キカタン2.0【後編】 - タイガー小堺(AV監督)&野田拓真(プロデューサー)、AV女優をアップデート! 業界最大のファンコミュニティ

今、AVも売れない時代

野田:AV業界って「作品が売れない」ってあんま言わないっすよね。

——そうですね。イベントのトーク中での何気ないひと言で“え? そうなの?!”とこの前のキカタン2.0さんとのときに知りましたもん。それまでは、音楽CDは売れないけどAVはずっとDVDが売れているんだ! と。

小堺:雑誌が売れない、書籍が売れない、CDが売れない。

野田:一緒っすよ。

小堺:売れないんすよ。

一同:(笑)

——ここまでハッキリと「売れてないんです!」って言う制作側もなかなかいないじゃないですか。みんな、上手くいってるように隠そうとして…。だから、ここまでハッキリ言ってもらえるとスッキリしますね。気持ちが!(笑)

野田:(笑)あと、女優さんがよく「違法ダウンロード見ないでください!」とか言ってるんだけど、理由を言わない。ここがすごく気になってて、DVDが売れなくなるから見ないで欲しいって言えばいいのにって。

小堺:つまんないから、違法アップロードされちゃうんですよ。AV自体が。

——本当に最近はほぼほぼ全編見られちゃうし、ちゃんと自慰行為でもイケちゃうくらい見応えあるからDVD購入はよっぽど女優さんや企画が好きじゃないと「買うぞ!」っていう強い気持ちにはなれない…のが、正直なところですね。

小堺:本当に自分の好きな女優さんじゃないと自分で買ってみたい、見てみたいにならないんすよね。それに「違法アップロードやめて!」と言ったところでも止まんないからね。(笑)

野田:だからこそ、付加価値を…ね。

小堺:どうやって売っていくのか、とかね。そこまで考えないとダメじゃないですか。だからこそ、イベントをしていきたい。

野田:そう。イベントだと買ってくれるし、感想も言ってもらえるし、コミュニケーションも取れるからね。

小堺:監督しかいないイベントでもユーザーさんから「こんな作品あったんですね」とか何人かは言ってくれるからね。あとは、タダ(無料)でDVDを出す!

——おぉ! タダ(無料)で! 制作費やキカタン2.0としての利益は?

小堺:それをキカタン2.0のコミュニティを使って女優さんの出演料を払えば、もうメーカーに頼らずに出せるんですよ。そんで、0円でいざDVDを出したときになにか特典付けたり、イベント開催してそれを“面白い!”って思ってもらえたらまた、次の作品も観てもらえると思うんですよ。今はマンガもアプリで無料。音楽も無料。そんな時代だから、ね。それでいいと思うし。

野田:映画も映画館行かずに携帯でも無料で観れちゃうし。

小堺:もう、そういう時代なんだからAVもそういう風にしていった方が俺はいいと思うんすよ。「AVを0円で作ってる監督って誰なんだ?」って話題になればもっと面白いし。

——これからはアナログの時代からさらにデジタル思考。そうなるとSNSをもっと有効的に使っていくことが効率的な生産と拡散にもなりますよね。その辺はどうなんですか?これからの時代へのアプローチ策!

小堺:そう。SNSが現実って言われたんすよ。

野田:今風のビジネスとして盛り上がってるのに、AVを作る側の人たちは疎いんすよ!

小堺:僕とかめっちゃアナログなんすよ(笑)。ずっと“デジタルにしろ”って言われてたんすけど、漫画もずっと紙で買ってたんすよ。音楽もずっとCDで買ってたんすよ(笑)。

——あ~…そこは監督と全く同じですね。いまだに全部、漫画も紙だし、音楽もCDですからね。たまに何冊も同じ巻数買っていたり…。

小堺:そうなんすよね!(笑)ただ、今の時代まだまだアナログとデジタルが交差してるんすよ。CDは売れないのに、ライブは売れる、とかね。AVもDVDは売れないけど、イベントは売れる、とか。

——ファンだとやっぱり“生を観たい”、“会いたい”が強くなるんですよね。ずっと観たり、聴いたりできることよりも体感したい、みたいな。

小堺:そうなんすよ。だから、AV女優さんもAVはパブ(パブリシティ)として、他でもっと出て稼げたらいいのになって。

野田:でも、じわじわ変わってきてる部分もあって。キカタン2.0を始めてから事務所の人たちとも話すことが多くなってきて、“ファンクラブ作りたい!”とかの相談を受けるようにもなってきてる。

小堺:事務所も気付いてきてるんすよ。メーカーに出してるだけじゃ、何の意味もないって。

引退後“元AV女優”としての生き方とこれから

野田:そこからが、ね。結局、女優さんて20代とか青春時代とかを“AV女優”として使っちゃったからね。

小堺:“元AV女優”っていうレッテルも貼られるからね。

野田:そう。だから、影で生きていくしか…ないんすよ。

小堺:メーカーも終わったら終わりで関わり合いはないし。でも、ある女優さんが「20代の全てをAVに捧げたのに今なにもない。」って。

野田:…切ない。AVはSEXのテクニックは身につくけど、人生の生きるテクニックが身につかない。

小堺:本当にそう。“AV女優”としてのテクニックは上がるんだけど、その後になんかできるのかってときになんもできないんすよね。高校、大学卒業してすぐにこの世界入ってると…ね。

野田:この世界は白黒だったら完全に“白”なんすよ。結果で言えば。イベントもするし、SNSもできるし、こんなにもオープンなのになぜか“黒”なイメージが強すぎてる。

小堺:Twitter見ててもめっちゃ海外行ってる!とか台湾住んでるな!とか…(笑)あの引退作を観ると、今までのはなんだ?って。幸せ、不幸せはそれぞれが決めることだからなんとも言えないんだけど…。これからのことも踏まえて、先の人生の分まで稼げるような業界になればいいんすよ。

野田:結局、今はまだまだ日雇い労働者と同じだからな…。

小堺:怪我したり、病気になったら…もう、終わりっすよ。(笑)

——その生きる術みたいなモノを「キカタン2.0」さんで女優さん達に与えられるようになれば、理想的ですね。脱日雇い労働者…!

作品撮りについての完全裏話

——1本の作品を撮るのにどのくらいお時間かかるんですか?

小堺:8:30~24:00くらいまで撮影ってかかったり、下手したら深夜の2:00とか3:00とか…。

——え?! そんなに時間かかるんですか? 普通にSEXしてると…持久力や相性でも変わってきますけどだいたい2時間くらい? じゃないですか。だから、撮影も全部含めて3~4時間くらいなのかな? って思ってました。

小堺:全然。撮り素材があるときは2~3時間くらいですね。でも、セットチェンジとか衣装チェンジとか、ドラマだったらドラマシーンの撮影もあるからね。あと、簡単に撮られてるって思われがちなんだけど…作品観てたりして、次のシーン場面変わってるときあるでしょ?

——…あ! 確かに。外でのデートシーンからお部屋にお邪魔したり、ゴミ捨て場から階段に移動してたり…。場面変わってますね。

小堺:でしょ?(笑)インタビューとかも外で撮ってたのに、もう中でSEXしてるでしょ? って!そこは移動してるんだよ? 場所が違うんだよって(笑)。結構、観てると吹っ飛ばされて観られがちじゃないっすか。

——移動時間…。観てるときは、もう“ワープ”ですよ。疑いも何もなくその場に移動、みたいな。あとは、観ながらオナニー集中するとそもそもの問題で女優さんの顔、表情と声にしか意識が行かないから背景は正直…なところはありますね(笑)

小堺:(笑)いや、結構、大変なんすよ? 意外と、運んだり、動かしたり、確認したり…そこまで分かれ、とは言わないけど案外時間かかってんだよってね(笑)。ただ、それでもペロっとSEXして、それを撮って終わるだけなんだって思っていても欲しいんだけどね。とくに男に人はそんなことを一番考えないで観てるから。頭がバカなときだから…。

一同:(笑)

——逆にノンフィクションだと思って作品を観たことがないですね。プレイ解禁とかはノンフィクションだと思ってますけど、“今回はそういう設定か”みたいな。この前まで淫語で亀頭責めしてた女王様が緊縛されたり洗濯バサミとか…設定としてないと女優さんも割り切れないだろうな、って思いながら観てますね(笑)

野田:ですよね! …にしても、ジャンルが。(笑)

——作品を撮るってそもそもどういう流れなんですか? 監督が好きな性癖を120%で出せる! 根源が”監督の好きなモノ“から始まってるのかな?と思ってるんですが…

小堺:それはね…ほぼほぼない。

野田:90年代はあったかもしれないけど、今はもうタイトル先行みたいなかたちで作品を撮っていくから。

小堺:アーティストっていうよりはクリエイターっていう表現の方が近い仕事だね。依頼されたものを作る。なんなら、セックスの回数もコーナー数も決まってますからね。衣装も決まってたり…工場長って感じっすね。本当に自分の意志が出せるのは5%くらい。ここの衣装が決まってない、とかヘアメイクが決まってないっていう部分で少しだけ出せる。

野田:タイガーさんの面白いところは、そのたった5%で怒られるからね!(笑)「こういう部分いらないんですよ」とか…(笑)。よく観てますよね。

小堺:いや、俺すごい見られてんすよ。…信用されてない!(笑) 他の周りの監督に聞くと「そんなところまで言われる?」みたいな感じなのに、俺ってそんなに信頼ない? って切なくなるときありますけどね。だから傍からみたら20%くらい出てるのかもしれない(笑)。僕のエロはプロレス感があるから、インタビューとかもたった一言が欲しいが為にぶっこんだ質問をして「それはいいです」ってね(笑)。質問するときも自分の話をしてから女優さんに聞くと本音を出してくれるんすけどね。前はSEXするって聞いてなかったのにSEXをした、とか本当は生でしたくなかったのに生だった、とかね。AVって今すごくクリアになってて、面接の段階で“これはAVの契約書です”から始まってちゃんと理解してますか? とか撮影での行為とかも全部書いてあるんすよ。もう、絡みが何回でこういうところ舐められますか? とか舐められなかったら言ってください、精子飲めなかったら言ってくださいとか、あとはこれは本当の解禁作です、とかね。納得してもらってから書いてもらうし、撮影当日も“こういう行為があります”っていうのは絶対に伝えないといけないし、撮影してるときもずっと監視カメラが回ってるんすよ。監督が全部説明してしてるんですけど…行為だけなんですよ。それ以外のことはメーカーが全部決めてて“OLです”、“痴漢願望あります”とか“隠れ巨乳です”とか女優さん本人は一切内心思ってないんですよ。勝手にキャラ決めされちゃうんですよね。だけど、その作品を観た人に街で偶然その女優さん見かけて痴漢されたらどうするんだろうって…。企画の拒否はないんすよ。行為の企画ならいいんだけど、自分の設定の拒否っていうのはないんすよ。完全なる強要問題(笑)。AV業界っていろんなことが見えてなくて、それを“ガチで”って求められるから、それならプロレスっぽくそうに魅せられたらいいじゃん!って。

——最近の作品は短編映画を切り抜いた映像重視のキレイな作品が多いですよね。恥じらいながらセックスするだけの淡いコンラストの作品とか。

野田:そうそう。本当に最近はそのパターンの作品が多くって!

——ふんわり、柔らかいセックスもいいんだけど、もっとあるじゃんって思うんですけどね。

小堺:いや、知らないんですよ。僕らみたいにこういう作品を撮ってて、作品としてあるっていうのを知っている人がいないんすよ。コアなところ攻めてるからね。

——若い世代にこそ、もっと観て欲しいんですけどね。

野田:本当にそうなんすよ。ただ、若い世代はみんなコスパ命って感じだから…観ないんすよね。

小堺:“明日花キララになりたい!“って思ってこの業界に入った娘がいたとしてもそんな企画ばっかりしてたら”わたし、明日花キララになれない“って早い段階で思っちゃうわけで、芽を摘み取ってる感じがするんすよね。

——AV女優さんって可愛くて愛嬌あってスタイルも抜群なかたが多いですよね。新人さんが出るたびにパッケージチェックとかいろいろしてるんですけど、”いいな“って思っていた女優さんがこの3年間くらい作品に出てなかったり…それって今、監督が言っていたことそのままなんだろうなって思いましたね。早々での絶望というか…。

小堺:僕、今年10人くらいの女優さんのデビュー作撮ったんですけど誰一人2回目撮ってない…どこ行っちゃったんだろう。

野田:そうなると、一体誰の為にAV撮ってるんだろう? ってなりますよね。

AV女優との信頼関係

——タイガー小堺監督ってたくさん表に出ますよね。監督って完全裏のイメージが強いんですが、当店阿佐ヶ谷ロフトAはもちろん、他姉妹店にも昔から出演してますよね?
小堺:監督って”この人の作品全然売れない“って思われたらすぐにメーカーから切られるんすよ。だけど、僕らがイベントするとこんだけの人数が集まるっている数を持っておかないと潰されるな、って思ってるんすよ。あとは女優さんに無茶させない…いや、無茶はさせてんすけど…。
野田:マラソンとかローション相撲とか…(笑)。
——イベントでの女優さんを観てる限りでは楽しんでやってるのかな? とは見受けられますけどね(笑)。
小堺:いや! 結構、ギリギリで!(笑)ローション相撲とか夜中4時くらいまであれやってるんすよ(笑)。女優さんとしては、セックスのみの撮影の方がラクなんだろうけど…、それでもそこでの企画に乗ってもらえるっていう監督としての強みはりますね。
——監督と女優さんとのイベント担当として全体を見てるんですが…雰囲気がAV系なのになぜかアットホームで、女優さんもフランクにたくさんお話もして下さるので、そういう部分を引き出せるのは監督だからこそなのかな? と感じますね。
小堺:そう。女優さんってあんまり喋らない人が多いんだけど…それこそ、監督には敬語の人が多いんだけど、なぜか僕にはタメ口だったり(笑)。
——確かに!(笑)女優さんは女優さん。監督は監督。っていう見えない境界線があるはずなのに…全く感じないですね。
小堺:(笑)。なめられてるんすよ。監督だけど、自分の企画は自分でもヤルから”俺がヤルんすよ“っていうスタンスだから、信頼も少しはしてくれているのかな?って。(笑)。

これからの「キカタン2.0」

——これからの「キカタン2.0」としての動きで…完全オフレコですが、書籍出版も検討されているとか?(笑)

野田:そうなんすよ!(笑)

——噂によると監督のお話を予定されている?とか?(笑)今までAV業界では感傷的な書籍が多かったように感じるんですが、監督を主軸として出版されるのであればこれからのコンテンツや未来を明るくしようみたいな内容なら面白そうですよね。

小堺:AV女優さんの不幸話と現場にいない人の美徳とか、往年の伝説になっている人の話はいらないんすよ。

——上の層がずっといるからこその、イメージ付けもありますからね。AV業界=悲しい世界みたいなイメージが根強い。

小堺:だからこそ、「AV女優よ、不幸であれ!」説は要らない!特定の監督だけを褒めるヤツもいらない!まだ、AV女優さんが不幸だと思っている人たちもたくさんいますからね。

——女優さん達のこれからをハッピーにできるような書籍にしたいですよね。

野田:センチメンタルもいらないんすよ。

一同:(笑)

小堺:年内で80人を目指してコンテンツも広げていきたいっすね。内心10人くらいしか集まらないだろう、って思ってたんすけど箕輪さんには「1,000人イケる」って言われたんで。(笑)あとは、テレビにも出ていこう!と(笑)。

——本当に言うことって、発信していくことって大事だなって。いつ、どこで、誰が繋がっているかわからないですからね。まさかのところで憧れの人たちと繋がって会えたり、イベント開催もできたりしますからね。

小堺:本当にそう!言ってみるとなんとかなったりするんすよ。もう、僕なんてチンコ出して、セックスして、中出ししてるところを撮って見られてるんだから何も隠すことなんてないっすからね。恥ずかしくもない。(笑)しいて言えば、自分のお母さんくらい…。

一同:(笑)

——では、これからも阿佐ヶ谷ロフトAでのイベントで他では聞けなかったり、今までなかった企画開催を一緒に作っていきましょう!(笑)

小堺野田:よろしくお願いします!(笑)

(Rooftop2018年11月号)

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