【設立70周年 大紀アルミニウム工業所】〈山本隆章社長に聞く〉リーマンショック後の決断、東南ア拠点拡充が結実 環境問題、新規投資が課題

――70周年の節目です。

 「大紀アルミは創業が1922年(大正11)11月、設立が1948年(昭和23)10月。ここでは過去10年を振り返りたい。リーマン・ショック前の2007年、販売数量は過去最高でそれが当面続くと見ていた。絶頂だった業績は、リーマン・ショック後、真っ逆さまに落ちていく。まず、生産体制のダウンサイジングに着手したが、その際、可能な限り従業員のリストラやレイオフを避けた。浮いた人的パワーは材料購買やエンジニアリング、海外工場(インドネシア、フィリピン)の立ち上げなどへ振り向けた。おそらくアルミ二次合金業界で当社の現在の購買スタッフは最多と思うが、この時の施策が影響している」

――08年9月のリーマン・ショックが契機に…。

大紀アルミニウム・山本社長

 「そう。強い危機感にかられ、やったことのない海外での生産拡充に乗り出した。当時、東南アジアのタイ、マレーシアには既に進出していたが、インドネシア、デルタアルミ(中国広東省の肇慶市大正アルミ)との提携、フィリピンなど、東南アジアへの本格進出のきっかけとなった。11年の東日本大震災や同年のタイ洪水も影響した。東日本大震災では震源地に近い白河工場(福島県白河市)が3カ月休止。白河は福島原発から70キロの距離で、スクラップ放射能問題にもかなり神経を尖らせた。タイ洪水では間接的な影響を受けた。リーマン・ショックの激震でかなり苦労はしたが、当社なりに知恵を絞り対応した。とりわけデルタアルミからは多くの刺激を受け学ぶ一方、彼らもQC活動などで当社のスタイルを導入。両社は『互相学習(フーシャン・シュエシィー)』(中国語)の関係が築けた。この10年間の苦難の行軍は、自信になったし東南アジア拠点拡充に結実した」

――通期の連結業績予想は売上高が前期比14・9%増の2133億円、経常利益が同1・7%増の67億1千万円、純利益が同6・7%増の47億9千万円。達成すればいずれも過去最高です。

 「通期連結製品販売量は、前期(44万2千トン)比14・0%増で過去最高更新の50万4千トンを見込む。うち単独製品販売量は25万2千トンで、前期(24万8千トン)比1・7%増を見込む。今期は国内も伸びるが、インドネシアの増強分が大きく寄与する。アセアンでの今期生産計画はインドネシアが12万トン(前期実績5万4千トン)、タイが商品を含め13万3千トン(同約12万トン)、マレーシアが2万6千トン(同2万6千トン)、フィリピンが商品を含め1万500トン(同9750トン)を予想、この連結数値以外にデルタアルミは年間20万トンを生産、その大半は当社がマーケティングしている。また、国内5工場今期生産見込みは亀山が7万8千トン。滋賀が4万4千トン、新城が1万トン、結城が4万9千トン、白河が6万9千トン。アルミニウム二次合金の大手需要先、自動車メーカー業績は回復傾向であり、全体的には緩やかな生産増・出荷増が期待できる」

――設備投資案件は?

 「今期の設備投資額は連結で30億5千万円(単独9億6千万円、連結関連会社20億8千万円)。海外はインドネシアが第2溶解工場の積み残し分5億7600万円など。単独では国内5工場の環境設備に約8割を投じる。聖心製作所関連では国内外(滋賀県、タイ)で計9億1600万円を見込む」

――足元の課題は?

 「本腰を入れているのは工場の環境問題だ。煙センサー、臭いセンサーなど各種のテクノロジーを使うことで、最終目標の無煙無臭を目指している。工場長会議ではスクラップの燃焼状態の検知、工場の風向き測定など、大真面目に議論している。これらは車のドライブレコーダーのようなもので、データ化すれば自己防衛にもなる。ディズニーランドのような工場で、アルミ二次合金が製造できれば理想的ではあるが…」

――何か催しは?

 「70周年記念パーティを社内中心で20日にリーガロイヤルホテル大阪で開催、従業員の労をねぎらった。『70周年史』も現在、女性チームで制作中。工場のユニフォームは既に、オレンジ色のモノに一新した。44歳で社長に就任してから24年が経過、知らない間に遠い所に、深い所にたどり着いた。この仕事は無くならないと思うし、『アルミ』と名が付く会社は案外しぶとい。今後は環境問題への対処だけでなく、新たに積極的な投資もと考えている」(白木 毅俊)

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