乗り入れ授業を後押し 義務教育学校 発足から半年

 長崎県佐世保市に県内で初めて義務教育学校2校(市立浅子小中学校、市立黒島小中学校)が新設されて半年が過ぎた。両校とも過疎地の小中併設校。「複式授業」という小規模校が抱える課題の解消が進む一方で、小中双方を教えられる人材の確保という課題も見えてきた。
 13日午後。浅子小中学校(浅子町)の学習室で6年生の児童4人が算数の授業を受けていた。
 「この底面の形は何?」。立体の体積を求める問題で児童の鉛筆が止まった。声を掛けたのは、中学の数学科の教員。安永実紅さん(12)は「教科書に載っていないことも教えてくれる」とほほ笑んだ。5・6年生は複式学級だが、担任は別の教室で5年生を指導していた。
 子どもの数が少ない学校で、1クラスに二つ以上の学年が同居する複式学級。そこでの授業は「複式授業」と呼ばれる。複数の学年の教材研究や一定の経験が求められるため、教員と子どもの双方に負担がかかるとされてきた。
 「『うちの学校のため』と思うほど(実情に)合った制度」。加藤尚美校長は「複式授業の解消」という義務教育学校化の利点を強調する。

 本年度の浅子小中学校の児童生徒数は33人で、うち▽2・3年▽5・6年▽7・9年(中学1、3年)の3クラスが複式学級となっている。複式授業の解消策として期待されるのが、小中の教員が相互の授業を担当する乗り入れ授業。特に中学校教員の乗り入れは、「中1ギャップ」の軽減にも効果があるとされる。
 併設校として約70年の歴史がある同校は、これまでも乗り入れ授業に取り組んできた。だが義務教育学校化で教職員組織は一つに。煩雑な兼務申請がいらなくなり、積極的に導入できるようになった。
 学力向上につながる可能性も出ている。昨年から試行的に乗り入れ授業を取り入れた6年生は、4月の全国学力テストの国語と算数の計3科目で平均正答率が県平均を約20ポイント上回った。前年の県の学力調査は県平均と同程度。加藤校長は「検証が必要」としながらも「複式授業の解消がもたらす可能性の一つ」と評価する。

 それでも課題は残る。現在は暫定措置が取られているが、義務教育学校の教員は小中両方の免許を所有することが原則。加藤校長は「両方の免許を持つ先生がどれくらい来てくれるのか」と不安をにじませる。
 黒島小中学校(黒島町)の惣田正宏校長は「小中の教員が互いの授業を見て、よさを取り入れられる」と指導力向上にも期待。一方で、現在は小学校だけに乗り入れているため「中学校教員の授業時間数が3、4時間増えた」と負担増を懸念する。「今後は小学校の先生を含め複数で中学生の授業をすることも必要。義務教育学校化を“プラス”にするために一つの学校として取り組みたい」と話した。
 義務教育学校 2016年度に国が導入した新しい学校種。全国に82校ある。1人の校長と一つの教職員組織で展開する小中一貫教育が特徴。中学入学をきっかけに学業や生活面で問題を抱える「中1ギャップ」対策としても期待され、過疎地域の学校存続の手段として導入を検討する自治体もある。佐世保市では、校長と教職員組織をそれぞれに置きながら乗り入れ授業をする「小中一貫型教育」に取り組む学校もあり▽広田小と広田中▽金比良小と光海中▽小佐々小、楠栖小と小佐々中で導入されている。

小学6年生の算数の授業で指導をする、中学校の数学科の教員(左)=佐世保市立浅子小中学校

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