【この人にこのテーマ】〈日本ドラム缶更生工業会・鋼製ドラム缶の自然環境調査報告書〉《森本久夫会長(天満容器社長)、企画委員会委員長・安藤幸夫氏(コバヨウ社長)》産業容器としての優位性訴求 CO2削減効果など対外的に発信するツールを整備

 使用済み200リットル鋼製ドラム缶の更生(再生・改造)処理を手掛ける企業で構成する日本ドラム缶更生工業会(会長・森本久夫天満容器社長、会員74社)は、鋼製ドラムがライフサイクルを通じて自然環境に与える影響に関する調査(LCI)の報告書を取りまとめた。森本会長と企画委員会の安藤幸夫委員長(コバヨウ社長)に作成の経緯や狙い、今後の展開を聞いた。(中野 裕介、敬称略)

――日本ドラム缶更生工業会が主力に扱う鋼製ドラム缶を取り巻く現状についてお聞かせ下さい。

 安藤「かつて年間で2千万本を超える流通量だったのに対し、直近は1千万本台後半で安定的に推移している。新缶を含めた鋼製ドラム缶全体におけるリユース(再利用)比率は60%に迫る水準で大きな変動はない。われわれとしては全体的な鋼製ドラム缶の流通量が増えるよう施策を進めており、その一環で今回の環境調査報告書にも着手した。各社とも先行きに対する危機感を強めるなか、あらためて鋼製ドラム缶がもつ産業容器としての優位性を対外的に発信するツールを整備する必要があると判断した」

企画委員会委員長・安藤幸夫氏

――どのような背景に基づき、一連の判断に至ったのか。

 森本「かねてから市場には『(リコンディションされた)更生缶は環境にいい』というイメージや雰囲気があったものの、工業会として定量的に示せる文献がなかった。同様の趣旨で9年前に作成した『鋼製ドラムのLCA実施報告書』があるものの、あくまで任意のものであり、速やかに公開できる状況にはなかった」

 森本「他方、工業会では会員各社の協力を得てさまざまな数値を継続的に集積しており、これらを踏まえ再利用率の向上による鋼製ドラム缶の優位性を訴求する手がかりを探っていた。そんな中、環境経営の推進につながるツールとして、関係省庁や学識経験者の視点を交えた、科学的見地に基づくLCIを採用する運びとなった」

日本ドラム缶更正工業会・森本久夫会長

――LCIを実施した目的は。

 安藤「新規に鋼板などの原材料で製造した『新缶』から、市場で利用後に更生処理を経て再利用される『更生缶』までを含む鋼製ドラム缶のライフサイクル全体を捉え、1サイクル当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を定量的に把握することが一義にある。▽どの工程・活動量項目の影響が大きいのか▽板厚の違いによる差異はどの程度か▽再利用回数の変化でCO2排出量はどの程度変化するのか―の3点を明確にし、鋼製ドラムのライフサイクル全体の最適化に向けた検討材料に生かしていく」

 安藤「新缶がなければ、われわれ更生缶も存在しえない。両者が共存共栄の道を探る中で、相互がうまくいくためにはどうすればいいのか。経済性をはじめある側面においては一定のメリットがある他素材の容器に比べ、全体最適の観点で鋼製ドラムは大きな強みをもつ。報告書に記載する数字を一つ一つひも解いていくとそれらは一目瞭然であり、説明がつく材料ばかりだ。新缶を1回目とした時、鉄スクラップになるまでの2回目以降の回転数を考えた場合、板厚が薄くなると全体最適に至らない点も報告書に盛り込んでいる。中でも最も流通量が多いM級(天地胴の板厚1・2ミリ)が有効であり、板厚が厚い鋼製ドラム缶ほど更生缶の割合が1単位増加した場合のCO2削減効果が大きいことも実証している」

ライフサイクル全体の最適化へ、科学的見地に基づく検討材料

――8月に報告書がまとまり、9月には東京で世界の更生缶メーカーが一堂に会する産業容器国際会議が開催された。日本ドラム缶更生工業会はLCIの報告書について発表したが、参加者からはどのような反応があったのか。

 森本「『LCI』や『CO2』といったキーワードに対し、日本が独自に展開してきた取り組みに対する評価を頂くなど、3年前にカナダ・バンクーバーで開催した前回の会議よりもさらに一定の理解が深まったのではないかと受け止めている。もちろん国や地域によって事情は異なるが、啓もう活動を続けていくことで相互に理解していく機会を提供していかなければならないと痛感した」

――今後はどのように周知していくのか。

 安藤「更生缶の商流であるBtoB(法人間ビジネス)の関係者たちに、鋼製ならではの良さを認知してもらうのとともに、将来的にはBtoC(一般消費者との商取引)にも理解活動の対象を広げていければと考えている。近く報告書の主な項目をダイジェスト版に収録し、手に取る方々が目を通しやすくする。われわれの仲間である会員各社と報告書の内容を共有し、それぞれに所属する営業マンが胸を張って取引先に持参できるよう、来春までに東西で概要を説明する場を設ける方向で検討している。ダイジェスト版についてはホームページへの掲載も視野に入ってくる。どのように報告書を活用していくのかは今後の大きなテーマの一つになってくるだろう」

 森本「(使用済み鋼製ドラム缶の)回収率や、腐食・損壊などを防ぐことによる再利用率を高めていくには、関係各位の協力が欠かせない。いかにその重要性を理解してもらい、協力体制を構築していくのかが問われる。われわれも地道な各種データの集計を続けていき、今回の報告書からさらに内容が深化するステージが訪れることを期待したい」

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