「外国人は生身の人間」 支援者、労働・生活環境整備訴え

 「外国人はロボットじゃない。生身の人間だ」。外国人労働者の受け入れ拡大に向け、衆議院本会議で13日に審議入りする入管難民法改正案をめぐり、外国人労働者やその子どもらを支援してきた団体の間に懸念が広がっている。横行する搾取は改められるのか、生活や教育環境は整備され得るのか-。政府が「移民ではない」と強調する中で議論が進む状況に、実効性ある対策が打ち出せるのか疑問の声も上がる。

 「少子高齢化という現実を見たら、外国人労働者に頼らざるを得ない。日本人と同等の労働環境を整えなければ、優れた人材は日本ではなく他の国を選ぶだろう」。そう話すのは、国籍を問わず1人でも入れる労働組合「神奈川シティユニオン」(川崎市幸区)で執行委員長を務める村山敏さん(69)だ。

 

 政府が示した入管難民法改正案には受け入れ規模や業種といった重要な中身が明確に示されておらず、在留資格によって期限が左右される外国人労働者は将来の生活設計が描きづらい。長時間労働や賃金未払い、雇用主からの暴力など人権侵害行為の温床となってきた技能実習制度を例に、さらなる「労働力のつまみ食い」を懸念する。

 定住外国人が増え、組合員683人のうち約8割が外国人。その多くが食品加工や自動車・電機の製造ラインで働いており、「最低賃金すれすれで、日本人に適用される労働条件が備わっていない会社も少なくない」。今年に入っても解雇や労災、労働条件などの相談が相次いでいるという。

 

 活動を始めて30年以上。言葉の壁で日本社会になじめず、使い勝手のよい労働力として扱われてきた外国人労働者の姿を見てきた。村山さんは「労働環境を整えるだけでなく、国や自治体が日本語教育や地域で暮らすための生活習慣を教える場を設けることも必要だ」と強調する。

 

 在日外国人教育生活相談センター・信愛塾(横浜市南区)は、中国やフィリピンなど各国から来日し、地域で暮らす外国人やその子どもを支援している。センター長の竹川真理子さんは「彼らは定住傾向で、来日して30年という例もある。もはや立派な移民で、現に自身を『移民』と称する人もいる。それを認めず、きちんと対応できるのか」と懸念する。

 

 外国人は、働いていれば所得税、買い物をすれば消費税を納付している。だが日本人と同水準の教育環境にはなく、社会保障でも課題は多い。「まず、現在暮らしている外国人をきちんと位置づけないと。彼らが働きやすい社会を作ることは、少子高齢化の日本にとってもいいことだと思うが」

 

 たとえば今後、外国人労働者同士が出会い、日本で出産したらどうなるか。現状、外国人の子どもは義務教育から除外され、日本語指導を必要とすることが多いにもかかわらず特別なカリキュラムはない。そしてその存在は、教育現場に丸投げされている。

 

 日本が批准する国際人権A規約や子どもの権利条約は、国籍、在留資格を問わず学齢期のすべての人への無償教育を求める。竹川さんは警鐘を鳴らす。「外国人への義務教育適用も含め、文部科学省が考えなければ。母語を学ぶ機会を担保しつつ、きちんと学習権を保障することが必要だ」。だが、今後の具体的な対応は見えない。「彼らはロボットではなく、生きている人間だ。一人で来た人も数年すれば家族を作るだろう。外国人の状況改善が手つかずのまま、丸投げされてくる子がさらに増えるなら問題だ」

 ◆入管難民法改正案 一定技能が必要な業務に就く特定技能1号と、熟練技能が必要な業務に就く同2号の在留資格を新設。1号は在留期限が通算5年で家族帯同を認めないが、2号は期限の更新ができ、配偶者と子どもの帯同が可能。条件を満たせば永住にも道が開ける。受け入れ対象は人手不足が深刻な農業など14業種から検討中で、総量規制は設けない方針。大半は1号が占めるとみられる。

ペルー出身の男性(手前中央)から相談を受ける神奈川シティユニオンの村山執行委員長(左から2人目)ら=9日、川崎市幸区

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