ホークスの勝負強さが際立った全6試合 日本シリーズを振り返る

ソフトバンク・甲斐拓也【写真:藤浦一都】

初戦は勝負どころで代打策が功を奏すも、互いに譲らずドロー発進

「SMBC日本シリーズ 2018」では、セ王者・広島との2度の延長戦、1度の引き分け、両チーム計17得点の乱打戦を制したソフトバンクが、4勝1敗1分で2年連続日本一に輝いた。その6試合を振り返り、それぞれの試合を分けたポイントについて振り返っていきたい。

 初戦、ソフトバンクの先発マウンドには千賀が上がったが、初回から広島打線に捕まり、2点を先制される苦しい立ち上がりとなる。打線も、広島の先発・大瀬良の前に4回まで無安打に抑え込まれた。

 しかし、5回に2死二、三塁のチャンスを迎えて、次の打者は千賀という場面。ここが勝負どころと判断した工藤監督は、DH制がない影響でベンチスタートだったデスパイネを代打起用し、復調気配の千賀を4回で降板させる大胆な策に打って出る。そして、見事その期待に応え、頼れる助っ人は痛烈な打球を飛ばした。

 同点タイムリーかと思われた打球は二塁の名手・菊池の好守に阻まれたものの、一塁への送球を松山が捕球できず。その間に走者2人が生還し、代打策が功を奏したソフトバンクが試合を振り出しに戻した。

 その後は、両チームの中継ぎ陣が踏ん張り、2-2のまま延長戦へ。ソフトバンクは再三チャンスを作ったが、絶好機でもう1本が出ず。ただ最後まで広島打線にサヨナラを許すこともなく、12イニングスを戦い抜いた。

 仕切り直しの初勝利を狙う第2戦、ソフトバンクは大幅な打順のテコ入れを敢行。デスパイネを左翼で、同じく前日ベンチスタートだった松田宣を三塁で先発出場させ、 6打数無安打4三振と精彩を欠いた上林をベンチに下げる攻撃的なオーダーを組む。

 そんな中で先発マウンドを託されたのは、2年連続の2桁勝利を達成したバンデンハークだった。しかし、守備のミスにも泣いて5回5失点(自責点3)。打線も、広島のジョンソンらに4安打1得点に抑え込まれ、そのまま先勝を許す形となった。

第3戦は先発の好投と打線の奮起、最後までもつれた乱戦を制してタイに

 ヤフオクドームに帰ってきたソフトバンク。シリーズ初勝利を懸けた先発マウンドには、ミランダが上がる。被安打7与四球2と決して本調子ではなかったが、要所を締めるピッチングで6回途中3失点と何とか試合を作った。

 打線は4回に2点を先制し、5回に1点を返された直後にも2点を追加。さらに6回に2点を返されて再び1点差に詰め寄られるものの、その裏には一挙4得点。7回にも高谷のソロで追加点を挙げ、6点の大量リードを持って試合終盤を迎える。

 それでも、工藤監督は慎重を期して小刻みな継投策をとり、8回に加治屋をマウンドに送る。しかし、この選択がまさかの大誤算。鈴木にソロ弾を浴びると、あっという間に満塁のピンチを招き、何と安部に満塁被弾。この回で一気に5点を返され、スコアは一気に1点差となってしまった。

 1点というわずかなリードで迎えた9回、守護神の森がマウンドに。2死一、三塁と一打同点のピンチを招いたものの、しっかり試合を締めくくり、チームは今シリーズ初勝利を手にした。両チーム計28安打17得点の乱打戦となったが、先発のミランダの粘りの投球と、2試合で3得点だった打線の奮起が、白星につながったと言えるだろう。

 勝敗を1勝1敗1分のタイに戻したソフトバンク。第4戦の先発は、故障からの復帰後、好投を続けていた東浜だった。東浜は初回に丸選手に二塁打を浴びたものの、守備陣の見事な中継プレーにより無失点で切り抜ける。これで流れに乗り、5回までを鈴木のソロ弾のみに抑え、5回1失点と先発の役目をきっちりと果たした。

 打線は、絶不調だった上林に飛び出した待望の一発で先制に成功し、続く4回にもデスパイネのソロで追加点を挙げる。6回には好機で代打起用された長谷川勇が初球をタイムリーとし、仕事を完遂。計4得点を奪って、試合の主導権をがっちりと握った。

 6回からは中継ぎ陣が完ぺきな無安打無失点リレーをつないで、ゲームセット。投打に安定した試合運びを見せたソフトバンクが、日本一に向けて一歩リードした。

5戦目は継投の誤算を打線が救う。最後は頼れる4番がサヨナラ弾

 勝てば日本一へ王手をかけることになるが、敗れれば2勝2敗1分のタイで敵地に戻ることになる第5戦。この重要なマウンドを託されたのは、中4日の千賀だった。

 千賀は2回に1点を失ったものの、粘りのピッチングで追加点を許さず。すると、4回無死満塁から中村晃が鮮やかな逆転打。この1点リードを守り切りたい千賀だったが、5回に一打同点のピンチを迎えたところで、工藤監督は左腕モイネロにスイッチする。

 しかし、そのモイネロが今シリーズ絶不調にあえいでいた丸に2ランを浴び、一撃で逆転を許す最悪の形に。5回に投ゴロで同点に追い付いたものの、直後の6回に今度は武田が被弾して再び勝ち越され、重い雰囲気のまま試合は進んでいった。

 勝負を分けたのは、伏兵と4番に生まれた2発の快打だった。7回に、明石が広島のセットアッパー、フランスアから同点ソロを放つと、延長10回に相手の守護神・中崎から、不調だった柳田がサヨナラ弾。誤算続きの試合を最高の形でひっくり返したソフトバンクが、ついに日本一に王手をかけた。

 舞台を再びマツダスタジアムに移した第6戦。ソフトバンクはバンデンハークに先発を託す。第2戦では苦しんだ右腕だったが、この大一番では文句のつけようのない素晴らしいピッチングを見せた。甲斐が日本シリーズ新記録となる「6連続盗塁阻止」を決めて流れを渡さなかったこともあり、バンデンハークは6回を投げて被安打4、奪三振10、無失点の快投。打線も西田のスクイズとグラシアルのソロ弾で手堅くリードし、投手陣ももぎ取った得点を守り抜いていく。

 武田、嘉弥真が無安打無失点でいつも通り仕事を果たすと、9回は守護神の森が登板し、広島の菊池、丸、鈴木を危なげなく3者凡退に抑えて試合終了。この大舞台でも浮足立つことなく、強みを発揮して完封リレーをつないだソフトバンクが、見事に2年連続となる日本一に輝いた。

 このシリーズにおいて、相手の機動力を封じた甲斐の働きを見逃すことはできないだろう。6回盗塁を企図されたが、そのすべてを刺殺。12球団トップの盗塁阻止率を誇る「甲斐キャノン」で、広島に攻撃のリズムをつかませなかった。この活躍が評価されて、打率.143、打点0ながら、日本シリーズMVPに選出されている。

 見応えのあるゲームが数多く繰り広げられた今シリーズ。それでもソフトバンクが4勝1分1敗と、勝敗で大きな差をつけて日本一を勝ち取った。その理由は、継投、打撃、守備といった各セクションで「勝負どころ」を見極める力に優れていたからだろう。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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