外を結ぶもう一つのインフラとして注目されているのが、モノレールLRT(Light Rail Transit)だ。ジャカルタ東のブカシ、西のスナヤン、南のボゴール、郊外西北部にあるスカルノ・ハッタ国際空港などを結ぶ全長130キロが計画されている。当初04年に着工されたが資金不足などで一時中断。その後13年に中国資本が出資して再開されたが再度キャンセルになった計画に代わるプロジェクトだ。チカンペック高速道路沿いには、並行する形で工事中のLRTの橋桁が所々に並ぶ。

 LRTは運輸省とアディ・カルヤが管理、建設を行っている。政府は第1期路線について、19年4月の試験運行、翌5月の運行開始を目指しているが、予定通り工事が進むかはなお不透明だ。

ジャカルタの地下鉄

 ジャカルタ市内では都市高速鉄道MRT(Mass Rapid Transit)の整備が進んでいる。延長23・8キロの南北線と87キロになる2本の東西線、全長111キロのプロジェクト。現在、北のブンデランHIから南のレバブルスまでフェーズ1(第一期工事)が佳境に入っている。同工事の総事業費は1421億円で、日本政府は土木、軌道工事、車両調達などのため計1233億円余りの日本タイドの円借款を供与した。

 フェーズ1区間の15・6キロは6工区(CP101~106)に分割され、それぞれ清水建設、大林組、三井住友建設、東急建設の日系ゼネコンが幹事会社となり、現地企業とJVを組んで工事を進めている。今回、現地でフェーズ1区間のうちCP104~105にあるセナヤン駅の工事現場を訪れた。

 同区間は全長3・89キロで、清水建設・大林組と現地企業のJVが担当。駅は全4駅ある。13年8月に着工し、来年3月に竣工予定。

 地下移行開削部は延長460メートルで、シールドトンネル(内径6・05メートル)2・6キロを2本掘った。同工事はインドネシア初のシールドトンネルで、シールドマシンは日本のジャパントンネルシステムズ(JTSC)から搬入した。

 工事の運営方法や安全基準などはすべて日本基準に準拠した。また、円借款案件なので日本の技術供与も課題だった。シールドマシンでの工事も、現地での技術指導を経て最終的に現地スタッフのみで掘れるようになったという。

 南北線の車両(96両、16台分)は住友商事と日本車輛製造が受注。フェーズ1区間の鉄道システム一式・軌道工事については、三井物産、神戸製鋼所、東洋エンジと同社の現地グループ会社IKPTの4社からなるメトロワンコンソーシアムが受注した。

 フェーズ1区間については、現在試運転も開始。総延長111キロのMRT全線の操業開始は、2024年ごろが見込まれている。

成長戦略「海洋国家構想」推進/国際港の能力拡大、海運サービス向上目指す

タンジュンプリオク港

 ジャカルタの中心部から北東約20キロに位置するインドネシア最大の国際港であるタンジュンプリオク港。チカンペック高速道路沿いにある工業団地で使用される資機材などはほとんどが同港を介する。現在のジョコ・ウィドド政権は成長戦略の目玉として「海洋国家構想」を打ち出しており、海運サービス企業の能力向上などを目指している。タンジュンプリオル港はその物流ハブとして位置づけられており、能力の拡大が計画されている。

 タンジュンプリオク港の年間取扱数能力は、国内外合わせて600万TEU(1TEU=20フィートコンテナ1個分)。日本の東京港(同470万TEU)よりも多く、将来的には1千万TEUを目指すとしている。国際港としては東南アジアの主要港をカバーしており、今春からはヨーロッパ便も舟行している。今回は、同地の一角でコンテナターミナルを運営するニュープリオク・コンテナターミナルワン(NPCT1)を訪問した。

 NPCT1は三井物産や日系海運会社、シンガポール企業と現地港湾公社の共同出資で16年8月に設立。ヤード面積は32ヘクタールで、岸壁の全長は850メートルある。世界最大級の岸壁クレーン8基、ヤードクレーン20基(ともに三井造船製)を設置。取扱可能船サイズは全長400メートル、1万4千TEUとなっている。取扱能力は150万TEU。

 NPCT1は操業以来順調に稼働している。取扱数量増大にともない、今後ヤードクレーンを4基増設する予定。また、コンテナターミナル(CT)のCT2、CT3と石油備蓄基地などのプロダクトターミナル(PT)のPT1、PT2を増強予定。「フェーズ1」として、2020年までに立ち上げる計画となっている。CTは、最大7までの増強が検討されている。

 タンジュンプリオク港の増強整備と合わせて、内陸部へのアクセス改善も図られている。チカンペック高速道路に繋がるバイパスの外環道(Jalan Toll Cibitung Cilincing=JTCC)が19年、NPCT1とJTCCを結ぶニュープリオクイースタンアクセス(NPEA)が21年にそれぞれ開通予定。チカンペック高速道路沿いにある日系工業団地への搬出入が大幅に改善される。

 道路、地下鉄、港湾と多方面からインフラ整備が急ピッチで進むジャカルタ。現在、インドネシアの1人当たりのGDPは4千ドルをうかがい、経済成長率も5%前後を維持している。各種インフラ整備の進捗状況は、インドネシアのさらなる成長を占う上での重要な要素となりそうだ。

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