<レスリング>【2018年ユース・オリンピック特集】劣悪な環境での減量失敗、これをどう生かすか…藤田颯

 【ブエノスアイレス(アルゼンチン)、文・撮影=布施鋼治】予選リーグを0勝2敗で終え、ミックスゾーンにやってきた藤田颯(埼玉・花咲徳栄高)はしばらく喋れないほど疲れきっていた。 敗因について聞くと、藤田は「体が全然動きませんでした」と切り出した。

1回戦でウクライナ選手と闘う藤田。4-10で黒星

 「8㎏という減量の問題。今日になってようやく落ちました」。10月中旬のブエノスアイレスは暑かったり寒かったり。男子フリースタイル55㎏級に出場した藤田が出場した大会最終日(10月14日)の前日と前々日は、真冬なのかと錯覚するほど昼も夜も冷え込んだ。練習場はユース・オリンピック・パーク内のスタジアム。天井はあるが、壁はなく、南極からの風が吹く劣悪な環境での減量を藤田は余儀なくされた。

 「(体を動かしても)汗が出ない。もう最初にブエノスアイレスに入った時からちょっとヤバいと思いました。過去に海外には何度か遠征しているけど、減量でこんな苦しい思いをしたのは初めてです」

 予選リーグ終了後、藤田は一度選手村に戻ったが、悔し涙を流すしかなかった。「本当に不甲斐ない試合をしてしまった。日本代表でやってきたのに、こんな負け方をしてしまったら悔しい以上の思いが込み上げてきました」。とはいえ、全てが終わったわけではない。夕方からは5・6位決定戦への出場が控えている。

 同室で2日前に金メダルを獲得したばかりの佐々木航がゲキを飛ばした。「気持ちを切り換えていけ」。母校の監督で今回コーチとしてブエノスアイレスまで帯動した高坂拓也は日本代表としての自覚を促した。「最後までやり切りなさい」

予選の敗北を忘れ、5・6位決定戦に全力で臨んだ

最後の試合に勝って今後につなげた

 涙をぬぐった藤田は気持ちを切り換えた。「午前中にやった試合は全部忘れよう」。勝負は、時として開き直りが重要。この時の藤田はまさにそうだったのではないか。果たしてウィット・ガビン・サビアン(グアム)と対峙するや、力強いタックルで再三相手を場外まで吹っ飛ばし、あっという間にテクニカルフォール勝ちをおさめた。

 「自分のレスリングはあまりできなかったけど、勝てたのでとりあえず良かった」。今回のユース・オリンピックで藤田は「世界に足を伸ばせば、必ずしもいつもと同じ環境で調整できるわけではない」ということを痛感した。吉村監督は言う。「環境面での条件はみな一緒なので、藤田は藤田で、対応しないといけなかった。ただ、5・6位決定戦には勝ってくれたので、本当にいい勉強をしたんじゃないかと思います」

 ユース・オリンピックは試合だけではなく、スポーツ本来の意味やオリンピズムを体感すべく用意されたプログラムに積極的に参加しなければいけない。藤田にとっては大会そのものが階級制スポーツの厳しさを改めて知るいい機会になったのではないか。これを糧としてほしい。

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