【平成の長崎】親和銀不正融資事件 元頭取逮捕に地元揺れ 平成10(1998)年

 1998(平成10)年5月29日。親和銀行(佐世保市)の元頭取ら旧経営陣が不正融資をしたとして、商法の特別背任容疑で逮捕された。元頭取らの逮捕に地元は揺れた。
 発端は元頭取の女性スキャンダルだった。その隠蔽(いんぺい)工作を第三者に依頼し、関係者への謝礼などとして不正融資を重ねた。立件された額は約65億円。98年3月期決算では、関与した企業グループへの融資残高約146億円を不良債権として処理し、創設以来初の赤字決算となった。
 「雲の上の存在」「天皇」「神様」-。佐世保商工会議所の会頭も務めた元頭取は、そう表現されるほど、地元経済界では絶対的な存在だった。
 親和銀行が99年2月、事件についてまとめた文書によると、「元頭取による個人的色彩の強い事件」とし、最大の原因は「元頭取の経営姿勢そのもの」と総括した。トップの「重圧」に対し、「チェック機能が消極的となり、融資審査機能が低下した」と、当時の銀行内部の問題も指摘した。
 トップダウンによる融資は断罪されたが、別の見方もある。
 市中心部アーケードで時計店を営む蒲原恒雄さん(71)は「事件は許されないが、当時“鶴の一声”があったからこそ救われた地元企業もあったはずだ」と証言する。
 させぼ四ケ町商店街協同組合の竹本慶三理事長(68)は事件後、一つ一つの取引先企業と真摯(しんし)に向き合う行員や重役の姿を覚えている。「信頼回復を目指し『新たな親和をつくる』という決意を見た。どの組織も基本は人であり、行員一人一人の思いがあったからこそ、今がある」と語る。
 こうした行員の努力に加え、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の傘下に入り経営再建を果たした。紆余(うよ)曲折はあったものの、地元での存在感は薄らいでいない。「メインバンクとする企業は多く、ネットワークは佐世保のインフラ」(別の金融機関幹部)との声もある。
 今後、十八銀行(長崎市)との合併を控えている。親和銀行がメインバンクで、「レストラン庄屋」などを展開するフードプラス・ホールディングス(佐世保市卸本町)の中村信機会長(75)は「これまでの経験を生かし、県全体に目を配った経営をお願いしたい」と求めた。(平成30年10月26日付長崎新聞より)
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【平成の長崎】は長崎県内の平成30年間を写真で振り返る特別企画です。

家宅捜索で押収品を運び出す捜査員=1998年5月30日、佐世保市

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