コレ知ってる?気にしてみると面白い登山道のヒミツ! 普段何気なく歩いている登山道も、よく見ながら歩くと新しい発見があるかもしれません。漫然と歩くのではなく地形や登山道をよく見ながら歩いてみましょう。道迷い遭難を防ぐためだけでなく、道や地形の変化を味わうのも登山の楽しみの一つです。

登山道には意味があるって知ってた?

山を登る時に歩く登山道。登山中に「なぜこんなところに道があるんだろう?」なんて考えたことがある人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

もちろん自然の地形からできた登山道もあります。しかし中には、なにやら人の意思を感じるものも・・・。

今回は普段あまり考えることのない「登山道を作った人の意図」を、地形図や写真を観察してを想像してみましょう。普段あまり見ないところを見ることで新たな発見があるかもしれませんよ。

シーン①尾根を歩いていたら、急に曲がり角が・・・

気持ちよく尾根を歩いていたら、急に尾根を外れる曲がり角が出てきました。太陽は西に傾き、道が続く東の斜面は薄暗く嫌な感じ。
明るい尾根を通ったほうが気持ち良いのに、なぜここで急に曲がってるのでしょうか?

その理由を考えてみましょう。

急に尾根を降ろされた理由は…

国土地理院の淡色地形図(タイル)に陰影起伏図を重ね、登山道を示す赤線と注釈を追記して掲載

答え:そのまま尾根を進ませると、道迷いの危険があるから

曲がり角の写真を撮ったのは、この地図のA地点です。そこから南(下)方向に向かって撮影しています。そして、地図の上から下へ伸びている赤い線が、実際の登山道です。

地図を見ていただくと分かりますが、尾根は454の地点から左右に分岐しており、東(右側)の赤線の尾根に乗ってくれればいいのですが、間違えて西側の尾根に乗ってしまうと登山道から大きく外れてしまいます。

地図の左下あたりには道(黒い実線や点線)がありますが、実際には廃道になっていたり荒れていたりして歩けません(上の地図で青く塗った部分)。

この道は間違った尾根を進まないように、454と書かれた部分の手前で曲げていると考えられます。

尾根を通った登山道の特徴と注意点

尾根を通った登山道は左右が斜面になっており、道が明瞭なことが多いです。ピークとピークを結ぶ尾根道は、縦走路となります。

尾根道では滑落や落雷、積雪期の雪庇踏み抜き、下りでの道迷いに注意が必要です。道がわかりやすく勢いでまっすぐ下ってしまいがちですが、分岐で誤った尾道に進まないように地図で進行方向を確認しましょう。

迷いやすい場所には、道標やトラロープが設置されていることも。そういったサインを見逃さないようにしてください。こんな大きな看板を見逃さないと思うでしょう?でも、暗かったり疲れていたりすると、意外と見逃します。

シーン②山頂まで行かないのはなぜ?

国土地理院の淡色地形図(タイル)に陰影起伏図を重ね、登山道を示す赤線と注釈を追記して掲載

上の地図で緑に塗った部分が尾根です。南から北に延びて、丹三郎山という小さな山頂から西、北、東へと分岐しています。
黒い点線は地図が示す道で、赤い線が実際の登山道です。(実際の道と地図上の道がズレていることはよくあるんです。)

登山道は、丹三郎山の山頂手前で東(右)側に曲がり、そのあと北東に伸びる尾根に合流します。

どうして山頂を目の前にして、曲がってしまうのでしょう・・・。

山頂まで進むのを避けた理由は…

国土地理院の淡色地形図(タイル)に陰影起伏図を重ね、登山道を示す赤線と注釈を追記して掲載

答え:道迷い防止のために、分岐を作らないようにしている

シーン①と同じ用に尾根の分岐が道迷いの原因になるため、手前で曲げて分岐を作らないようにしていると考えられます。
実際に地図を見てみると、このような登山道をいくつも見つけることが出来ます。

斜面を横切る道の特徴と注意点

上の地形図にあったような、斜面を横切る登山道のことをトラバース道と呼びます。
尾根が急すぎる場合や、小さなピークを巻く(回避する)ための巻道として作られる事が多いです

トラバース道では、谷側への滑落と山側からの落石に注意してください。谷側に避けて待つと転落の危険があるため、すれ違う時は待つ人が山側に避けましょう。

シーン③なんでここで急に曲がるの?

国土地理院の淡色地形図(タイル)に陰影起伏図を重ね、注釈を追記して掲載

地図の上部から下に向かって尾根をすすむと、登山道(黒い実線)が急角度で曲がっています。曲がった後は、再び同じ尾根道に合流。

先ほどまでのパターンと違って尾根は分岐していません。なぜ急に曲がっているのでしょうか?

急に道が曲がっていた理由は…

国土地理院の淡色地形図(タイル)に陰影起伏図を重ね、注釈を追記して掲載

答え:急斜面を避けている

尾根が途中で急斜面になっているため、一部だけトラバース道にして急斜面を避けています。現地に行ってみると、避けている斜面は地図で見るよりも急。

等高線は高さ10mごとにひかれるため、10mに満たない崖は地形図からだけでは読めないことがあるんです。

人間が下るのに不向きな急斜面は、巻き道としてトラバース道が作られていることが。勢いで真っすぐ下らず、おかしいと思ったら、周りの地形、道、地図、GPSをよく見ましょう。

暗いと曲がり角を見逃して急斜面に突っ込んでしまうことがあります。暗い中での下山は出来るだけ避けてください。

シーン④道が作られない場所の理由とは・・・

国土地理院の淡色地形図(タイル)に陰影起伏を重ね、注釈を追記して掲載

この地図は山形県の月山周辺のものですが、山頂を中心にいくつかの登山道が描かれています。山頂から北と西に伸びるのは尾根道で、東と南東に伸びる道はなだらかな斜面を通過。

しかし、なぜか地図の左上のエリアには道が一切ありません。広々としているのにどうしてでしょうか?

斜面に道がない理由は…

国土地理院の淡色地形図(タイル)に傾斜量区分を重ね、注釈を追記して掲載

答え:雪崩が起きやすい傾斜だから

この地図は地形図の上に傾斜量区分図(雪崩関連)※1を重ねたものです。
豪雪地帯では、そのような斜面を避けて尾根やなだらかな斜面に登山道が作られる傾向があります(そうでない道ももちろんあります)。
※1)傾斜量区分…平成29年に起きた那須町の雪崩事故を受けて整備された地図で、雪崩が起きやすい30°~55°の斜面がオレンジや赤で塗られます。⇨詳しい情報はコチラ。

平原やなだらかな斜面の登山道の特徴と注意点

なだらかな山のピークやコルなどに見られる登山道は、歩くのは楽ですが地形に特徴がないので地図を見て現在地を特定するのは非常に困難となります。

なだらかな斜面の道は、視界不良時には道迷いのリスクが高くなります。特に冬期のホワイトアウト時には、地形的な手掛かりを失いやすく現在地をロストしやすい地形です。GPSを使って、現在地をロストしないように注意してください。

登山道を味わってみよう!

登山と言うとピークばかり気にしがちですが、山に登っている間ずっと歩いているのは登山道です。登山道がそこを通っている理由、あるいは、特定の場所を通っていない理由を考えてみると、より山全体を深く味わうことができます。ぜひ登山道を観察して、作った人の考え方を想像してみてください。

なお、登山者のリスク回避も考えて作られているのが登山道ですから、登山道を外れて歩くのは大変危険です。出来るだけ登山道から外れないように歩き、敢えてバリエーションルート(一般的な登山道ではない道や藪)を歩く場合は地図やGPSを用意し、上級者と一緒に行くなどしっかりとリスク回避に努めましょう。

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