失墜した「小売りの巨人」 興隆アマゾンにのみ込まれ

閉店セール中のシアーズの店舗=2018年10月、米ニューヨーク近郊(左)、2014年6月16日に米シアトルの発表会で舞台上を歩く米アマゾン・コムのジェフ・ベゾスCEO(AP=共同、右上)、2017年2月米アマゾンの配送センター(ロイター=共同、右下)

 米小売り大手シアーズ・ホールディングスが10月15日、連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)適用を裁判所に申請し、経営破綻した。かつて栄華を極めた「20世紀の小売りの巨人」が沈んだ。カタログ通販で一世を風靡し、全米で百貨店チェーンを展開したが、ディスカウントストアの安売り攻勢にさらされ、興隆するインターネット通販にのみ込まれた形だ。(共同通信=ニューヨーク支局・吉無田修)

苦境

 「米国は好景気なのにどうして。理解できないわ」。米メディアに破綻の可能性がすでに報じられていた12日、ニューヨーク近郊のシアーズの閉店セールに訪れたクリスティーナ・セストラさん(71)は寂しがった。店内は値下げを強調したポスターが貼られている。商品棚に雑然と置かれた腕時計や、床に落ちたままのワイシャツは、シアーズが置かれた苦境を物語っていた。

 1893年設立のシアーズはマイカー普及を追い風に、郊外のショッピングモールなどに出店。保険やクレジットカードも手掛け、事業を多角化した。1973年にシカゴに建てた110階建ての本社ビル「シアーズタワー(現ウィリスタワー)」は当時は世界一の高さで話題になった。

 日本企業にも影響を与えた。シアーズと提携した流通や金融の企業集団「セゾングループ」。グループを率いた故堤清二氏はセゾン投信のホームページで「チェーンオペレーション(多店舗展開の経営手法)のリーダーはシアーズだった」と振り返り、シアーズを研究したと明らかにしている。生活雑貨店「無印良品」はシアーズの商品開発の考え方を取り入れたという。

皮肉

 しかしディスカウントストア大手のウォルマートが台頭し、価格競争で劣勢に立たされた。シアーズは、シアーズタワーの売却や人員削減に加え、クレジットカード事業なども手放し、リストラを進めた。2005年にディスカウントストア大手のKマートと合併し生き残りを図ったが、06年1月時点でKマートと合わせて3843店だった店舗数は、今年8月時点で約8割減の866店に縮小。11年度から7年連続で最終赤字を計上している。

シアーズ・ホールディングスとアマゾン・コムの売上高推移

 この10年、急成長を遂げたのは、インターネット通販大手のアマゾン・コムだ。17年のシアーズの売上高が08年比で6割減った一方で、アマゾンは9倍に。携帯端末で手軽に商品を購入できるネット通販の普及で、若い世代はシアーズから遠のいた。

 シアーズの筆頭株主で、ファンド出身のエドワード・ランパート最高経営責任者(CEO)は9月、ブログで「ネット通販のトレンドが一層強まり、小売りの環境が大きく変化した結果、収益性に大きな障害をもたらした」と不振の背景を説明。巨額の年金債務も経営の足かせとなり、競合相手と比べて店舗改装などへの投資が不十分になったと嘆いた。

 調査会社ガートナーの小売業界のアナリスト、ロバート・ヒートゥー氏が「本当に皮肉だ」と指摘するのは、94年にアマゾンが設立される1年前、シアーズがカタログ通販から撤退したことだ。「シアーズはカタログ通販の『アマゾン』だった。電子商取引の展望を持っていれば、まったく異なっていたかもしれない」と話す。

ロボット

 「一生懸命働き、楽しんで、歴史をつくろう」。西部シアトル近郊のアマゾンの配送センターに掲げられた標語だ。東京ドーム1・7個分の巨大倉庫の従業員は約2千人。ロボティクスや人工知能(AI)といった最新テクノロジーを導入し、アマゾンは流通業界の歴史を塗り替えている。

自走式の商品棚ロボットが稼働するアマゾン・コムの配送センター=2018年9月21日、米シアトル近郊(共同)

 9月下旬に報道陣に公開された巨大倉庫の目玉は、自走式の商品棚ロボットだった。ロボットが棚を持ち上げ、床に貼られたQRコードを読み取り、直角に曲がって移動して作業員の前まで運ぶ。作業員は棚から商品を取り出し、手元の黄色のケースに入れる作業を黙々と繰り返す。

 アマゾンは「作業員は倉庫内を歩く必要がなくなり、入荷した商品の棚入れ時間と、注文商品の棚出し時間の削減につながる」と効率化を強調。日本のアマゾンでは、川崎市の配送センターで16年に導入。来年3月に大阪府茨木市の配送センターでも本格稼働する予定だ。

 CEOを退いたシアーズのランパート会長は15日「ゴールは包括的なリストラを達成することだ」と語り、不採算店舗を年内に追加で142店を閉鎖し再建を図る。ただ「『シアーズ』ブランドはこの数年、ひどく傷ついた」(コアサイト・リサーチのシニアアナリストのジョン・マーサー氏)との指摘もある。

閉店セール中のシアーズの店舗=2018年10月12日、米ニューヨーク郊外(共同)

 ニューヨーク近郊のシアーズの来店客、ロバート・シュプントフさん(63)に「シアーズが閉店すると、生活は不便になるか」と尋ねると、シュプントフさんは「あまり変わらない。インターネットで商品を探す必要があるが、それはできる」と答えた。ネット通販の利便性が高まる中で、従来型の店舗経営は一段と厳しさを増している。シアーズ再建はいばらの道になりそうだ。

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