金属行人(10月19日付)

 ある業界の集まりでリーダーが、自社の組織活性化に向けた人材活用の一環でその分野の未経験者を重要ポストに充てる試みを紹介した。経験がないからこその新鮮でニュートラルな発想が、ややもすると凝り固まった考え方や陳腐化した組織文化に風穴をあけることへの期待を込めている▼聞いていて思い出したのが人事・組織を語る際に登場する「水槽のカマス」の話。餌を入れると気性の荒いカマスは勢いよく食べるが、透明な板で間仕切りすると体当たりを繰り返すが餌を食べられず、しまいには諦めてしまい、間仕切り板を外しても餌に寄り付こうとしなくなる▼もう無理だという思い込みが先に立ってしまうからだ。「学習性無力感」という心理状態らしい。では元に戻すには…▼別のカマスを水槽に入れればいい。猛然と餌に食らいつくカマスを見た〝諦めカマス〟は、目が覚めたように元来の気性を取り戻す▼その組織にまん延する過去からの既成概念を新しい眼(芽)で打ち破り、前向きで建設的な議論や意見交流が企業組織の成長・発展を導く可能性を示唆した教訓だ▼ただ、その実現はあくまで基礎や基本が備わり、目指す理念や目標観が共有されていてこそ。それがなくては、逆に不利益になりかねない。

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