戦力外通告…引退か現役続行か トライアウトは野球人生かけた最後の戦い

今年のトライアウトは延べ5536人の観衆がタマスタ筑後のスタンドを埋めた【写真:福谷佑介】

「再チャレンジの機会」から「最後のチャンス」に意味合い変わる

 NPB各球団は、翌年の支配下登録選手の名簿(契約保留選手名簿)を11月末日にNPBに提出する。この名簿に掲載されていない選手は「戦力外」となる。

 名簿作成のために各球団はレギュラーシーズンが終わると、翌年に向けた選手契約の精査を開始する。10月下旬にはドラフト会議が行われるが、ここで何人の選手を指名するかも考慮される。

 現在のNPBでは、支配下登録選手は70人と決められている。これとは別に育成選手を保有することが認められているが、各球団ともに育成選手数には一定の目安を設けている。ドラフトによる新入団選手が入れば、それとほぼ同数の選手が戦力外を通告される。戦力外の通告期間は、10月1日からCSファーストステージ前日までと、CSファイナルステージ終了日から日本シリーズ翌日(日本シリーズ出場チームは5日後まで)と定められている。

 こうして、戦力外となった選手は、引退するか、現役を続行するかという決断を迫られる。現役続行を表明した選手は、「12球団合同トライアウト」を受けることができる。これは戦力外通告を受けた選手が一堂に集まり、NPB関係者にプレーを披露するものだ。

 以前は、球団が秋季キャンプに戦力外になった選手を呼んで個別にテストをしたり、球団の施設でテストをしたりしていたが、選手により多くのチャンスを与えるために、12球団合同で行うようになったのだ。2001年から始まった。当初は東西2か所で行われていたが、2015年からは年1回となった。

 トライアウトは投手は3~4人の打者を相手に投げる。打者は投手の数に応じて3~4人と対戦する。それが4~5時間続く。

 建前上、トライアウトは戦力外選手の「再契約」へ向けた機会ということになっているが、内情は複雑だ。戦力外になった選手と球団の入団交渉は、トライアウト後でないとできないが、有力選手の中にはすでに球団から声がかかっている場合がある。こういう選手はトライアウトには出場しないことが多い。また、なかには声がかかっていて、念のためにトライアウトを受けるケースもある。全くのノーマークでトライアウトを受けて、球団と契約をするケースは非常に稀だ。このために、トライアウトは再チャレンジへ向けた「入り口」ではなく「最後のチャンス」だと言われることも多い。

 選手の中にはこうした事情を承知し、トライアウトを最後に野球をやめる決意をして家族を呼び寄せることもある。

テレビ番組で人気、今年は有料化も完売

 トライアウトはいったんNPB球団を離れた選手も受けることができるので、独立リーグなどで現役を続けている選手の姿も見かける。今年戦力外になった選手は、元の球団のユニフォームで挑戦するが、前年以前にNPB球団を離れた選手は、独立リーグなどのユニフォーム姿となる。阪神でセットアッパーとして活躍した西村憲は、2014年に戦力外となり、以後独立リーグで投げているが、毎年トライアウトを受けていた。西村は投げるとマウンドを丁寧にならして深く一礼をして下がっていく。この選手なりのこだわりがあるのだろう。

 球場にはNPBの関係者だけでなく、独立リーグや社会人野球の関係者も駆けつける。また、人材派遣会社や建設会社などの採用担当の姿も見かける。人材難の中、厳しい練習に耐えた野球選手は、一般社会でも有望な人材なのだ。

 最近は「プロ野球戦力外通告」というテレビ番組が人気となり、トライアウトには多くのファンが詰めかける。2016年は甲子園の内野席がほぼ埋まった。2017年のマツダスタジアムも開門前から多くのファンが詰めかけた。

 今年はソフトバンクの2軍本拠地、タマスタ筑後で行われた。観客席が少ないため、遠隔地からくるファンのために1500席を800円の有料席にして事前にネットで販売した。今年は西岡剛、成瀬善久などの有名選手もエントリーし、プレーした。そのこともあってか、観客動員は5536人と多くのファンが詰めかけた。

 トライアウトを受ける選手たちは、満員の観客の前でプレーを披露した。これが最後の晴れ舞台になる選手も多い。トライアウトは、通常のプロ野球とは一味違った「野球人生の総決算」のドラマなのだ。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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