暗い室内で、1980年代製の映写機が16ミリフィルムを回す。ピンボケした数字のカウントダウンが終わると、牧歌的なBGMとともに、モノクロのキャラクターが、おどけた表情で歌い出した。観客の爆笑につられ、映写機の隣に立つトミー・ホゼ・スタタスさんも笑う。
クラシックアニメ映画の上映会「カートゥーンカーニバル」では、アニメ歴史家でフィルムコレクターのトミーさんが所有する、オリジナルフィルムが鑑賞できる。古い作品は20年代までさかのぼる。当時のアニメは黒インクで1枚1枚手描き。CGも特殊効果も、時には音声すらないが、今観てもなかなか笑える。
無声作品ではピアニストのチャーリー・ジュドキンスさんがBGMを生演奏。当時の劇場同様、その時代の流行曲を選んでいるそうだ。
失われゆく過去の娯楽
現在29歳のトミーさんは、10代のころから趣味でアニメフィルムを収集。上映会を始めたのは9年前。
「子供のころは、VHSテープで古いアニメがたくさん売られていました」とトミーさん。「私の親の世代は古いアニメをテレビ放送で観ていた。でもネット中心の今は、自発的に検索してみようと思うか、上映会に足を運ばない限り、子供が目にする機会は減りましたよね」。
古いフィルムは所在不明なことが多い。それらを探し出すのもトミーさんの使命だ。
当時のアメリカを知る
大人になった今、改めてクラシックアニメを観ると、子供の目線とは異なる発見がたくさんある。
「職人技を楽しむ感覚に似ています。最初期(20年代前半)の作品はどこか不格好ですが、アニメーターが育ち、技術も発展するにつれ、動きや演出がどんどん進化していくのが面白い」
今となっては問題視される、過激な暴力描写や、人種や性別、職業などの差別的表現も少なくない。
「アニメはタイムカプセルなんです」とトミーさん。「キャラクターの個性やセリフ回しに、当時の世間の風潮や、製作者たちの思いが込められている。過激な表現も、当時のポップカルチャーとして何が喜ばれていたかを反映しています」。
そうやって観ると、結構アニメって、奥が深い。