角田光代が見たシリア難民キャンプ 「その先」にある果てしない課題

 国際NGOプラン・インターナショナル(プラン)の取り組みを支援する横浜市出身の作家、角田光代がこの夏、プランの活動地の一つであるヨルダンのシリア難民キャンプを視察した。執筆活動の傍ら、およそ10年前から世界各地を訪れ困難な状況にある子どもたちと向き合い続けている。ヨルダンで出会った人たちの姿を角田の手記と併せて紹介した写真展が、都内で開催された。

 ブランコを楽しむ少女、笑顔で角田を囲む子どもたち、ドレス姿の女の子やアイスクリームを描いた絵。写真家まゆみ瑠衣=ノワール所属=撮影の31点が飾られている東京・六本木の写真展会場。色彩豊かなものが数多く目に入る一方で、砂漠に立ち並ぶ白いプレハブ住宅を写した1枚も強い印象を残す。

 8月、角田がプランスタッフと共に訪れたのは、ヨルダンに二つあるシリア難民向けのキャンプのうち、4年前に開設されたアズラック難民キャンプ。首都アンマンの北東部に位置し、約4万人のシリア難民が暮らす。

 「テントが張られ、衛生状態の良くない場所を想像していたけど、実際は想像以上に整然とした街ができていました」と驚く。それはある意味とても人工的で無機質だった。「ここで生まれた子どもたちも、きっとまだ見ぬシリアの故郷を恋しがるのだろうな」と思い巡らす。

 自身が見聞きした範囲では、衣食住は最低限整備されていた。「その先」に課題がある、と角田は言う。「どのように勉強して、社会的な生活を送り、就労スキルを身に付けるか。その先の暮らしで必要なものって果てしない」

 シリアへの帰郷のめどが立たず途方に暮れる現実がある一方で、希望を見いだす瞬間もあった。キャンプの外の社会支援センターで少女たちに将来の夢を尋ねると、薬剤師や美容師、栄養士などバラエティー豊かな返事が返ってきた。

 「これまで女性の人権がないがしろにされている国を視察した時は、女性が就ける職業を答えられない女の子が多かったんです」。女性の就労が容易ではない社会で、少女たちに具体的に思い描く職業があることはこの上ない喜びだった。

 子どもたちを貧困や差別から救おうと世界70カ国以上でプロジェクトを展開するプランを、角田は2009年からサポートしている。

 「初めはボランティアや寄付に少し懐疑的だったんです。自分が寄付することで何がどう変わるんだろうって、構えていたんですよね」

 その考えが一変したのは同年秋、視察に出向いた西アフリカ・マリで、少女に強いられる女性性器切除の慣習を現実のものとして認識した時だった。「寄付が何の役に立っているかなんて考えても何もならない。もう知らんぷりはできない」。そう痛感し、継続した支援をしようと決めた。

 これまでにインドやパキスタン、コロンビアにも足を運び、性産業に売られた少女や男尊女卑などの社会問題を目にしてきた。シリア難民の問題も解決の糸口が見つけられず「考えれば考えるほど袋小路」と暗い気持ちになる。それでも、関心がある人に現状を知ってもらえたらと願っている。

YellowKorner Showroom&Shop 

[イエローコーナーショールーム&ショップ]

 写真展は国連が定めた「国際ガールズ・デー」に合わせてプランが企画したイベントの一環。イエローコーナーショールーム&ショップ(東京都港区)で開かれた。

「教育施設で働くシリア難民の女性たちの生き生きとした姿にも感銘を受けました」と話す角田光代 =東京都内

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