一つの志で

 気さくな人柄で人気も高いが、主義主張はあまり前に出さない。長崎市長の伊藤一長さんは、そんないつもの姿勢に徹し、市民の大同団結の場を設けた▲2000年、「核兵器廃絶-地球市民集会ナガサキ」を提唱したのは伊藤さんだった。反核を掲げる非政府組織(NGO)の本格的な集会は日本初。討論に実に500人、平和イベントに3千人が集った▲初回から4回にわたり実行委員長を務めたのは元長崎大学長の土山秀夫さん。後に語った。「海外NGOのリーダーらと濃密な時間を過ごし、海外の動きが手に取るように分かるようになった」▲第1回集会の分科会で、被爆者の山口仙二さんは声を荒げた。「理論ばっかりの話し合いはもういい」。後に真意を聞くと答えは明快だった。「一つのスローガンを掲げればいい。核兵器禁止条約をつくろうって」▲伊藤さん、土山さん、山口さん、どなたも故人である。昨年、核禁止条約が国連で採択された。反核団体の連合体がノーベル平和賞を受けた。いくらか身びいきながら、長崎の反核集会が果たした役割は小さくなかったろう▲第6回集会が開幕した。核廃絶への道のりはなお遠いと知ってはいるが、ただ一つ「核兵器をなくそう」という志で市民の集まる場がいかに大切か、力を持つかも私たちは知っている。(徹)

© 株式会社長崎新聞社