第4回 知ってましたか?消火栓は誰でも使えます! 消防隊到着前に初期消火を成功させるには

建物所有者が設置する屋内消火栓。火元にいる人が誰でも利用できる(写真出典:Photo AC)

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発災時に誰でも使える「消火栓」

前回(連載第3回)は、いかに消火器では実際の火災が消せないかを解説しました。ではどうしたら初期消火を成功させることができるのでしょうか。
 
皆さんが住んでるマンション、通勤途中の駅、勤務先のビル、買い物に行くスーパー高速道路のトンネル内など注意を向けるといたるところに消火栓があります。大きな倉庫や工場などの敷地内、道路を見ると黄色い四角で囲まれたマンホール蓋に「消火栓」と書かれています。

結構身の回りに消火栓はあるものです。
この消火栓は発災時には誰が使っても良いのです。
「え!!消防隊が使うもので触ってはいけないと思ってた」
とほとんどの人が思いこんでいます。
 
いいえ、誰もが使えるようにしておかなくてはいけないのです。初期消火を成功させ被害を抑えてください。でもAED(自動体外式除細動器)と同じように、繰り返し訓練をして使用方法や安全管理、2次災害の防止方法などを、身につけていなければダメです。

通常時の火災発生では、119番通報すれば、最寄りの消防署職員が緊急車両で駆けつけ消火活動を行います。マンションやオフィスビルであれば施設で一定の訓練を受けた居住者・従業員でつくる「自衛消防隊」や防災担当者がいち早く現場に駆けつけ初期消火をすることになっています。

でも実際は、大規模災害発生で同時多発的にいろいろな事故が発生すれば、一部の担当者だけでは対応しきれません。普段から誰でも消火栓の操作訓練をしていれば、拡大していく火災を止められます。そこにある危機はそこにいる人が対応して抑えましょう。

建物の初期消火は自主防災で

消火栓は私設と公設の2種類に分かれます。
私設の消火栓は、消防法等により設置が義務付けられ、建物所有者の負担で設置される消防用設備です。公設の消火栓は、消火水利の一つとして市町村によって設置され、上水道管に連結して道路上に100~200m間隔で配置されています。

「私設消火栓」は、建物内に設置された「屋内消火栓」と、倉庫・工場などの敷地内に設置された「屋外消火栓」があります。このうち「屋内消火栓」は、「1号消火栓」「易操作性1号消火栓」「2号消火栓」「広範囲2号消火栓」の4つの形式があります。ご自分が住むマンションや勤務先ビルなど、使用する可能性がある消火栓がどの種類か、確認しておきましょう。

1960年代、建物内に設置する消火栓として最も早く採用され、現在最も普及しているのが「1号消火栓」です。放水量130L(リットル)/分と高く、高い消火能力が求められる工場・倉庫をふくめ全ての用途の建物利用可能ですが、操作に2人以上必要で、従来型の平ホースを使っているため、全てのホースを引き出さないと利用できない、など不便さがありました。

その後1987年に「2号消火栓」、1997年に「易操作性1号消火栓」が開発されました。「2号消火栓」は、放水量60L/分と小型で、工場や倉庫では利用できませんが、旅館、ホテル、社会福祉施設、病院などの就寝施設に利用でき、1人操作が可能です。「易操作性1号消火栓」は、1号同等の放水量130L/分で全ての建物に利用可能で1人操作可能なものです。

こうした変遷を経て2013年に誕生したのが最新型の「広範囲型2号消火栓」です。1号消火栓と同等の配置間隔・消火力を持ちながら、女性1人でも操作できる操作性の良さを両立しています。また1号消火栓よりもひと回り小さいことで「1号消火栓」のノズルとホースを取り換えるだけで「広範囲2号消火栓」に改修できる設備も市販され、積極的に改修が推進されています。

「屋外消火栓」は、建物周囲に設置される私設消火栓の一つです。基本的な仕組みは屋内1号消火栓と同じですが、外から建物に向かって放水するため放水量は350L/分と、1号消火栓の3倍弱です。ホースの太さも呼称65ミリ径と太くなり、取扱いはかなりの練度が必要です。

早速、操作法を覚えましょう!

消火栓はタイプによって、最低2人の操作が必要なものと、1人のみで操作可能なものの2タイプがあります。それぞれの手順を見ていきましょう。

最も一般的な「1号消火栓」は、バルブ側とホース側に1人ずつ、合計2人での操作が必要です。手順は以下のようになります。

2人操作する場合の、屋内消火栓の使い方(出典:総務省消防庁)

「1号消火栓」の場合、最初に起動ボタンを押さないとポンプが起動しないため、この後の作業をいくら正確にやっても水がまともに出ません。ポンプが起動すると点灯している赤色灯が点滅。火災報知器が連鳴し、防災センターへ通知されます。

放水の際は、ホース側の担当者は筒先(ノズル)を腰に保持し、けっして放水中は筒先を離さないように。離してしまうと筒先が暴れ、体に当たり大けがをします。ホース担当はできれば補助・伝達・後方安全確認のためもう1人いた方が良いです。建物内での初期消火は、外からの放水と違い放水すると煙や炎が壁や天井で跳ね返り、ホース担当者を襲います。

一方、「易操作性1号消火栓」「2号消火栓」「広範囲2号消火栓」の3タイプは、ホース筒先に開閉バルブが付いているので1人でも操作が可能です。以下が大まかな使用手順になります。

1人操作する場合の、屋内消火栓の使い方(出典:総務省消防庁)

筒先(ノズル)とホースを取り出したうえで、開閉バルブを開けます。バルブを開けると自動的にポンプが起動するので、起動ボタンを押し忘れる心配はありません。

火元に近づくほど、煙・炎・熱風などで2次災害のリスクがありますから保護具(防煙マスク、手袋)などは必ず着装しましょう。1人での操作が可能であっても、できれば1人での行動は避け、複数人で対応しましょう。消火後にはバルブを閉めることも忘れずに。

また屋内消火栓の放水で気をつけなくてはいけないのは水損です。消火時は大量の水が出続けるため、火元の下階まで水損し、数百万以上の被害になってしまうことがあります。最近は大量注水を予防するための放水量を調節できる「噴霧注水」ノズルも開発されています。

握り拳ほどの小さな火であれば、まずは、ペットボトルのお茶やコーラでも消えることや可燃物を部屋の外に掃き出すことで叩き消すこと、など代替方法も覚えておくと良いでしょう。

注目!地域で使える「スタンドパイプ」

さてこれまで私設消火栓の種別と使い方をまとめてきました。
実は近年、全国の市区町村のあいだで期待されているのが、公設消火栓を使った地域住民やによる初期消火活動です。

公設消火栓は公道に設置され、消防署員・消防団員が消火活動に利用するのが一般的です。ですが、大規模な地震で火災が発生し、消防署員・消防団員が迅速に対応できない場合に、この公設消火栓を使って、地域住民や自主防災組織に初期消火活動を担ってもらうものです。

こうした目的から、多くの市区町村が地域の自主防災組織に対して「スタンドパイプ」や「D級可搬式ポンプ」など専用資機材を配備するようになりました。公設消火栓は1000L/分と高圧ですが、こうした専用資機材を用いて、事前に訓練をきちんとすれば誰でも簡単に使用でき、大規模災害時では恐らく一番役に立つ方法であると思います。

「スタンドパイプ」や「D級可搬ポンプ」の使い方については、積極的に導入を進めている市区町村の公式サイトが参考になります。

■スタンドパイプの取り扱い方法(出典:東京都台東区公式チャンネル、再生は下をクリックしてYouTubeサイトで)

「初期消火」が火災被害を大幅削減できる

早いうちに圧倒的な水量で消火できればほとんどの火災は抑えられます。
火災発生直後の火元の小さいうちに、火元の近くにいる人によって初期消火できることで、火災による被害を大幅に削減することができます。

残念ながら、昨年2017年2月に発生した埼玉県美芳町の物流倉庫大火災(アスクル火災)では、20本以上の消火器で初期消火に失敗して、最後に屋外消火栓(350L/分)での消火を試みましたが、起動ボタンを押していないためわずかな放水量しか出ず、拡大延焼してしました(※詳しくは、入間東部地区消防組合消防本部「埼玉県三芳町倉庫火災活動記録」を参照)。

仮に最初から屋内消火栓、屋外消火栓を正しく操作できていれば1階の端材室のみの火災で消火できたものと推察されます。ボタンを押さないがための被害です。

消火器や消火栓の使用方法・消火方法・2次災害防止などは小学校高学年から授業で必須科目にするべきです。地元消防団が指導すればより地域の結束が高まります。子供が防災に興味を持てば必然的に親も無関心ではなくなります。このようなところに税金を正しく使えば災害対応のコストパフォーマンスは高くなるはずです。

子供の時期から消火設備に慣れておけば悪戯も減るでしょう。一人前の大人が消火栓も使えないなんて「ぼーっと 生きてんじゃねえよ!!」と5歳の子に叱られますよ。

【参考】
「BCPのSOS」
第三者の目線でBCP診断をする「セカンドオピニオンサービス」
http://bcpsos.rescueplus.jp/

(了)

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