メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン海外試乗|オーソドックスな4ドアセダンがデビュー

メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン(A200 4MATIC/A200)

Aクラスファミリーに新たな仲間が追加!

日本でもようやくヴェールを脱ぎ、2018年10月に発表会が行われたメルセデス・ベンツの新型Aクラス。

納車は12月(しかも「早くて12月」だっていうウワサ!)だというのに、受注開始とともに発注が800台を越えたというから凄まじい。と同時に、「いや、そりゃそうだろ」とも思う。

現行型Aクラスは、ここ日本でも大ヒットを果たした。

それまでのまるっこいMPV的癒し系ルックスから若々しいスポーツハッチスタイルへ大胆にキャラ変し、「小さなクルマ=安いクルマ」という既成概念を覆したリッチな作り込み+アグレッシブな走り+ダウンサイジングターボで燃費に貢献+先進安全装備、と「今コンパクトカーに求めるアレコレ」をギュッと濃縮したのだ。

そんなAクラスの、待望のフルモデルチェンジは、実に華麗に行われた。

乗り換え組である既存オーナーはもちろん、これから新たに購入を考えている顧客見込み層にとっても、魅力的すぎるニュースは満載だろう。

事実、私はすでにこの新型に試乗しているけれど、単なる正当進化だけに留まらず、「Hey!メルセデス」で起動する車載型AI「MBUX」をはじめ、内外装の質感や走行性能系の進化も凄まじく、新型Aクラスの仕上がりは相当なレベルにある。こりゃ売れて当然。12月まで待つの全然アリだって。

…な~んてことは国際試乗会レポートですでに以前、2本も記事にしているので、そちらをご参照いただくとして。

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そんな話題沸騰中のAクラスファミリーに、早くも新しい仲間が追加されることになり、アメリカ・シアトルでの国際試乗会に参加するチャンスを得たのでレポートしよう。

Aクラスセダンだ。

あれ?セダンタイプなら5ドアのCLAシューティングブレークと、4ドアクーペのCLAがあるんじゃ?なんて思ったアナタ。そうなんです、新型ではなんとCLAよりも先に、Aクラスファミリーとしては初となるオーソドックスな4ドアセダンが用意されることになったのだ。さらにインタビューしたところによると、CLAがセダンに統合されたわけではなく、今後もCLAの販売は続ける、との回答。メーカー内でカニバること必至なのに、敢えて出すのは何故か?

メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン(A200 4MATIC/A200)
メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン(A200 4MATIC/A200)

さらに、そもそも、どうしてメルセデス・ベンツがアメリカで試乗会を?そう思ったアナタ。いい観点です!

新車の発表はどのメーカーにとってもその後の販売を占う大事なイベント。そこで各自動車メーカーの国際試乗会チームは趣向を凝らしたロケーションを毎度用意し、ジャーナリストやエディター、カメラマンなどメディアを迎えるのだけど、今回のシチュエーションは画ヅラやルートの豊富さだけで選ばれたわけではないらしい。さらに、ある深い意味を内包していたのだ。

実はこれほどまでに大成功を納めた現行型Aクラス、ハッチバックスタイルのそれは北米には導入されていない。

なぜならば、北米でハッチバックやスポーツワゴンは売れないから、という至極シンプルな理由。アメリカという場所はある種異様に保守的でガラパゴスなマーケットで、ピックアップトラックを含むSUVとセダンしか売れないという特殊な嗜好を持っている。これまでにメルセデス・ベンツから北米に導入されたAクラスベースのモデルはCLAと、そしてコンパクトSUVであるGLAのみ。

というわけで、売れればデカい人数を誇る北米において、Aクラスプラットフォームの拡大はマストであったということだ。

アメリカ人は特に、クルマにプラスアルファの価値を求める人種だと言われている。そんな人々にも響くよう、Aクラスセダンは単に優れた走行性能に甘んじるだけでなく、眼を見張るほどのインテリアの豪華さや(ぶっちゃけミニSクラスって言ってもいいと思う)、これまたSクラス相当のADAS(先進運転支援システム)など、過剰とも思える演出に満ちた、派手なセールストークを展開している。

メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン(A200 4MATIC/A200)

AIのディープラーニングでMBUXは格段に進化

メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン(A200 4MATIC/A200)

さらに、今回の新型Aクラスには、ご存知の通り車載型AI「MBUX」が搭載されている。この減価償却という意味でも、MBUXが標準装備とされるAクラスシリーズの販売台数拡大は絶対条件なのだ。

さて、話がMBUXに及んだので、実際にシアトルでの試乗の際、テストすることが出来たアメリカ版MBUXに関しての感想を述べておこうと思う。

今年5月にクロアチアで開催された新型Aクラスの試乗会に用意されていたMBUXは欧州英語対応モデルであった。

この様子はすでに私が個人的に開設しているYoutubeでも公開しているが、言語認識力に関しては自らの英語力をコテンパンに打ちのめされる結果となったものだ。何度話しかけても「よくわかりません」と返されてしまう。

翻ってアメリカ版は、何故かとっても相性がいい! 何を言ってもレスポンスよく理解してくれるし、その返答も芯を喰っていて、コミュニケーションの手応えを存分に感じられる結果となった。

メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン(A200 4MATIC/A200)

この事例に関して、現地担当エンジニアに確認したところ、それはプロバイダの差だと思う、との返答を得られた。また余談だがこのMBUXチームは同社エンジニアチームとしては異例に若く、そしてかなりフレンドリーだったのも印象的だ。プライドが高く自分のプロダクトに関しての意見は頑として譲らない、ドイツ職人的な自動車チームとはあきらかにキャラクターを分けていて、それも興味深い点だった。

実はこのMBUX、メルセデス・ベンツオリジナルのシステムではあるのだが、音声認識システム自体はサプライヤーに依存している。現在、音声認識システムをサプライしているメーカーはさほど多くない。同社のパートナーはグローバル展開をしている2社で、欧州版英語はニュアンスコミュニケーションズ社、北米版英語はサウンドハウンド社だ。

そして開発チームは、私(筆者)とサウンドハウンド社のそれの相性が良かったということではないか、と答えてくれたのだ。

しかし、こうとも考察出来る。

MBUXはクラウドシステムでもデータを収集し、日々学習している。今年5月、我々にお披露目された欧州版の公開から、9月末までの米国版発表までに、ものすごい勢いでAIが学習したのではないだろうか。

先日、日本語版MBUXを、限られたシチュエーション上ではあるがテストしてみた。オンラインにもなっておらず、車載バージョンのみの公開ではあったからきちんとした評価も出来ないほどの環境下だったのだけど、正直に言えば「う~ん」といった感じだった。しかし、この欧州版~米国版の言語認識能力の向上を進化と捉えるべきならば、使えば使うほどに賢くなっていく、そしてそのスピードは我々の想像を絶するはず。かなり期待したい。ちなみに、日本の言語認識ソフトはニュアンスコミュニケーションズジャパンが担当する。

ちなみに、この試乗会において、MBUXを含めたメルセデス・ベンツのIT部門の新オフィスが我々にもお披露目された。それが何を隠そう、第二のシリコンバレーと言われ、数々のIT企業ひしめくシアトルの中心部にあるのだ。同社としては、他IT企業との連携や、また肌感でのITトレンドを知るために、そして優秀な人材を獲得するために、おそらくこの地をオフィスに選んだのだろう。

この試乗会ほど、自動車業界に押し寄せている50年に一度の大変革期の波を身をもって感じたことはなかった。

メルセデス・ベンツ 新型Aクラスセダン(A200 4MATIC/A200)

600kmに及ぶ試乗も快適にこなす優しさと頼もしさ

さて、肝心の走行性能についてはどうか。

今回の新型Aクラスセダンの試乗にはA220セダンが用意された。2リッター直4直噴のターボガソリンエンジンを搭載するもので、午前・午後でFF と4MATIC(四輪駆動)に乗り換えをした。

試乗ルートはマウント・レーニア国立公園を抜け、コーウィッチ・キャニオンまでの片道300km(!)の旅。スキーリゾートなどもある長いワインディングロードも、またひたすらにクルーズを続けるハイウェイもある、走りごたえの多分にありすぎるルートだ。

いくら私達が三度のメシよりクルマが好き、言うてもですよ、朝から晩まで600kmはやりすぎやろ、と私も思います。でも規定だからしょうがないと走り出してみれば、これがまあとってもコンフォートなのだ。

そもそも今回の刷新によって、ベースとなるAクラス自体の走りの質感は飛躍的に向上している。

それは、先代よりも格段に高められた高い剛性のおかげでもあるし、その結果フレキシブルにサスペンションが動くことに加え、上級モデルにはさらにリアがマルチリンクになるという、まるで親子ほどの進化を見せた結果だ。

しかし、Aクラスセダンではさらにこの質感の向上が顕著。

だいいち、乱流(タービュランス)の起こりやすいハッチバックスタイルよりも、空力に優れたセダンシルエットは、それだけでも挙動の収束に優れ、またハンドリングにも高い効果が得られるっていうのはセオリー中のセオリー。数値としてもCd値は0.22と、ちょっとしたスポーツカー並みだ。

軽量で小型のボディーに、Cクラス下位グレードよりも大きなエンジンだから、トルクもパワーも申し分ない。どんな登坂道でも実にワイルドにガシガシと登ってゆく。

制震・静粛性能に関してはCクラスに劣るが、アクセルを踏む方向に関してはむしろスポーティネスを感じさせるほどで、これはこれで愛好家が出来そうでもある。

特にFFとの相性が悪くなく、グイグイとコーナーの先を鼻先軽く攻め続ける感じは、身のこなしの軽やかさも手伝ってかなり好印象だ。

対し4MATICは驚くほど重厚。ハンドルもズシッと重みを増し、直進安定性は抜群なので、ラグジュアリーなセダンを求めるならばこちらを、スポーティな若々しさが欲しいならFFを選べば良いだろう。

しかし、おそらく日本導入はハッチバックと同じくA180からだろうから、このエンジンが導入されるか否かはまだ祈るしかなさそうだ。

Aクラスセダンの日本導入は、ハッチバックから1年先の2019年末とかなり先だそうだが、エレガントな“A”を求めるなら、待って吉だと思う。

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