映画の8割はシネコン外にあり 若い世代と『MOOSIC LAB』『日藝映画祭』

『全国コミュニティシネマ会議2018 in 山形』の分科会『若年層の観客を開拓する』の模様

▼日本の映画館のスクリーン数(約3500)の88%は、主に大手企業が経営する複合映画館(シネマコンプレックス)で占められている。一方で、早稲田大学の土田環講師によると、シネコンで上映される映画は、国内公開作品(2017年は1187本)の約20%でしかないという。残り80%は、ミニシアターと呼ばれる映画館などで上映されていることになる。

▼日本大学藝術学部の古賀太教授によると、映画学科に入ってくる学生でも「映画館といえばシネコンしか行ったことがない」という人が多いのだという。ミニシアターの数が多くないことも理由の一つだろう。ただ、シネコンで上映されるマーケティング重視の大作や、いわゆる娯楽作もいいが、それ以外の、さまざまなカタチをした映画から受け取れることの豊かさを知る人々は、残り80%の中にある良作にもぜひ出合ってほしいと願う。各地のミニシアターや、そこで上映される作品の製作者たちにとって、若い観客にいかに足を運んでもらうかは、共通した課題になっている。

▼その課題が『全国コミュニティシネマ会議2018 in 山形』(9月28、29日)で話し合われた。全国のミニシアターや映画祭など上映に携わる人々が集う場だ。

▼若者の支持を集めるインディーズ映画が『MOOSIC LAB(ムージック・ラボ)』という祭典から幾つも生まれている。「音楽×映画」がコンセプトで、ミュージシャンと映画監督がコラボして映画を作る。ムーラボ企画者の直井卓俊プロデューサーがコミュニティシネマ会議の分科会に来ていて、客席から発言した。

「ライブハウスに来るような人を狙いました。やっていくうちに興味を持った若い人がどんどん来るようになって。7年目なので企画自体が成熟したかなと思います」と言う一方で、「東京にはインディーズ映画を見る、(映画館を)ぐるぐる回っている人たちが一定数いますが、地方は正直難しくて、東京の10分の1以下の数字しか出ないので、選ばれた作品だけをしっかりと興行として打っていくようにしています」とも語った。

▼日藝の古賀教授の報告は、あけすけでおかしかった。「学生たちは、人の映画は見ないけど自分は作りたいって人が多いです。自主的には見に行かないですよ。ずっとスマホ見ていますし。授業中もスマホ見ているぐらいですから」というのが近年の状況という。

▼かつて古賀教授が講義で「次は(公開中の)この映画を取り上げるから全員見てこないとダメだよ」と言ったら、ある学生の実家の保護者から「映画を見に行かせるからお金がかかって仕方ない」と大学にクレームが寄せられたという。そこで古賀教授は大学と相談し、チケットを大学の費用で購入し、1人当たり年に約10本、見に行かせることにした。シネコン以外で上映される作品だ。

▼すると、「生まれて初めて○○○○○(←ある映画館)に行きました。幽霊屋敷みたいで面白かった!」といった、やけに新鮮な反応もあり、「1年たつと、かなりの学生たちが(シネコン以外の映画館やそこでの上映作品群に)目覚めてきます。1年生のうちにそうやって洗脳するのがいいです(笑)」と古賀教授。元々は関心のなかった範疇の映画でも、10回程度見に行き続けてくれれば、慣れ親しむものなのだという実例を知り、かすかながら希望を感じる。

▼幼い頃から多様な映画に触れる機会を設けることや、その案内役を育成することができたら、もっと良さそうだ。東京・渋谷の映画館「ユーロスペース」の堀越謙三代表は、会議の全体会で、日本芸術文化振興会の映画祭助成金や、学校の体育館などを使う文化庁の委託事業「文化芸術による子供の育成事業」を挙げて、「ぜひ利用してほしい」と呼び掛けた。

▼日藝・古賀教授のゼミ生たちは、3年生になると、自分たちで映画祭の企画を練り、上映作品の選定、上映のための交渉、トークゲストの出演依頼や宣伝も行い、12月に『日藝映画祭』をユーロスペースで開く。開催にこぎ着けるためには、企画が興行として成り立つか否か、ユーロスペースの支配人に判断してもらい、ゴーサインをもらわなければいけない。

▼昨年第7回の企画は『映画と天皇』、第6回は『信じる人をみる 宗教映画祭』、第5回は『ニッポン・マイノリティ映画祭』と、毎回興味を引かれるテーマ設定だ。そして第8回の今年は『朝鮮半島と私たち』で、12月8日(土)~14日(金)に開催される。チラシには、上映作の一つ『キューポラのある街』(1962年)主演の吉永小百合さんが映画祭に寄せたコメントも掲載されている。

若い人たちのこうした<映画を見せる、見る>の取り組みが、増えたり、積み重なったりするといい。

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第117回=共同通信記者)

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