金属行人(10月24日付)

 諷諫(ふうかん)という言葉がある。あまり聞き慣れないが「遠回しにいさめること」の意味。中国では、上司と部下の関係において部下による上司補佐術の一つだという▼先日亡くなった警察庁出身で初代内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏の著書「わが上司・後藤田正晴」の中で出てくる一節だ。当時官房長官だった後藤田氏が、中曽根康弘総理大臣にペルシャ湾への掃海艇派遣を思いとどまらせるべく、直接総理には進言せず、佐々氏を総理の目の前で「わしは派遣に反対だ」と叱責。総理に暗に翻意を促した▼なるほど、その後のことを考えれば、直接の進言よりも角が立たないかもしれない。同じような慣習・事例は世界各地であるようだ。ただその後、後藤田氏は中曽根総理が「掃海艇がだめなら海上保安庁の巡視船を」と言い始めた時は「もし派遣するなら自分を切ってからやってください」と、今度は直言諫争(かんそう)。緩急の付け方が非常に上手な官房長官だったようだ▼免震・制振装置の検査データ改ざんが明らかになったKYB。上司への「直言諫争」のかいなく、最悪の形で明るみになってしまった。諷諫、直言諫争どちらにせよ、最後はいさめられた側がどう解釈、対応するかに懸かっている。

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