聴いた人が「こいつはひどいな、俺はまだ大丈夫だな」って思ってくれればいい
——1stアルバムとはちょっと違う雰囲気ですね。前作はグッときたし感動したし、ちゃんとしたアルバムだったと思うけど、今作はなんていうか、音も歌詞もリアル過ぎる（笑）。
FUCKER：そうなんですよね～（笑）。1stは内さん(内大介/ツクモガミ)が作りたいって言ってくれて、レコーディングは完全にお任せなんです。選曲もお任せ。俺には作れない感じのものにしてくれて凄い感謝してます。で、今回は自分でやろうと。自分のそのまんまを出そうと。
——パーソナル過ぎるアルバムになりましたね（笑）。なんか、感動させたいとか何かを伝えたいとか、一切ないような（笑）。
FUCKER：そうなんですよね～（笑）。
——そもそも弾き語りは、自分のそのまんまを曝け出したいってとこから始まったんですか?
FUCKER：いや、弾き語りを始めたのはそれしかなかったから。当時、バンドを辞めるってことになったし、新しくバンドを作る気もなかったし。弾き語りしかないぞと。まぁ、やってないことをわざとやる、無謀なことを敢えてやろうっていう。そういう気持ちはありました。
——実際、谷ぐちさんが弾き語りをやるって聞いた時、意外だと思いました。でも、今は弾き語りが谷ぐちさんそのものになっている感じで、それまでやってなかったことがむしろ意外に思えるぐらい。
FUCKER：後付けに気づいてきますよね、どんどん。実際、これしかないし、これならいつまでもできるかなっていうのもあるし。
——ちょっと弾き語りを始めるまでのことを振り返ってもらいますが。それまではずっとバンドマンとしてやってきたわけで。
FUCKER：今思い返してみれば、ムチャクチャやろうが何やろうが知ったこっちゃねぇって感じでずっとやってきたんですよね。音楽活動も生活も。生活がハチャメチャじゃないとハチャメチャな音楽は作れないと思っていたから。捨て身で、何も怖いものもねぇみたいな。バンドやってカッコイイ音楽やってればOKでしょって。人を傷つけようが何しようが。ま、傷つけようとは思ってないけど、自分さえよければいいって思ってました。調子に乗ってたし。今はそれは絶対ないです。温和です（笑）。
——生活と音楽活動は繋がっているっていうのは、昔も今も変わらないですよね。
FUCKER：変わらないです。でもそのベクトルが変わってきたっていう。
——YUKARIちゃんと結婚して共鳴くんが生まれて。生活も意識も変わりますよね。
FUCKER：メッチャ変わりました。いや、でも最初の頃はまだ惰性というか。共鳴も生まれて、自分だけじゃない、家族ができたって、そこらへんで考えは変わってたけど、でも明確なビジョンが開けてたわけじゃなく。惰性もね、あったんですよね。
——考えは変わってきたけど、すぐに実践できるわけじゃないかもしれない。
FUCKER：そう。行動が伴ってなかったんですよね。それでまさに『きなこ オン ザ ライス』の状況に、「きなこ オン ザ ライス」を食べる生活になって（笑）。まぁ、いろいろ考える時間ができたんで。それからですよね、変わったのは。これからどうするかってことを、しっかり作戦を練る時間があったんで。それまで凄い雑だったなって思ったんで。少しでも返せるように、恩返しの気持ちというか。レーベル、バンドの仲間、何よりも家族。音楽は余裕があればできたらいいなってぐらいで。でもまぁ、弾き語りなら細々とできるじゃないですか。生活の合間に浮かんだフレーズとかをボイスメモに録ったりして。弾き語りはそうやって始まったんです。
——そしたら歌いたいことはたくさん出てきた?
FUCKER：いや、何がやりたいかとか明確にはなかったんです。歌うぞってなった時に、自分で歌詞書いて自分の歌なんて作れるのか?って一瞬思ったんです。でもまぁ、経験してきたことを書けばいいかと。決めてたのは、詩的な表現は一切使わない歌にしようと。ガラでもないことはやらない。すると、こんなこと普通歌う?、みたいなものばっかりになって（笑）。フォークやるにあたって、なぎら健壱は凄い好きなんですよ。なぎら健壱とECD。ECDも剝き出しじゃないですか。そういうとこから自分のスタイルでやれるかなって。
——今作も、私、「何かを伝えたいとか一切ないようなアルバム」って言ったけど、だからこそ出てくるリアリティとか人間の可笑しみとか、それは凄く伝わる。
FUCKER：間抜けだし、人間っていろいろあるじゃないですか。それを曝け出して。聴いた人が、「こいつはひどいな、俺はまだ大丈夫だな」って思ってくれればいいなぁって。でも俺自身が、もう少し感動が入ってもいいんじゃねえか？ って思いますけど（笑）。
——でも「鮎子とFUCKERのムーンライト・ソナタ」は泣きそうになった。
FUCKER：泣きそうになりました？
——ピアノも悲しいし、ショボイのに大袈裟だし（笑）。
FUCKER：一切の装飾なしで。どの曲も。
——ここまで飾らないの、逆に難しいような。
FUCKER：そこで勝負したいと。
全然パンクじゃないものをやっているんだけど「やっぱりパンクだね」って
——あ、「サイコキラー77歳」はトーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」をモチーフに。
FUCKER：ふざけてますよね（笑）。アレもムチャクチャな曲ですよね。とにかく極端なことをやりたいっていうのはずっと常に思ってますね。誰もやらないようなことを。思いついてもやらないようなことを（笑）。
——やっぱりずっとパンクにこだわってますよね？
FUCKER：そうですね。パンクとかハードコアに。
——あの、私はかつては「パンクはこうじゃなきゃいかん」「パンクはコレだ」みたいなとこから出てくるものがカッコいいパンクだと思ってたけど、谷ぐちさんやless than TVの音楽は、「そんなものは取り払ったものこそがパンク」っていう、新しいパンクの価値観を教えてくれて。
FUCKER：そうですね。そうかも。
——だから今の谷ぐちさんの弾き語りもやっばりバンクで。自分ではどう思いますか？
FUCKER：そうですね…。今やってることって完全にパンクではないと思うんです。自分では、ハードコアフォークとかフォークパンクとか、そんなふうにはたぶん言ってないです。フォークシンガーって名乗ってる。家で嫁に気を使いながら、子どもにバカにされながら作ってる。全然パンクじゃないですよね（笑）。全然パンクじゃないものをやっているんだけど、「やっぱりパンクだね」って凄い言われるんですよね。凄い嬉しいんですけど、全然パンクじゃないことやってるのに、なんでパンクって言われるんですかね。自分でもわからないんです。でもよく思うのは、俺はパンクとかハードコア以外の音楽って全然知らないし、パンクとかハードコア以外はあんまり好きじゃないんですね。パンクとかハードコアなら幅広く聴くし、だいたいなんでも好きなんです。マニアとかそういうのともちょっと違って、パンクとかハードコアがとにかく好きですね。ただただ好きなだけ。
——「パンクとかハードコア」って言葉がこれだけいっぺんに出てくれば、どれだけ好きか伝わります（笑）。じゃ、パンクとかハードコアをフォークシンガーとして還元して、新しいフォークのスタイルを作りたいって意識は？
FUCKER：意識はないけど、なってるならいいですよね。あの、「こういうふうにやりたい」っていうのはそんな考えなかったんですけど、「こういうのは嫌だな」っていうのはありましたね。「こういうのは嫌だ、こういうのはガラじゃない」、そういう思いは強いです。
——No ってとこから出てきた表現が、パンクとかハードコアなのかもしれないし。
FUCKER：そうかもしれないですね。
——自分のそのままを曝け出して、そこには切実さも必死さもあるし、日常そのもののくせにどこか飄々としてるし。
FUCKER：パンクのシニカルさみたいなものとか…。暑苦しいものはちょっと。いや、充分暑苦しいんですけど(笑)、それをそのままやるのはちょっと照れ臭い。そういったところもパンクの好きなとこなんで。なんかこう、感動させるような表現になる手前の、笑えるとこがないと収まりが悪いっていうのもあるし。
ムチャクチャやりたいけど誰も傷つけないもの。できるなら人の心の隙間にちょこっと響くもの
——シンプルだけどいろんなものが含まれてますよね。でね、昔、遠藤ミチロウさんが弾き語りを始めた頃にインタビューしたんですが、「弾き語りは、スターリンで裸になってた時より丸裸になったようで緊張する」って言ってたんです。谷ぐちさんはライヴの前は緊張します？
FUCKER：メチャメチャしますよ。でも最近は慣れてきて、一人でやるのも好きになってきた。自分一人なんだけど、見てる人みんなを巻き込んでいくような感じにやりたいって思ってるんですよね。弾き語りって、トークあり笑いありっていうライヴをやる人が多いと思うんですけど、俺はハードコアバンドのライヴの流れのような。
——はいはい。そうですね。そうなってますよね。
FUCKER：一曲一曲を聴いてもらうというより、聴いてもらうんですけど、もっと一本のライヴとしての流れがあってね。ウワーッと観客のほうに向かう場面があったり。一本のライヴってパッケージした感じのものをやりたい。
——客を巻き込む瞬発力は凄いです。
FUCKER：弾き語りって自分だけだから自由ですよね。曲を途中でやめてもいいし。その場の雰囲気でなんでもやっていい。
——なんか、less than TVの恒例の大イベントMETEO NIGHTがそういう場ですよね。そういう場というか、自由な空間で。どのバンドも人がやってないことを、自分にしかできないことをやっていて、でもお客さんの誰も取りこぼさない。FUCKERのライヴはそれが凝縮されてるというか。で、METEO NIGHT自体に、みんなを楽しませるって感覚が以前より強く出ていると感じます。
FUCKER：いつの頃からか出てきましたね。最初はそんなになかったかもしれないけど、逆に教えてもらった感じですね。誰も取りこぼさない、ピースフルな、そういうのに溢れた空間っていうのは、自分で言いだしてそういう方向にしようとしたわけじゃなく。カッコいいバンド、好きなバンド、共感できるバンドを集めたらそういうことになって。そういうライヴを見て気づかされた。あの、ちょっと印象的なことがあって。前に吉野(eastern youth)が、極東最前線で対バンするバンドを探すためにか、ペンペンズ(オシリペンペンズ)のライヴを見に来てて。俺もペンペンズ大好きで。「最高だね」とか話してて。吉野は、「ペンペンズは誰も傷つけてないじゃん」って言ってた。俺、そんなふうに考えたことなかったから、吉野の言葉でそれに気づいて。なんかその言葉が残ってて。ペンペンズって過激だし結構ギリギリな表現だし、でも誰も傷つけてはいないんですよね。俺もね、ムチャクチャやりたいけど、誰も傷つけないもの。できるなら人の心の隙間にちょこっと響くもの。そういうのが理想だなって。
——うん。今作の最後に「共生社会を実現させる歌」がライヴで入ってるけど、ホントに実現できそうな気がしてきた。
FUCKER：less than ハウスは絶対実現させますよ。いろいろ調べたり動いてリしてますし。ホントはね、共生社会が当たり前のはずなんですけどね。でも相模原の事件もあったし、今、障碍を持った方の生活は、いろんな人がそれぞれの動きしていかないと負けちゃう。俺は介助やっていて、介助にハマる人ってバンドやってたりパンク好きだったりする奴が多くて、俺の周りだけかもしれないけど。そこに一つ答えがあるのかなって。想像力をもって、こういった問題に対して必死になって考えてますし。当事者の人と共生して、少しでも力になれるように考えて切り拓いていくってことは絶対必要だから。
