人間味あふれるデザイン 「アルヴァ・アアルト もうひとつの自然」展 11月25日まで県立近代美術館葉山

 フィンランドを代表する建築家アルバ・アアルト(1898~1976年)の業績を紹介する「アルヴァ・アアルト もうひとつの自然」展が、県立近代美術館葉山(葉山町一色)で開催中だ。モダニズムに自然の要素を取り入れ、暮らしをより良くしようという人間味あふれる建築や家具デザインを手掛けた足跡をたどっている。

 ドイツを皮切りにスペイン、デンマーク、フィンランド、フランス、日本と続く国際巡回展で、同館の開館15周年記念展。図面や建築模型、家具、照明器具、ガラス器など約300点を展示する。

 同館だけの試みとして、アアルトのデザインを体験できる「アアルト ルーム」を設置。アアルトがデザインした椅子に座って葉山の海をゆったり眺めるなど、暮らしと直結したアアルトの思想を身近に感じることができる。

 同館の籾山昌夫学芸員は「邸宅の設計図を見ても、専門家でないとよく分からないが、こうした家具を体験できることで、アアルトの捉え方が違う次元に入るのではないか」と話す。

 アアルトの建築の特徴は外観と内部に差があることだ。モダンで機能的な外観に対して、建物の内部は機能主義に陥らず、曲線や木工技術などの職人仕事を生かした前時代的なデザインとなっている。

 ル・コルビュジエらが確立させ、1930年前後に流行したモダニズム建築では、装飾性を排除し、機能性や合理性が優先された。

 17年にロシア帝国から独立を果たしたフィンランドでは、新しい国家にふさわしいモダニズムを体現できる新しい建築家が求められていた。アアルトはそれに応え、モダニズム建築を取り入れて、南西フィンランド農業協同組合ビルやビープリの図書館、パイミオのサナトリウムといった公共建築を手掛けた。

 だが、内部には人に優しい建築が見られる。ビープリの図書館の木の天井は波打つ形状が印象的だ。パイミオのサナトリウムの共有部分で使われたパイミオチェアは合板の椅子だが、座面だけ厚みを持たせた職人技が光る。

 「モダニズムの一般的な範囲に収まりきらない。内装は、フィンランド的にローカライズしたのではないか。建物の中にいても人間が自然な状態でいられるもので、『アアルト ルーム』でそれを体感できる」と籾山学芸員。温かみのある木の建築には、日本の伝統的な建築物と通じ合うところがある。

 11月25日まで。月曜休館。一般1200円、20歳未満と学生1050円、65歳以上600円、高校生100円。コレクション展「描かれた『建物』」も開催中。問い合わせは同館TEL046(875)2800。

アアルトがデザインした家具を身近に感じられる「アアルト ルーム」

© 株式会社神奈川新聞社