<再ブレーク盤> 藤田麻衣子『惚れ歌』 シンガーソングライターによる初カバー集

藤田麻衣子『惚れ歌』

 インディーズから10年以上活動する女性シンガーソングライターの初カバー集。90年代中心の原曲はヒット狙いの演奏も歌声も食い気味で今聞くとトゥー・マッチに感じるかも。本作はそんな人にオススメ。

 ヒット・カバーの10曲は、89年の『シングル・アゲイン』から03年の『雪の華』まで4つの男性曲と6つの女性曲が選ばれているが、圧倒的に男性曲が面白い。具体的に、槇原敬之の『もう恋なんてしない』は、スロー・バラードに変わり、失恋後の未来より失恋への未練が強くなる。また、ポルノグラフィティ『サウダージ』も、スローなテンポと透明な藤田の歌声から、従順なはずの女性が異国で思いがけず恋に落ちた姿が浮かぶ。

 女性曲は大半がバラードなので、元々女性が歌っていた原曲からの変化が少ない(それでも、ZARD『揺れる想い』は穏やかな歌声で、海の季節が変わって面白い)。ただ、ボーナス的に収録された藤田の代表曲『手紙~愛するあなた~』のセルフカバーは、弦楽器隊とピアノという構成で、両親への感謝がよりドラマティックに映る。ちなみに、全編曲は、鬼束ちひろ『月光』など繊細さを得意とする羽毛田丈史が担当。

 本作を聴けば、控えめな人や声なき植物にさえ、より気を配るようになるはず。

(ビクター・CD+DVD初回限定盤3700円+税)=臼井孝

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