THE COLTS - 宇宙一のパーティー・バンドが体現する"ごった煮ロックンロール・サーカス"の真骨頂

野音でスカーフェイスの有終の美を飾れた喜び

──何はともあれ一昨日の野音、土砂降りのなか本当にお疲れ様でした。
KOZZY:モッズの雨の野音はビデオで何万回と見たけど、できれば自分たちでは体験したくなかったね(笑)。野音では何度もライブをやったことがあるけどあそこまでの雨は初めてで、大雨の野音はこういうものなんだなと思ったけど、もういいかげん大人だから心配することのほうが多かったよね。濡れた機材が耐えられるのか? 最後までライブをやれるのか? これ以上雨が酷くなったらモッズがライブをやれないんじゃないか? そのために僕らがちょっと早めに終わったほうがいいんじゃないか? とかさ。音が出なくなったらおしまいなので、その辺のことを随時確認しながらライブをやることになったね。
──パーティー・バンドらしく明るく楽しく振る舞いながら、かなり冷静沈着だったんですね。
KOZZY:ムダに大人になってないからね(笑)。とにかくお客さんが寒がって辛そうだったので、まずはしっかり盛り上げようと思った。
TOMMY:普段のライブよりもいろんな状況を見てたよね。お客さんのことはもちろん、カメラ・クルーは大丈夫なのか? とか。
KOZZY:ステージからお客さんの顔もよく見えたし、みんなの体から湯気が立ってるのも見えたしね。
──今回のモッズとのスプリット・ツアーは『THE MODS×THE COLTS TOUR 2018 “GOOD-BYE SCARFACES”』というタイトルでしたが、スカーフェイス(モッズが1991年から1994年まで主宰していたレーベルで、コルツも所属していた)としての活動はこれで終了ということなんですか。
KOZZY:そうだね。森山(達也)さんの中ではずっとスカーフェイスが完結していなかったんだと思う。森山さんは過去に何度も話していたからね、ずっと煮えきらないままでいたスカーフェイスをいつかきちんとした形で終わらせたいって。
──去年のスプリット・ツアー『LITTLE SCARFACE FESTA 2017』で落とし前がついたわけではなかったんですね。
KOZZY:やっぱり有終の美は野音で飾りたかったんだと思う。野音は抽選だから、運よく取れたらそこで終わりにしようとしたんじゃないかな。それでいざ取れたらまさかの集中豪雨だったっていうさ(笑)。
TOMMY:それもきっかりライブの時間帯だけでね(笑)。
KOZZY:でも僕は若干期待してた部分もあったね。僕らの後のモッズで大雨になって、最後に「TWO PUNKS」をやらないかなって(笑)。
──まさに期待通りの展開でしたね。
KOZZY:モッズはやっぱり神懸かり的だなと思ったね。あんな大雨の演出、狙ってできることじゃないからさ。僕らはお客さんを温めて盛り上げておくのは得意だし、今回もその役は喜んで買って出たけど、コルツには「TWO PUNKS」みたいに雨が降ったら急遽差し替えて盛り上がる曲なんてないからね(笑)。
──コルツとしても今回のスプリット・ツアーでスカーフェイスをしっかり成仏させたい気持ちがあったんですか。
KOZZY:そもそも僕がコルツを結成したのはスカーフェイスに入るためだったし、コルツというバンド名も森山さんが名付け親だったからね。森山さんに1年間付いてまわって、その間にメンバーを見つけてスカーフェイスを一緒に始めたのがコルツのスタートラインだったから、自分たちのスピリットとしてはモッズと一緒に有終の美を飾れたのが嬉しかったよ。

──野音のライブで先行発売された『MORE BASTARD!』は、前作『BASTARD!』の制作時から二部作でいこうと考えていたのか、今回のモッズとのスプリット・ツアーに合わせて制作されたのか、どちらなんでしょう?
KOZZY:まず、前作の『BASTARD!』はスカーフェイスのツアーがあったから作ったわけじゃなくて、コルツの新作を出そうと考えていたタイミングがたまたま重なっただけなんだよね。『BASTARD!』は自分たちの予想以上にいいものが作れた手応えがあって、できてすぐにA&Rの川戸(良徳)から「この続編をぜひお願いします」と言われてさ。去年の単独ツアーのタイトルが『MORE BASTARD!』だったから、それをそのままタイトルにしたアルバムを作ろうと思ってね。
──「コルツをちゃんとやろうとすると、マックショウの3倍くらいの時間がかかる」と岩川さん自身も話していたし、前作から約1年半でよくこれだけ充実した作品を作れたなと思ったのですが。
KOZZY:それなりに時間はかかったけどね。コルツは大所帯なので、まず最初に全員がスタジオに集まるのに時間がかかるから(笑)。今回は続編という位置づけだったので前作と同じく新曲とセルフカバーを織り交ぜた構成にしたんだけど、セルフカバーよりも着想がすでにあった新曲のほうが仕上がるのは早かったかな。コルツはわりと初期の段階でずっと大事にしていくような曲を作って、そういう曲は事あるごとにセルフカバーしてきたんだけど、今回は今まで再録しようとも思わなかったメジャー時代の曲を川戸からリクエストされてさ。「いい曲だからぜひ録り直してください」って。聴き直してみたらたしかに意外と良くてね。
──「WALKIN' IN THE RAIN」や「天国と地獄」といったBMG時代のナンバーですね。
KOZZY:うん。あの時代の曲はもちろんナシではないんだけど、もう過ぎた話って言うか(笑)。
TOMMY:過ぎた感はあるよね(笑)。その前のフライハイト時代よりも印象が薄いし。
KOZZY:フライハイト時代は1日に3曲くらい作っててさ。当時の曲は今聴いてもなかなか味わい深いんだけど、いい曲はすでにセルフカバーもしちゃったし、ライブでも定番化してるので、今回はそうじゃないところを探してみたわけ。それが「MAMMA MIA」だったり「KANEMAWASE」なんだよね。
──コルツに対して深い思い入れを抱くファンは多いし、セルフカバーはヘタなものにできないという理由から時間がかかったわけですね。
KOZZY:僕らの思い入れとはまた違う思い入れがファンにはあるからね。自分たちとしてはメジャーよりもフライハイトでやってたインディーの頃のほうが思い入れは深いし、期間的にも長いんだよ。メジャー時代は2年くらいしかないからね。ただ、メジャーの頃はインディーの頃の10倍はCDが売れたんだよ。生々しい話だけどその差は歴然とあったし、やっぱりポンキッキやマクドナルドのCMに出ると全然違うんだなと思ったね(笑)。だけど、CDが10倍売れてもテレビに出ても全然カネにはならないんだってことをメジャー時代に明確に理解して、それなら全部DIYでやったほうが自分たちのためにもなると思ってメジャーから離脱したわけ。
──今回再録された「LOVE KILLS THE CAT」は、メジャー撤退後に“B.A.D RECORDS UNITED”を立ち上げた最初期の作品『SPARKED PLUG EP』に収録された思い出深い楽曲ですよね。
KOZZY:実を言うと、「LOVE KILLS THE CAT」はコルツを結成して一番最初に作ったオリジナル曲なんだよ。「銀行強盗」とかと一緒にね。ちゃんとした形で収録したのは『SPARKED PLUG EP』が最初だったんだけど。
TOMMY:「HEY! DILLINGER」は?
KOZZY:あれは結成してから何曲目かにスカーフェイスありきで作った曲で、「LOVE KILLS THE CAT」のほうが先。

──とかくそういうセルフカバーに目が行きがちですけど、今回は「HEY YOU BASTARD!」を筆頭に7曲の新曲のクオリティがずば抜けていますね。
TOMMY:新曲が良くなければアルバムは出したくなかったからね。前回の『BASTARD!』の新曲が僕は個人的にすごく好きで、あの感じをもっと突き詰めたかった。オリジナル曲に関しては『BASTARD!』と『MORE BASTARD!』の2枚でひとつの作品として捉えてもらえると嬉しい。
── 一昨日の野音でも披露された「DOG DAY AFTERNOON」の出来がとにかく素晴らしいんですよね。無条件に踊れるコルツらしいノリの良いナンバーでありながら、聴き手の背中を押すような歌詞がまたすごく良くて。「捨て身の若さだけが売り物だった」若者が大人になって八方塞がりになるものの、「捨て身の若さなんか 過去にくれてやれ」とあきらめずに前を向いていくという。
KOZZY:まぁ、老いからは逃れられないからね。ロックは若い世代のものだし、歳を取ってやるもんじゃないとは思うけど、コルツはもともと大人っぽい音楽を目指していたから今のほうが身の丈に合っていると言うか、わりと自由にやれているんだよね。昔はこんなふうにやりたかったんだろうな、っていうのがセルフカバーをしてみるとわかるし。だからと言って腰を据えて本物のブルースをやるとかでもないんだよ。そこまでの実力もないしさ(笑)。
──「DOG DAY AFTERNOON」というタイトルは、アル・パチーノが実在の銀行強盗犯を演じた同名映画(邦題『狼たちの午後』、1975年公開)からインスパイアされたんですか。
KOZZY:うん。スプリット・ツアーに合わせてモッズとコラボ・シングル(『汚れた顔の天使達』)を作ったんだけど、森山さんが作ってきたのが「汚れた顔の天使達」と「俺達に明日はない」というどちらも映画のタイトルを使った曲でね(『汚れた顔の天使』は1938年公開のギャング映画、『俺たちに明日はない』は1967年公開の犯罪映画)。じゃあこっちも映画っぽいのにするかと思って「DOG DAY AFTERNOON」を作ったんだけど、けっこういいのができちゃってさ。コルツの新作の軸として持っていける曲だと思ったので、『MORE BASTARD!』のほうに入れることにした。モッズとのコラボ・シングルには「Down By Law」(『ダウン・バイ・ロー』、1986年公開のジム・ジャームッシュ監督作品)という曲を入れてね。
──岩川さん自身も手応えがあったからこそ「DOG DAY AFTERNOON」は配信先行シングルとして発売されたんですよね?
KOZZY:そうだね。久々にコルツらしくできた曲だなと思って。
──曲間の「Come On! Fight On!」という英語のセリフは森山さんが担当されていますね。
KOZZY:曲に合うようなメッセージを森山さんに入れてほしくて、考えてもらってね。もちろんリスナーに対してのメッセージではあるんだけど、コルツのメンバーに対して頑張れっていうメッセージでもあると勝手に思ってる。森山さんとはいまギャング・バスカーズというバスキング・ユニットをやってるし、僕のソロ・アルバム(『MIDNITE MELODIES』)でも「ワンパイントの夢」という曲を森山さんに一緒に唄ってもらったんだけど、同じミュージシャンとして良い相乗効果を生んだものを残したいんだよね。「DOG DAY AFTERNOON」で森山さんにセリフを吹き込んでもらったのもその延長線上にあると言うか。
──「ワンパイントの夢」は「DOG DAY AFTERNOON」と同じく聴き手を鼓舞させる曲でしたね。
KOZZY:世界観は近いね。でも「あきらめんな」とか「駆け抜けろ」といった誰かを奮い立たせるような歌詞は自分に向けて唄ってるんだよ。一昨日の野音でもあの雨の中でこれ以上頑張れないかなと思ったしね(笑)。

──野音のオープニングSEとして使われていた「HEY YOU BASTARD!」もコルツらしさが全開で、アルバムのオープニングに相応しい賑やかな曲ですね。
KOZZY:コルツのアルバムはオープニングをインストにすることが多かったし、「HEY YOU BASTARD!」も最初はインストとして作ったんだよね。でも途中から歌を入れたほうがいいかなと思ってさ。
──「ロザリオ」は岩川さんのソロでも似合いそうなマリアッチ・テイストのナンバーですが、コルツとソロの線引きみたいなものはあるんですか。
KOZZY:今はもうほとんどないね。コルツの曲はもちろんコルツのメンバーと一緒に演奏するのを前提に作るんだけど、マックショウでも自分のソロでもいっぱい曲を作っているので、もうどれでもいいかなって感じだね(笑)。ソロでやっているホーン・セクションの入った曲はコルツでもできるしさ。
──疾走感溢れる曲ももちろんいいのですが、「SPANISH WALKING」や「OLD HABITS DIE HARD」のようにゆったりと朗らかに聴かせるミッド・テンポの曲も今のコルツにはしっくりくるように思えますね。
KOZZY:そうかもね。昔はその手の曲をやりたくても四苦八苦したもんだよ。頭の中にあっても体にないって言うのかな。
──いくら背伸びしても届かないみたいな。
KOZZY:うん。昔はロック・スピリットと合わさっていい感じでできていたかもしれないけど、今はいい意味で力を抜いてそういう曲を伸び伸びとやれる。
──「TRAIN IS COMING」のようなカントリー色の強い曲も今の身の丈に合った良さが出ていますね。
KOZZY:要はそれなりの説得力があるんだろうね。若いから説得力がないってわけじゃないけど、やりたい曲と年齢が徐々に合ってくるんだと思う。
TOMMY:昔のコルツはガチャガチャと勢いに任せて突っ走る感じだったけど、今回はゆったりした曲のほうが個人的にはいいなと思った。あまり速い曲だとやりづらく感じたし、脳がついていかないみたいな(笑)。それが歳を取ったってことなのかな? とも感じるけど、別に悪いことじゃないと思うし。だからゆったりめの曲のほうが演奏していて楽しかったね。逆に「天国と地獄」とかは速くて付いていけなくて、地獄だけだったから(笑)。
──“HELL or HEAVEN”じゃなくて“HELL and HELL”だったと(笑)。だけどいま思うと早熟ですよね、「MAMMA MIA」みたいなチャールストン調の曲を20代でやるなんて。
KOZZY:自分でもなぜあんな曲調をやろうと思ったのかよく覚えてないんだけど、ポーグスやマノ・ネグラのライブを観たことが影響しているのかと言えば、そこまで関係があるとは思えないんだよね。当時の自分は、いわゆるロックというカテゴライズじゃない音楽であれば何でも良かったのかもしれない。ブルース、レゲエ、スカ、ロカビリーといった『ロンドン・コーリング』の日本盤の帯に書かれているようなロック以外のジャンルをいろいろやってみたかったんだろうね。当時はそういうのを試行錯誤するアーティストが他にもいっぱいいたと思うんだけど、僕が彼らと決定的に違ったのは、とにかく歌が中心にある演奏を心がけていたことだね。
──ブルースやスカを極めようと求道的になるのではなく、いろんなジャンルをごった煮にしながらポピュラリティを兼ね備えた音楽を志向したわけですね。
KOZZY:コルツを結成した90年代の初頭は、スカをやるにも「何それ?」って言われたし、スカ自体が非常にマニアックなジャンルだったんだよ。スカパラが一般的に認知されるまではそんな感じだったんじゃないかな。当時の僕はそういうマニアックなジャンルのどれが自分にフィットするのかいろいろ試してみたかったし、コルツとしてマニアックな音楽をやるのがスカーフェイスで生き残っていくための手段でもあった。モッズという確固たる地位を築いた王道のバンドがいる一方で、自分には何ができるんだろう? と模索していた時期だったね。だから一緒にやるメンバーにも各自が好きな音楽はひとまず置いとかせて、コルツが志向する音楽を優先させたんだよ。
──先に着てみたいスーツを作っておいて、後からそれに体型を合わせる感じと言うか。
KOZZY:まさにそんな感じ。平たく言えば格好だけ(笑)。コルツはその格好の部分を徹底して突き詰めたところがある。それは音楽に限らず、衣装とかのヴィジュアル面に関してもね。だからバンド単位ではなく洋服屋さんとか音楽以外の部分に精通した仲間を含めた母体がコルツなんだよ。その母体があってマックショウがあるし、僕のソロ・ワークスもあるわけ。

──本作はカバーが2曲収録されていて、トゥーツ&ザ・メイタルズの「PRESSURE DROP」は納得の選曲なのですが、CCR〈クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル〉の「BAD MOON RISING」というのがとても意外だったんですよね。土の匂いのする泥くさいロックがコルツと全く結びつかなくて。
KOZZY:ああ、そう? CCRは昔からすごく好きなんだよ。いわゆる王道のアメリカン・ロックなんだけど、すごく音楽性に幅があるんだよね。
TOMMY:CCRは僕も好き。あんな演奏をしろって言われたらできないけどね。
KOZZY:シンプルにやることだけやるみたいな音楽の典型だよね。もうちょっと何かやったほうがいいんじゃない? と心配になるくらいのシンプルさだから(笑)。
──アメリカ南部のスワンプっぽい感じをCCRのカバーで出したかったと?
KOZZY:昔はドクター・ジョンの曲もやってたし、アメリカ南部っぽい感じの曲、それもめちゃくちゃ良くもないけど悪くもない曲っていうのを探している時にCCRの「BAD MOON RISING」を思いついてさ。ただ、あれは何とも言えない曲でね。多分チューニングを変えて、ヘンなキーでやってる異様なサウンドなんだよ。でもそれも歌詞を読んで納得した。“BAD MOON RISING”=「悪い月が昇る」ってことなんだけど、「地震が起きて雷が落ちる」とか「嵐が吹き 終末は近い」「川の氾濫は恐ろしい」とか、まさに今の日本で起きているようなことが唄われているわけ。それを表現するために、ああいう痒い所に全然届かないもっさりとした演奏なんだなと思って(笑)。カラッとしてないって言うか、最後まで救いがないって言うかさ。だから僕もチューニングを半音下げてちょっと気持ち悪い音にして、そうなると他の楽器も全体的に気だるいサウンドになるんだよね。
──徹底して明るい「PRESSURE DROP」と対照的にするのを狙ったんですね。
KOZZY:「PRESSURE DROP」はクラッシュのカバーも有名だし、抑圧されていたジャマイカの人たちが支配層に対して「今に報いが来るぞ」と言ってのけるプロテスト・ソングだけど、曲調が陽気で楽しいから救いがあるよね。だから一昨日の野音でも雰囲気が合うと思ってやることにしたんだよ。
──今年はマックショウの『GET DOWN THE MACKSHOW』の制作もあり、ラヴェンダーズの『Luv-Enders' Explosion!』のプロデュースもあり、KOZZY MACK名義の『HIROSHIMA SONGS』の急遽発売もありましたよね。それに加えてコルツの『MORE BASTARD!』の制作まであって、岩川さんはなぜここまでワーカホリックなんでしょう?
KOZZY:川戸が「こういうのを作ってください」といろいろ言ってくるせいかな(笑)。
TOMMY:悪魔のように働かせるスタッフがいるからね(笑)。
KOZZY:まぁでも、いろんな要素が絡んでるんだよね。夏に地元の広島が豪雨による土砂災害に見舞われて、何か力になりたいってことで『HIROSHIMA SONGS』を作ったんだけど、それもあり物の曲ではなくアコースティックでちゃんと録り直してさ。そのせいでラヴェンダーズの作業がちょっと遅れてしまったんだけど、出すからにはちゃんとしたものを作りたいんだよ。そうこうしているうちにモッズとのスプリット・ツアーが始まるってことで、野音の時点でコルツのアルバムがないとダメだなと思ってね。それで頑張って『MORE BASTARD!』を作ったわけ。できればスプリット・ツアーが始まるまでに間に合わせたかったけど、今回はスケジュール的に無理だった。何でもギリギリじゃないとやらない形を変えたいとは思ってるんだけどさ。
TOMMY:スイッチが入ると作業はすごく早いんだけどね。
KOZZY:何が早いって、歌詞を書くのが早いから。
──岩川さんの行動力と神田さんの適応力が上手く噛み合っているのもあるんでしょうね。
TOMMY:岩川が煮詰まっていても、こっちはずっと見届けることしかできないんだよ。どう出てくるかな? と思いつつ、いつでも準備できるようにはしてるんだけど。岩川は曲を作り始めたら早いし、その早さに付いていけなくなる時があるんだよね。
KOZZY:あまりの仕事量に自分でもおそれおののくことがあるけど、曲はまぁ書けちゃうんだよ。何とか手繰り寄せるような感じでね。「TRAIN IS COMING」なら、向こうから列車がやって来て、それに乗り込んで憧れのメンフィスまで行くみたいなストーリーかな? とかさ。「OLD HABITS DIE HARD」みたいな曲は、寝て起きたらできてたくらいの感じだしね(笑)。

──夢の中で「YESTERDAY」を作ったポール・マッカートニーの域じゃないですか(笑)。
KOZZY:全然そんなことないし、曲作りの途中で続きがなかなか出てこないことも多いんだよ。
TOMMY:帰り際に突然ひらめくことが多いよね。
KOZZY:前は朝までスタジオに籠っていたけど、最近は夜中の2時くらいで終わらせることが多くてね。もう帰ろうとしてスタジオのレコーディング機材の電源を全部落として、コントロール・ルームに戻ってから急にひらめいたりするんだよ。それでiPhoneでアコギを録音するんだけど、だったら機材の電源を落とさなきゃいいじゃんっていうさ(笑)。
TOMMY:帰る間際に「神田、こんな感じはどう?」って訊かれて「いいね」って言うと、次の日にはもうできてるからすごいよ。
KOZZY:機材の電源を落とした瞬間に素直になるんだろうね。霧が晴れたようにフレーズが出てくることがあるから。それまでは歌詞や曲を書いている以外にも演奏とかエンジニア的なこととかいろんな作業をしているし、電源を落とした瞬間に違うモードになるんじゃないかな。今回はそんなふうにできた曲が多いね。「IT'S TIME TO GO」もそんな感じ。1日の作業を終えて、コントロール・ルームでキーボードの多田(三洋)君と喋っていたらパッとひらめいた。みんながもう帰る時間にね。
TOMMY:多田君がいきなりウーリッツァーを弾き始めてね。岩川が「これ録っちゃおう」とか言ってて。
KOZZY:そのウーリッツァーの音がCDにそのまま入ってるんだよね。しかも録ったのはiPhoneだったんだけど(笑)。
──サーカスを思わせる鍵盤の音色ですね。
KOZZY:メンバーがみんな帰る支度をして、ああ、帰らなきゃいけないんだと思ったら急にあのウーリッツァーの音が頭に浮かんでさ。メンバーが帰るのは別に寂しいわけじゃないし、むしろ嬉しいくらいんだけど(笑)、ソングライターとしての回路が働いちゃったんだね。ライブが終わりがけの頃にお客さんが帰るのを寂しく感じるくらいの1日だったらいいなとか、そんな歌詞にしたかったから。
──ソングライターとしての岩川さんが最もコルツらしいポイントだと感じているのはどんな部分なんですか。
KOZZY:たとえばノリが良くてみんなで一緒に唄えるって部分は、今のコルツではあまり考えてないかもしれない。マックショウも一緒に唄える曲を作ろうなんて発想は毛頭なくて、あれはお客さんが勝手に唄ってるだけだから(笑)。もちろん唄ってくれるのは嬉しいことだし、それだけいい歌ってことだと思うんだけど、そこは別に狙ってるわけじゃない。何と言うか、いろんなことがあってもみんなが和気藹々とやっていることを表現するのがコルツの曲では大前提だね。それと、「IT'S TIME TO GO」でサーカスの画が浮かんでくるように、聴いてる人が画が見えるような曲にすること。コルツの場合、そういう世界感がない曲は迷わずボツにしてる。それ以前の大前提として、僕の中ではとにかくいい曲、いい歌を唄えてる曲じゃないと絶対にダメっていうのがある。まぁ、コルツで演奏すれば自ずといい感じの曲になるのはわかってるんだけどさ。
──コルツには和気藹々としたファミリー感もありますしね。
KOZZY:そうだね。ドラムのイサオ・サタケはここ2作で正式に入ったんだけど、すでに馴染み具合が半端じゃないんだよ。もともと僕らのファンでどんな曲でも知ってるし、僕がデモで簡単に叩いているドラムを分析して僕のやりたいことを理解できるわけ。同じ広島出身で小間使い歴が長いのもあるんだろうけど(笑)、彼が今のコルツに貢献している部分は大きいね。

──ところでこの『MORE BASTARD!』が一般発売される頃は、みなさんコルツではなくマックショウのツアーで忙しいんですよね。
KOZZY:うん。だからコルツのツアーを来年もまたやりたいなと思って。あまり良くないアルバムならあきらめもつくんだけど、何だかいいアルバムができちゃったしね。相変わらずコルツをやるのはしんどいなとは思うけど、アルバムも集中してやればまだ作れるなと思ったし。ただ何せコルツは仕込みが大変なんだよ。
TOMMY:メンバーもスタッフもマックショウの倍以上の人間が動くからね。
KOZZY:キャパまでマックショウの倍ってわけにはいかないしね(笑)。ただ、一昨日の野音はコルツとしてやれて本当に良かったと思ってる。これで新作も出さずに、この先の予定も特にないようなら、あの野音がコルツの最後でもいいと思ったくらい。
──そうだったんですか。
KOZZY:さっきも話した通りコルツはスカーフェイスをやるために始めたバンドだったし、これでもうスカーフェイスをやらないということならコルツも解散でいいんじゃないかと思ったんだよ。その後にもしコルツのスケジュールが入っていなければ「今日でコルツは解散します」と口を滑らせていたかもしれない。ここまでやってこれた達成感もあったし、最後の「IT'S ONLY ENTERTAINMENT」まで全9曲、自分たちの持ち味も全部出せたしね。
TOMMY:いろいろ大変だったけど、いいライブだったよね。「DOG DAY AFTERNOON」も初めてライブでやれたし。
KOZZY:まぁ、今はわりと充実した活動をやれているし、無理に終わらせることもないんだろうけどね。
──マックショウを結成したのはコルツの活動が煮詰まったり、当時の音楽業界に対して違和感を覚えたことが大きかったわけじゃないですか。今のコルツはそういう煮詰まりもなく健全にやれていますよね。
KOZZY:マックショウは、自分のやり残したことがないようにするための終活のひとつだよ(笑)。マックショウをやり始める前の2000年、2001年というのは、自分の身の来し方やこの先のことをよく考えていた節目の時期だったね。コルツがメジャーでやってた90年代の終わりは音楽業界も先細りの一途を辿って、自分たちの所属してた会社も潰れたりして、一通りやり尽くした感じがあった。それでアメリカへ行って、自分たちにはまだやれることがあると気づいてマックショウを始めることになるんだけど、いま思えばそれは終活に近い感覚があったよね。所詮は僕もキャロルとビートルズ出身だし、それを今ちゃんとやっておかないと後でできなくなるぞと思った。今のコルツもそんな感じだよ。やり残したことがないようにアルバムを作る、ライブをやる。だからコルツもまた終活のひとつだね(笑)。
──コルツとしてやり残したこととは何なのでしょう?
KOZZY:あとはやっぱり売れることじゃないかな?(笑) まぁ、それはもうチャレンジしないけどね。この先、音楽のマーケットがどうなるのか見当もつかないけど、僕はただいい曲を書いていたいだけだから。ただ誰しも不死身じゃないし、ロックの世界でもレジェンドと呼ばれる人たちが次々と亡くなってるしね。だからやっぱり、これが永遠に続くものではないのだとしたら、今やれることを思いきり全部やっておきたいね。「なぜそんなに働くんですか?」と言われてもさ(笑)。コルツにしてもマックショウにしても、誰かに影響を与えているのを実感するのは単純に嬉しいことだし、とてもやりがいのあることだからね。

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