夏山オンリー派も冬山オールラウンド派も、冬の低山にベストマッチの「チェーンスパイク」に注目! 冬の装備は準備できていますか? 冬山はやらないと決めている人も、雪や凍結があるのを承知で出かける人も、冬に低山に行くなら「チェーンスパイク」を持っていきましょう。軽くて簡単、テクニックいらずで使える便利もの。でも初心者用の簡易アイテムではなく、状況によってアイゼンと使い分けすべき、冬のマストアイテムなのです。

冬の登山には”滑り止め”がマスト!

ぐっと気温が下がるこの時期。標高の低い山も気持ちよく歩け、季節の移り変わりを楽しむには絶好のシーズンですが、夏とはちがう天候に備えた備えが必要です。特に登山に大きな影響を与えるのが凍結。普段は簡単な登山道も、ちょっとした積雪や地面の凍結で、難易度も危険度も一気にふくれ上がります。

「夏しか登山はやらない」、「雪の降るような山には行かない」という人もいるでしょうが、2016年には東京でも11月に、54年ぶりに季節はずれの積雪を記録しました。山頂で降り出した雨が思いがけず雪に変わった急な冷え込みで濡れた木道が凍ってツルツル滑る……。これからの季節、そんな場面に出くわさないとはいい切れません。

そんなときに強い味方になるのが「チェーンスパイク」。靴底に装着する滑り止めです。
伸縮性のある樹脂製の輪っかのような形のボディに、小さな滑り止めの爪が、チェーンでいくつも取り付けられています。

この輪から靴下を履くように足を入れると、靴底に爪が網状に配される仕組みです。

滑り止めといえばアイゼンじゃないの?

登山用具で靴に着ける滑り止めといえば、まず頭に浮かぶのはアイゼンです。通常4本から12本までの爪がついたタイプがあります。

真冬で深い雪や凍結した急斜面を登る本格的な冬山登山に使うのが、10本以上爪がある「本格アイゼン」。爪が深くつま先から歯が飛び出すようについているため、つま先に体重をかけたときにもしっかりとグリップします。

比較的傾斜がゆるく積雪が少ない場合には、4本から6本爪の「軽アイゼン」と呼ばれるものを使います。足の真ん中、土踏まずのあたりにだけ爪がつく簡易タイプですが、爪はチェーンスパイクよりも大きいのがわかります。

低山でチェーンスパイクが使いやすい5つの理由

チェーンスパイクは爪が小さいので、深い雪には対応できません。用途としては4~6本爪の軽アイゼンと同じく、あまり雪の多くない環境で使われます。
ではチェーンスパイクのどんなところが優れているのでしょうか? 軽アイゼンとの違いに注目して確認していきましょう。

1. 着脱が簡単でスピーディー

先にご紹介したように、チェーンスパイクは靴下を履くように簡単に装着できます。一体型でシンプルなつくりなので、向きや手順を間違えることもありません。

一方軽アイゼンは、バンドで締めるようにして着脱します。付けやすいように形成されたラチェットバックルを使ったタイプもありますが、いずれも事前に付け方を練習しておく必要があり、装着にも多少時間がかかるでしょう。

2. 普段と同じ感覚で歩ける

小さな爪が足裏全体にたくさんついたチェーンスパイクは、着けていても歩いた感じが普段とあまり変わりません。歩き方も普段と同じで問題なし。

一方で軽アイゼンは土踏まずにだけ爪があるので、滑らないようにするためには、足裏全体を地面につけるようフラットに置かなければなりません。爪も大きいので、慣れないと歩きづらく、少し歩き方にコツが必要ですね。

3. 凍結した路面や、雪のないところも歩きやすい

同様に、雪が少ないところや地面が出ているところ、積雪が少なく凍結しているところでは、軽アイゼンの大きな爪が埋まらず、安定感が損なわれ、岩や階段、ハシゴなどではアイゼンを外す必要も出てきます。
その点爪の小さいチェーンスパイクなら、地面から足裏が離れる感覚が少ないので、ほとんどのところを履いたままで大丈夫。雪のあるところとないところが混在する道でも使いやすいでしょう。

4. コンパクトで持ち運びしやすい

使わないときは丸めて収納できるのは、チェーンスパイクの大きな利点。軽アイゼンは爪を固定するプレートがあるため、あまり小さくは収納できず、どうしても重くなりがちです。また固定用のバンドが成型されているラチェットタイプは、折りたためないのでさらにかさ高くなるのが難点です。
チェーンというと重い印象がありますが、両足でおよそ300g前後。リンゴより重くグレープフルーツより軽いくらいのイメージです。

5. どんなシューズにも付けられる

軽アイゼンは登山靴につけるのが前提ですが、チェーンスパイクは甲や靴底が薄いトレランシューズやアプローチシューズ、ライトトレッキングシューズなど、山を歩くためのシューズほとんどのものに付けられます。

チェーンスパイクの弱点は?

一方で、チェーンスパイクにも弱点があります。しっかりチェックしておきましょう。

1. シューズとの一体感が弱い

チェーンスパイクは伸縮性のある素材を使っているので、着脱がしやすい反面、固定する力は強くありません。またサイズもS、M、Lなどの大まかなくくりなので、ジャストフィットとはならず、傾斜がきつい坂道では、ふんばりが効きにくいという弱点があります。またチェーンスパイクが少しずつずれて、脱げそうになることがあります。
その点軽アイゼンは、バンドなどでしっかり固定するため、シューズとの密着度が高く締め付け感も調整できます。

2. 雪が深いと効果が薄い

爪が短い分、降りたての深い雪にはチェーンスパイクでは歯が立ちません。爪の大きな軽アイゼンのほうが圧倒的に安心です。

3. 壊れるとその場での修復が難しい

着脱のために引っ張ったときにラバーの部分が切れたり、岩などと接触してチェーンの一部が開いたりと、使用中にチェーンスパイクが破損する可能性はゼロとはいえません。アイゼンのベルトが切れても細引などで応急処置できますが、ラバーの補修はなかなか難しそうです。

【状況別】チェーンスパイクと軽アイゼン、どっちがいい?

こうしてみると、チェーンスパイクと軽アイゼンは、それぞれの長所がもう一方の短所というように、同じ目的ながら特長は相反しているといえそうです。

チェーンスパイク:

  • 傾斜が緩い平坦な道: ◎
  • 階段状の道: ◎
  • 全体的に傾斜が強い: ×
  • 部分的に強傾斜のところがある: △
  • 積雪量が多いことがあらかじめわかっている: ×
  • 雪のあるところとないところが混在する道: ◎
  • 岩上を歩く箇所が多い: ○
  • コンパクトに持ち運びたい: ◎
  • 使い方が簡単なものがいい: ◎

軽アイゼン:

  • 傾斜が緩い平坦な道: ○
  • 階段状の道: ○
  • 全体的に傾斜が強い: ◎
  • 部分的に強傾斜のところがある: ○
  • 積雪量が多いことがあらかじめわかっている: △~○(量によっては10本爪以上が必要)
  • 雪のあるところとないところが混在する道: △
  • 岩上を歩く箇所が多い: △
  • コンパクトに持ち運びたい: △~○
  • 使い方が簡単なものがいい: △

夏山オンリー派の万が一の備えに

基本的に無雪期にしか山に行かないという人が、思いがけない雪や凍結に備えて念のために持つなら、断然チェーンスパイクがおすすめ。荷物の隅に入れておけるサイズと重さ、初めてでも久しぶりでも簡単につけられ、普段どおりに歩けること、どれをとっても文句のつけどころがありません。一般的なハイキングコースなら、ほとんどチェーンスパイクで対応できるでしょう。

本格雪山登山のアプローチ用のとして

一方で、標高の高い山を登る、はじめから雪の中を歩くことを目的に山に行く、急な登りや凍結していることがわかっているというような場合は10本爪以上の本格的なアイゼンが必要です。
しかし深雪のあるところに行くまでの雪が少ない場所や階段などは本格的なアイゼンでは歩きにくいのでチェーンスパイクで歩き、それでは登れなくなったら本格的なアイゼンに履き替えるという使い方もできます。

冬以外にも活躍の場面が!

そのほかに、実はチェーンスパイクは冬以外にも使える場面がいくつもあります。夏山の雪渓も、傾斜があまりきつくないところなら使えるのはもちろん、例えば濡れた急な登山道や泥地、コケで滑る沢の渡渉、草や柔らかい落ち葉などふかふかして足元が取られやすい場所など。冬だけでなく足元が不安な場所があれば、冬でなくても積極的に取り入れてみましょう。

このようにとても手軽で便利なチェーンスパイクですが、使う場面を間違えると安全を確保することはできません。自分が行こうとする山が今どんな状況なのか、最悪の場合どんな状況が考えられるのか、情報収集や状況判断をしっかりとした上で正しく取り入れましょう。
また、チェーンスパイクを履いていれば、凍結していても雪道でも安全だということはありません。雪質や接地条件によっては、アイゼンもチェーンスパイクも効かないというのは、珍しいことではありません。当然ながら普段よりも慎重に、無理のない行動を心がけましょう。

持っておいて損はない!

アイゼンなんて自分の登山には関係ないと思っていた人も、冬山を登るつもりがなくても、いざというときに助けになるチェーンスパイク、この秋のハイキングに向けて用意しておくのがおすすめです。

© 株式会社スペースキー