盗塁王は盗塁死の少なさも傑出 選手の足の本当の価値を図る「盗塁収支」

ヤクルト・山田哲人と日本ハム・西川遥輝(左から)【写真:荒川祐史】

セイバーメトリクスで価値の低い盗塁 失敗のリスクが大きすぎる戦術

 セ・パ両リーグのタイトルの中には、表面的な数字と実際の貢献度が異なっているものがいくつかある。その代表例が「盗塁」だろう。

 今季の両リーグの盗塁数5傑。

◯パ・リーグ
1西川遥輝(日)44盗塁
2中村奨吾(ロ)39盗塁
3源田壮亮(西)34盗塁
4金子侑司(西)32盗塁
5中島卓也(日)29盗塁

◯セ・リーグ
1山田哲人(ヤ)33盗塁
2田中広輔(広)32盗塁
3糸井嘉男(神)22盗塁
4大島洋平(中)21盗塁
5京田陽太(中)20盗塁

 パは日本ハム西川が3回目の盗塁王、セは3度目のトリプルスリーを達成したヤクルト山田哲人がこれも3度目の盗塁王。ともにリーグの第一人者が順当にタイトルを獲得した形だ。

 盗塁には盗塁死という「負の側面」がついて回る。セイバーメトリクスで盗塁の評価が高くないのは、盗塁が失敗し、盗塁死になった際のダメージの大きさがあるからだ。走者が失われ、アウトが1つ増えるリスクを考えれば、戦術としての盗塁の価値は低い。

 初期のセイバーメトリクスの導入者であったオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMは、盗塁を推奨しなかった。2000年にアスレチックスがアメリカン・リーグ西地区の優勝チームとなった時は、チーム盗塁数はリーグで断トツ最下位の40盗塁だった。

セの盗塁王山田、パの盗塁王西川とも「盗塁収支」では圧倒的な数値

 つまり盗塁数がいくら多くても、失敗が多いようでは、貢献度は低いということだ。その観点で今季の両リーグの盗塁記録を見直してみよう。

「盗塁収支」という考え方がある。(盗塁数‐盗塁死数)という単純な数字だ。これによって、両リーグの10傑を出してみよう。盗塁成功率もつける。

◯パ・リーグ
1西川遥輝(日)41(44盗3死 成功率.936)
2源田壮亮(西)26(34盗8死 成功率.810)
3中村奨吾(ロ)24(39盗15死 成功率.722)
3中島卓也(日)24(29盗5死 成功率.853)
5金子侑司(西)21(32盗11死 成功率.744)
6外崎修汰(西)16(25盗9死 成功率.735)
7田中和基(楽)15(21盗6死 成功率.778)
7安達了一(オ)15(20盗5死 成功率.800)
9荻野貴司(ロ)14(20盗6死 成功率.770)
9柳田悠岐(ソ)14(21盗7死 成功率.750)

 盗塁王西川に次いで盗塁数では3位の西武源田が2位に来る。その差は15もある。3位にロッテ中村。西川の盗塁死は「3」、中村は「15」。その差は大きい。西川は通算でも226盗塁、33盗塁死。盗塁成功率は.873。貢献度は極めて高いといえるだろう。

◯セ・リーグ
1山田哲人(ヤ)29(33盗4死 成功率.892)
2田中広輔(広)19(32盗13死 成功率.711)
2糸井嘉男(神)19(22盗3死 成功率.880)
4植田海(神)17(19盗2死 成功率.905)
5桑原将志(De)14(17盗3死 成功率.850)
6大島洋平(中)12(21盗9死 成功率.700)
7京田陽太(中)10(20盗10死 成功率.667)
8菊池涼介(広)8(10盗2死 成功率.833)
9野間峻祥(広)7(17盗10死 成功率.630)
9吉川尚輝(巨)7(11盗4死 成功率.733)
9吉川大幾(巨)7(7盗0死 成功率1.00)

 盗塁王の山田と2位広島の田中の差は「1」から「10」に開いている。田中の盗塁企図数はリーグ最多の「45」だが、13回も失敗しているために山田にタイトルを奪われたという見方もできる。2位タイには盗塁成功率の高い糸井が入ってくる。

 今季の山田哲人は前人未到の3度目のトリプルスリーがかかっていた。それを意識すれば盗塁数を稼ぐ必要はあったが、その前提がありながら9割近い高い盗塁成功率をキープしたのは称賛に値する。数字のために走ったのではないのだ。ちなみに広島の丸佳浩は、10盗塁10盗塁死。盗塁収支は「0」。今季もMVP最有力候補の一人だが、盗塁に関しては課題が残るといえよう。

 記録は1つの数字ではなく、他の数字も組み合わせることで、選手の子となった特色が浮かび上がってくる。これも「記録の楽しみ」の一つといえるだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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