幻の桃、郷土に復活を 川崎の児童が「伝十郎」を植樹

 明治時代に川崎市川崎区で開発された「伝十郎桃」の苗木が9日、市立向小学校(同区)の敷地内に植樹された。同桃は今ではほとんど生産されていない幻の桃で、子どもらは地域の歴史に思いをはせながら作業を楽しんだ。

 伝十郎桃は1896(明治29)年に農家の吉沢寅之助さんが開発し、父の名前にちなんで命名。明治から大正にかけて量産されたが、その後の工業化や品種改良で姿を消していった。

 同桃を発祥の地に復活させようと、2010年前後から飯塚正良市議ら有志で苗木を増やす試みがスタート。苗木は郷土教育の一環で同区内の10小学校にも贈られ、児童らが校内で育ててきた。向小の木は小さな実を付けるまでに成長。より多くの実が収穫できるようにと、今回の新たな植樹が企画された。

 高さ2メートルほどの苗木は、二ケ領用水・中原桃の会が提供。同会の石子秋夫さん(71)の指導で作業に汗を流した6年生の千光士(せんこうし)友君(9)は「みんなで一生懸命育て、伝十郎桃とともに川崎の伝統を大切にしていきたい」と話していた。

 苗木は昭和電工川崎事業所(同区)にも贈られ、国の有形文化財に登録されている本事務所横の芝生に来週植えられる予定という。

伝十郎桃の苗木を植樹する子どもたち=川崎市川崎区の市立向小学校

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