【驚愕】こんなに無効票が多い選挙があったなんて!|過去の選挙事例の解説

10月28日に岩手県の雫石町で行われた町議会補選は、全体の3分の1が無効票という驚くべき結果となりました。ここまで多数の無効票が出る選挙はかなり珍しい事例といえます。今回は多数の無効票が出た過去の事例を紹介します。

半数以上が無効票の選挙もあった

無効票が多数出るというのは、単にその選挙の有権者の関心が低かったというだけでは説明ができません。このような場合、そもそも投票所に有権者が行かない、つまり単に投票率が下がるだけだからです。無効票が多数出る選挙というのは、有権者の関心が低いということ以外にも、同日に比較的有権者の関心が高い選挙が行われていることがほとんどです。この場合、関心の高い選挙に投票しようと投票所に行くと、基本的に低い方の選挙の投票用紙も受け取ることになります。そして、投票用紙を受け取ったものの、関心が低い方の選挙には誰に投票していいか分からないという状況に陥る人が多く、その結果、無効票が多数出ることになるのです。

今回の雫石町議会補選もこのようなケースでした。補選の候補2名はポスターに顔写真すら掲載していないという状態であり、2人の名前も顔も政策も分からなかったと言う有権者もいたほど、関心の低い状態でした。しかし、同時に注目度の高い町長選が実施されていたため、補選は投票用紙を受け取ったものの、無効票を投じることになってしまった有権者が比較的多数いたというわけです。
このような形で無効票が多数出るというケースは国政選挙でも起きたことがあります。1980年に衆議院選と参議院選が同日に行われるということがありました。新潟県では選挙区の事情から、参議院選の関心が低かったものの、衆議院選の関心は高かったため、参議院選の方では14%の無効票を記録しています。

また、全体の半分以上が無効票、つまり有効票の方が少なかったという極端な事例すらあります。1994年に行われた高知県の室戸市議会補選では、2人の候補者に投票された有効票の合計が4,018票なのに対し、無効票が4,216票も記録されました。これは同日に行われていた市長選の注目度が、汚職絡みで前市長が逮捕されたということから極めて高かった一方で、補選の方は残り任期が4か月しかなかったということなどから有権者の関心が極めて低かったという事情がありました。

2014年大阪市長選の特殊な事例

基本的に無効票が多数出る選挙は有権者の関心が低い選挙であるということは述べました。ただ、例外は存在します。それは2014年に行われた大阪市長選です。
大阪市長選といえば、巨大市の市長選であり、この注目度は都道府県知事選にすら匹敵すると言われます。さらにこのときの選挙は大阪都構想をめぐって起きたものであり、注目度は極めて高くなっていました。しかしながら、この選挙では何と14%もの無効票が出ています。なぜこのようなことが起きたのでしょうか。

2014年大阪市長選の結果。この時の無効票は67,506票で橋下氏以外の候補の得票の合計である53,895票を上回った

このときの選挙は通常の選挙ではなく現職の橋下徹市長が都構想をめぐる問題で、突如市長を辞職し、出直し選挙に立候補するという状況下で行われました。このような事情があったため、橋下氏の政党である維新を除いた他の主要政党はこの選挙に大義がないという理由で立候補者を擁立しないという異例の選挙になりました。結局、主要政党に所属していない、いわゆるインディーズ候補が3人立候補したため、投票自体は行われました。このような状況であったため、選挙の関心自体は高かったものの、橋下氏には投票したくないが、他の候補にも投票できない、そして棄権はしたくないという層が多数現れ、無効票を投票したことでこのような高い無効票の割合になったと考えられます(ただ、投票率そのものも23.59%という異様な低投票率となっています)。なお、この無効票の数は67,506票でしたが、この値は橋下氏以外の3人の合計得票数53,895票を上回るという結果に終わっています。

白票運動に意味はあるか?

無効票というと、現在の政治情勢に抗議して、棄権するのではなく白票を投じようという運動が存在します。これを白票運動と呼びます。日本国内でもこのような運動は見られますが、海外では白票を投じることを訴えて、わざわざ立候補する候補もいます。
それでは、この白票運動は具体的な効果があるのでしょうか。これにはさまざまな意見があります。無効票が異様に多い場合、世間の注目を集め、これによって、その地域の問題点が浮き彫りになり、それを社会に広く知らしめることができる場合があります。ただ、前述したように、無効票が半分を超えているという明らかに異常な状態であっても選挙そのものは成立し、当選した候補は特に制限がなく職務についています。これは筆者の個人的な意見ですが、特殊な事情がない限り、このような白票運動が現状の政治に効果を及ぼす可能性はかなり薄いと思われます。

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