米軍や海上自衛隊の大小さまざまな艦船が行き交う佐世保港。海沿いにライトグリーンの巨大なクレーンがそびえ立つ。長い年月とともに港町の風景に溶け込んできた。
佐世保重工業(SSK)佐世保造船所(長崎県佐世保市立神町)に立つ「二五〇トン起重機」は高さ62メートル。その形状から「ハンマーヘッド型」と呼ばれている。英国で製造され、佐世保海軍工廠(こうしょう)時代の1913年、現在地に設置。2013年に国の登録有形文化財に指定された。
地上から15メートルほどの高さにある運転室。腰の高さほどに備え付けたハンドルを握ると、ゆっくりと旋回を始めた。窓ガラスが小刻みに揺れ、金属がきしむ音が響く。操縦担当の一人で、SSK機械事業部の友廣洋祐さん(35)は「音や振動からは、先輩たちが積み重ねてきた歴史を感じる」と語る。
佐世保海軍工廠時代は、軍艦の大型化と増産が進められたこともあり、艦船の艤装(ぎそう)や修理に頻繁に利用された。戦後、佐世保船舶工業を経てSSKとなった1961年には、当時世界最大のマンモスタンカー「日章丸」の建造でも活躍した。
SSKOB会で会計を務める浦本信行さん(70)の父、音治さん(故人)は日章丸建造時に起重機を操っていた。「子どものころ、家ではほとんど顔を合わせなかった」。浦本さんは起重機がフル稼働状態だったことを証言する。文化財登録には「父もきっと感激したはずだ」と目を細めた。
現在も岸壁からの製品の搬入、搬出などを担う。ただ、近年は300トン級を導入したこともあり、使用頻度は月数回程度に減った。それでも友廣さんは「今後もより丁寧に動かし、次世代に引き継ぎたい」と力を込めた。
105年にわたり、港の変遷を見続けてきた起重機。現在はクリスマスシーズンに合わせてライトアップされ、市民にも親しまれている。きらびやかな光を放つその姿は、戦前から戦後にかけて慌ただしく動き回った後の余生を楽しんでいるようにも見えた。
■ちょっと寄り道/海上自衛隊佐世保史料館(セイルタワー)/旧海軍や海自の歴史紹介
佐世保重工業から北東に進むと、西九州自動車道佐世保中央インターチェンジ近くに、7階建ての海上自衛隊佐世保史料館(セイルタワー)がある。
外国士官の接待などを目的に1898年にできた佐世保水交社が前身の施設。この建物を修復、改修して1997年に開館した。旧海軍や海自の歴史を、6階から2階までに時系列で紹介。当時の制服など貴重な品々が並ぶ。来年10月末まで開催中の特別企画展では、佐世保海軍工廠の史料も展示している。
7階の展望ロビーからは佐世保港を望める。1階売店では護衛艦カレーなど人気の海自関連グッズも購入できる。
開館は午前9時半~午後5時(最終入館は午後4時半まで)。無料。第3木曜日、年末年始(12月28日~1月4日)は休み。