キャデラック 新型CTS-V試乗|欧州勢とはひと味違うアメリカンスーパースポーツセダンという存在

キャデラック CTS-V

果たしてセダン市場は衰退してしまったのか?!

最近は価格の高いLサイズセダンの売れ行きが日本だけでなく海外でも下がり、フォードはセダン市場から撤退する方針を示した。しかしクルマ好きとしては、まだ諦めるのは早いと思う。セダンの衰退とは逆に、背の高いSUVが世界的に流行しているが、走行安定性と乗り心地は今でもセダンの方が高めやすいからだ。セダンは天井が低いために重心も下がり、後席とトランクスペースの間に設けられた隔壁は、ボディ剛性を確保する上で有利になる。

今はいろいろな分野で「安心と快適」という言葉が使われるが、クルマのカテゴリーに当てはめるとセダンが筆頭に挙がる。SUVも本質的には悪路走破力が高く「安心」を高めるが、今は2WDの乗用車的なSUVが増えた。クルマの「安心と快適」を突き詰めると、セダンはSUVに勝る。また北米向けに開発されたレクサス ESが、2018年10月24日から国内販売を開始した。今では冴えない印象が付きまとうセダンながら、商品開発は活発に行われている。

そこで改めてセダンを取り上げることにした。セダンといえば日本車ならトヨタ クラウン、輸入車ならメルセデス・ベンツ Eクラスなどを連想するが、フォードのセダン市場撤退やレクサス ESの国内発売を踏まえて、久しぶりにアメリカ製のセダンを試乗しようと考えた。

そこで車種選びに移ると、アメリカのセダンはほとんど輸入されていない。日本からフォードが撤退した今、アメリカ車の選択肢自体も減っている。この状況の中で、アメリカ製セダンを支え続けるのがキャデラックだ。GMの高級ブランドに位置付けられ、比較的コンパクトなATSから大柄なCT6まで、セダンを幅広くそろえる。今回試乗するのはCTS-Vとした。CTSはキャデラックのセダンでは中級の車種で、メルセデス・ベンツであればEクラスに相当する。CTS-Vはその高性能仕様だ。

キャデラック CTS-V

ボディサイズは全長が5040mm、全幅は1870mmだからかなり大きい。日本車に当てはめると、レクサスのGSとLSの中間くらいだ。しかも左ハンドルしか選べない。2018年10月7日に掲載した

キャデラック XT5クロスオーバーの試乗記

でも述べたとおり、日本で左ハンドル車を使うと不便なことが多い。特にCTS-Vは大柄だから、今回の試乗でも狭い道のスレ違いなどで気を使った。日本で左ハンドルを選ぶのは自己責任としても、販売する以上は右ハンドルも用意すべきだ。それはメーカーが、販売する相手の市場に合わせるという意味で、顧客に向けた礼儀にも通じるだろう。

キャデラック CTS-V

ベースグレードから2倍以上のパフォーマンスアップ

キャデラック CTS-V

CTS-Vで最も注目すべきはエンジンだ。V型8気筒OHV(オーバーヘッドバルブ)という古典的なメカニズムを踏襲した直噴式の6.2リッターエンジンに、スーパーチャージャーを装着する。最高出力は649馬力(6400回転)、最大トルクは87.2kg-m(3600回転)と相当に力強い。この数値を単純に自然吸気エンジンに置き換えると、排気量は9リッター並みだ。キャデラック史上最強の性能だという。トランスミッションは8速ATを組み合わせた。

ちなみにベースグレードのCTSは2リッターのターボを搭載して、276馬力/40.8kg-mの性能を得ている。これでも十分だが、CTS-Vの数値は2倍以上だ。しかも駆動方式は後輪駆動の2WDになる。ベースのCTSは4WDだから、駆動力の高いCTS-Vには一層4輪駆動が求められるが、そうなっていない。ドライバーを挑発するというか、あえて乗りこなすのに技術を要するクルマに仕上げている。

そこで動力性能を試すと、排気量が6.2リッターもあるから、低回転域から十分な駆動力が発生する。エンジン回転がほぼアイドリングの状態から、アクセルペダルをわずかに踏み増しただけでも、駆動力を確実に高める。パワーアップする過給器が、排気ガスを利用するターボではなくエンジンの駆動力を使うスーパーチャージャーだから、加速感はアクセル操作に対して常に忠実だ。まさに9リッターの自然吸気エンジンを搭載しているように、直線的な加速を味わえる。

動力性能が強烈だから、アクセル操作には注意が必要だ。試しにアクセルペダルを深く踏み込むと、後輪が激しく空転してトラクションコントロールが作動した。車両が安定するように気を使っても、加速の仕方は一般的な乗用車と大きく異なる。風景の流れに目が追い付かない感覚が伴う。メーカーが公表したデータによると、停車状態から時速60マイル(時速96.5km)に達するまでの所要時間は3.7秒だという。これはスーパースポーツカー並みの加速性能だ。

これだけの性能を全高が1465mmのセダンボディに組み合わせたから、走行安定性やブレーキ性能を強化する必要も生じた。足まわりのショックアブソーバーには、マグネティックライドコントロールが使われる。磁性体を含む液体に磁力を作用させ、減衰力を瞬時に変化させる仕組みだ。路面状態に応じて、1000分の1秒単位でショックアブソーバーの減衰力を制御できるという。タイヤサイズは19インチで、前輪が265/35ZR19、後輪は295/30ZR19になる。銘柄はミシュラン・パイロットスーパースポーツであった。

操舵感はハンドルを回し始める初期段階から、かなり機敏に締め上げた印象だ。車両の向きを素早く変えやすい。車両重量は1910kgと重く、運転感覚でもそれを意識させるが、グリップ力はさらに高い。後輪駆動と相まって、峠道でも車両が内側へしっかりと回り込む。なおかつ安定性も満足できて、峠道の下り坂でハンドルをさらに切り込みながらアクセルペダルを戻すような操作を強いられても、後輪が良く踏ん張る。

その代わり乗り心地は硬い。走行モードを通常の「ツアー」に設定しても、路面の細かなデコボコを伝える。足まわりの基本性能が高いので、タイヤが路上を細かく跳ねるような粗さはないが、セダンとしては硬めであることは確かだ。ブレーキはブレンボ製で、前輪は6ピストン、後輪には4ピストンのキャリパーが備わる。ブレーキディスクも大きく、操作感はガッシリした印象だ。

キャデラック CTS-V

クルマと格闘するような運転感覚を味わえるのがCTS-Vの個性

キャデラック CTS-V

シートはレカロ製で、乗員の体を確実にホールドする。ここまで動力性能が高いと、着座姿勢が乱れれば危険も生じるため、運転席をしっかりと造り込んだ。運転感覚はまさにスポーツカーだが、居住性はベース車のCTSと同じだから、大人4名が快適に乗車できる。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ分だ。広々感はないが、4名で長距離を移動できる実用性が備わる。

価格は1365万7408円だ。ベースとなったCTSプレミアムのカーナビ装着車が690万5000円だから、CTS-Vの価格は約2倍に相当する。

メルセデス・ベンツ Eクラスでいえば、動力性能はAMG並みだ。AMG E 63 4マチックプラス(価格は1668万円)は、最高出力が571馬力(5750~6500回転)、最大トルクは76.5kg-m(2250~5000回転)になる。

AMG E 63S 4マチックプラス(1805万円)になると、612馬力(5750~6500回転)・86.7kg-m(2500~4500回転)だ。AMGは駆動方式が4WDだから一概に比べられないが、CTS-Vの価格は、プレミアムブランドの高性能セダンとしては妥当といえそうだ。

キャデラック CTS-V

キャデラックCTS-Vの特徴は、少し古典的なクルマと格闘するような運転感覚を味わえることだろう。今はクルマが熟成され、運転の楽しさも当然に安全を前提とするが、CTS-Vのクルマ造りは絶妙だ。安全を妨げない範囲で、楽しさの幅を広げようとしている。高出力エンジンと2WDの組み合わせも、その表現のひとつになる。

この運転する楽しさの明快な表現は、欧州のプレミアムブランドに対するキャデラックの個性にもなっている。そしてCTS-Vのような高性能は、低重心で高剛性のボディを備えるセダンだからこそ可能になった。

だとすれば、キャデラックの本質を味わえるのは、SUV時代の今でも依然としてセダンなのかも知れない。冒頭で触れたレクサスESにも当てはまる話だが、趣味性の強い高級車のブランド表現には、今でもセダンが欠かせない存在になっている。

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