新たなPPP(官民連携)への挑戦~スペイン・ビルバオGSEF2018大会から~ サステナビリティ 新潮流に学ぶ 第22回

GSEF2018ビルバオ大会、各国の自治体の首長が壇上に並ぶ(筆者撮影、以下同様)

衰退した工業都市から文化芸術都市へと甦ったスペイン北部のビルバオ市にて、第3回グローバル社会的経済フォーラム(GSEF2018)が開催されました(10月)。世界84カ国およそ1700人の参加(自治体・NPO・協同組合・企業・国際機関・研究者他)があり、「包摂する持続可能な地域発展への価値と競争力」をテーマに、興味深い実践報告や議論がくり広げられました。

サステナブルな地域発展への取り組みは、各種さまざまに展開されています。同フォーラム(GSEF)の特徴は、自治体が企業、とくに協同組合や社会的企業と連携するPPP(官民連携)の新展開の動きです。

ローカルな舞台でどのようにSDGs実現をしていくか、同フォーラムの宣言では社会的連帯経済のはたす重要性が力強く提起されました。

これまでのGSEF会合については、連載第3回「社会的経済フォーラム(カナダ)に参加して」第13回「胎動しはじめた社会的経済」などをご覧いただければと思いますが、今回注目したことはスペイン北部バスク地方のビルバオ市の発展ぶりと協同組合事業体の地域展開(モンドラゴン)でした。

ピンチをチャンスにする力―衰退からどう復活したか?

スペインといえば、昨今、北東部のカタルーニアの分離・独立が話題をよびました。北部のバスク地方でも、長い間中央政府との対立があり、一時は過激な分離・独立テロ活動もあったのです。

同地域は独自の言語(バスク語)と風習が継承されており、スペイン国内で最強の自治権(徴税権など)が認められたことで独自の繁栄をとげています。

ビルバオ市中心部を流れるネルビオン川

地形的にはピレネー山脈とバスク山脈の山間地域が多く、沿岸部にはリアス式海岸の地形が多いことで日本の三陸地方を連想させます。鉱物資源にめぐまれ、ビスケー湾からの海運や造船・工業で繁栄した時期もあり、中心都市ビルバオも産業都市で栄えました。

しかし1980年代以降は競争力を失い空洞化とともに公害、スラム化など衰退の危機に直面したのですが、起死回生の総合的都市再生プランにより甦ったのです。

クリエイティブ・シティ、ビルバオの成功物語については、都市開発の分野で注目されていますが、今回のフォーラムに引きつければ、地域自治と官民連携(PPP)の賜物と言うことができます。

地域の衰退に拍車をかけるように1983年に大洪水被害を受けたことで、復旧・復興を契機に抜本的な再開発・活性化プランが地域をあげて取り組まれました。行政と企業、メディア、大学、各種NPO組織が結集して「ビルバオ大都市圏再生プラン」が作成されたのです。

市の人口は40万人、周辺都市域としては100万人規模ですが、バスク州の人口の半分を占めています。単なる復旧、再開発ではなく、港湾施設から工場地帯、市街地、周辺居住地域を総合的に見直して新時代(21世紀)を展望する抜本的な再生戦略プランとなりました。

さらにビルバオ市のみならず近隣の他の市と協力条約を結び、都市圏網としてグローバル都市圏域の創造まで視野に入れたものでした。

詳細についてふれる余裕がないので要点をまとめると、芸術・文化の拠点としてのグッゲンハイム美術館の誘致と大規模な複合文化施設、河川・緑道空間と斬新な河川橋の建設、新旧が対照的に対比される近代的中心市街地と歴史文化が漂う旧市街区や世界遺産の整備、LRT(路面電車)や地下鉄による人に優しい街づくり、サービス・文化(観光)・先端産業の育成などが実現したのです。

実現に際しては巨額の資金や地域住民の協力が不可欠です。バスク州政府がこの一大プロジェクトを中央政府や民間セクターを巻き込んで推進できた背景には、ピンチをチャンスに変えるバスク地方独特の創造的な結束力と伝統的な自治の力があったと思われます。現在、バスク州の1人当たりの所得はスペインの州の中で最高位にあります。

(左写真)グッゲンハイム美術館の裏側広場 (中写真)グッゲンハイム美術館正面、花飾りの子犬像 (右写真)ビルバオ旧市街、古い建物の並びと大聖堂(右)

自治の力を象徴するモンドラゴン協同組合企業

バスク地方の結束力を象徴する存在が、山間部のモンドラゴン(竜の山)自治体(人口約7千人)を拠点に事業展開する協同組合企業グループです。1950年代に小さな技術学校から協同所有の事業体ができ、その後広範な労働者協同組合が結成されて、現在101の協同組合と160の企業からなるモンドラゴン協同組合企業グループに発展しています。

その理念は、働く人が主体の民主的・連帯に基づくビジネスモデル(労働者主権)で、全員が出資して一人一票の原則で運営されています(協同所有)。象徴的なのが賃金差で、事業体によって差はありますが、平均の高低差を5:1に長い間維持してきました(近年は拡大傾向にあります)。

特徴は、働く人々の労働の質(モチベーション、教育・熟練の高さ、連携・協力の絆の強さ)と言ってよいでしょう。

スペインで7番目の経営規模(総資本回転率)をもち、工業、金融、販売流通(生協)、教育・研究開発の4部門を中心に福祉部門も加わって、約8万人が働いています。国内のみならずヨーロッパや国際展開していますが、全て順調に推移してきたわけではなく、大型家電部門ファゴールの倒産もありました(2013年末)。

しかし、2008年リーマンショックに象徴された金融危機下で、多くの企業が倒産して大量解雇が続出した時期に、協同組合部門での倒産や解雇が軽微ですんだことについては特筆すべきことです。

注目したいのが、同組織が若い世代の人材育成と教育を重視していることで、1997年にモンドラゴン大学を設立しています。当大学でユニークなのは、起業家養成に重きを置いていることで、ビジネスを学ぶ学生は在学中、実際に起業して黒字を出すことで卒業が認められるとのことです。

協同の理念や思想のみならず、意義ある仕事を協同の力で実際に生み出す実践力が求められるのです。

フォーラムでは、実践活動の報告とともにILO(国際労働機関)やヨーロッパ議会の社会的経済部局からの参加もあり、協同組合や社会企業、NPOなどが地域の課題にどう取り組むかが幅広く話し合われました。

グローバル市場経済の中で社会的連帯経済の役割とは何か、どんな優位性を発揮するのか、まさに今回のテーマ設定「包摂する持続可能な地域発展への価値と競争力」に象徴的に現れています。

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