詳報!日産自動車、西川CEOの緊急記者会見

 11月19日、日産自動車(株)(TSR企業コード:350103569、横浜市西区、東証1部)はカルロス・ゴーン代表取締役会長とグレッグ・ケリー代表取締役の逮捕を受け、22時より本社で緊急会見を開いた。会見には西川(さいかわ)廣人・代表取締役CEOが出席。西川CEOは、「残念をはるかに超えて強い憤り、落胆を感じる」と述べた上で、ゴーン容疑者ら2名の代表取締役の解任を22日に開催予定の取締役会に諮る方針を示した。
 緊迫の会見の様子を東京商工リサーチ(TSR)が取材した。

21時00分
 日産グローバル本社(横浜市西区)。22時からの会見に参加するため、多くの報道陣が会見場入口に並んでいる。確認出来るだけで200人を超えている。

会見を待つ報道陣

会見を待つ報道陣

21時15分
 日産の担当者が報道陣の会見場への誘導を開始する。海外メディア関係者の姿も多く見受けられる。受付で、会見は日本語で行われること、必要があれば英字のプレスリリース、同時通訳のインカムを配布することなどが案内される。

22時02分
 予定より2分遅れて西川CEOが会見場に姿を見せる。冒頭、「非常識の時間の会見で申し訳ありません」と謝罪した上で、「本人(ゴーン氏)主導の不正行為が3点あった。①有価証券報告書へ実際より減額した金額の記載、②目的を偽って当社の投資資金を支出、③私的な経費支出。内容を細かくは触れられないが、会社として断じて容認できない。専門家からも十分に解任にあたるとの判断をいただいている」と強い口調で述べた。これら不正は、内部通報があり数カ月にわたって社内調査をしていたことも明らかにした。

西川CEOの発言要旨
 不正の除去、当局への協力、確認されたガバナンスの逸脱は、反省というより猛省しないといけない。長年、カルロス・ゴーン率いる日産にサポートいただいていた皆様の信頼を大きく裏切る形になったことが大変残念であり、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。残念をはるかに超えて強い憤り、私としては落胆を強く覚えている。(今回の件は)昨年以来、コンプライアンスの徹底の中ででてきた事案。私の基本姿勢は、在任期間中は問題の洗い出しを徹底して進めていきたい。ルノーの会長兼CEO、三菱自動車の会長でもあるゴーンの逮捕は、ルノーへの影響が大きいと思うが、不正の除去が目的。アライアンスに影響が出るものではない。当社に限ってみれば、業務運営面、執行体制面で大きな影響はない。将来に向けては、極端に特定の個人に依拠した形から抜け出す。
今回の事案は、長年のゴーン統治の負の遺産。これまでの功績は個人に依拠するのではなく、多くの従業員、(日産リバイバルプラン以前も含めた)様々な人の苦労と努力の結果だ。本事案でそれらを無下にはできない。

主な質疑応答
Q.日産として不正に加担したのはこの2人(ゴーン、ケリー両容疑者)だけとの認識か。
A.この2人が我々の調査の結果、首謀であると確認している。

Q.ほかの役員はどう受け止めている。
A.役員がこの件を知ったのはつい先ほど。事案の中身から秘匿面は非常に注意していた。いったい何があったのだ、との感想だと思う。取引先が大きな不安を抱えていると思うので、不安定にしないように全力を尽くす、従業員も不安をもっているので役員が先頭に立って日頃の業務運営にリードする、捜査に全面的に協力することを申し合わせた。

Q.私的流用を指摘しているが、特別背任ではないのか。金融商品取引法違反なのはなぜか。
A.捜査に関すること、刑事罰対象の部分は私には判断できない。本件は大きく分けて3つの事案だが、どれをとっても全部合わせて見ても取締役の義務を大きく逸脱するだけでなく、解任に値する。専門家、弁護士から解任に値するとのご意見をいただいている。

Q.解任の提案を決めたのはいつか。
A.社内調査がまとまった段階。具体的な時期は、現時点では申し上げにくい。

Q.(有価証券報告書の役員報酬の虚偽記載は)約50億円の過少申告とのことだが、この分は帳簿上、どういう処理なのか。
A.(調査で)確認している(できている)が、今は答えられない。

Q.どういった形でゴーン氏の権力が形成され、クーデターのような形で崩壊したのか。
A.クーデターと仰ったが、事実として見た場合、不正が内部通報によって見つけられた、そこを除去するのがポイントだ。権力が集中したことに対して、クーデターが起きたとは理解していない。そういう説明もしていない。1人に権力が集中してもこういうことが起きるとは限らない。ただ、ガバナンスの面からみるとこれが1つの誘因だったことは間違いない。より公正なガバナンスに持っていくのが課題。どういった形で権力が集中したのかについては、長い間で徐々に徐々に形成されてきたとしか言いようがない。ルノーと日産のCEOを長らく兼務していたが、そこにあったのかな、とは思う。

Q.今回の件を把握していた人はどれくらいの規模か。
A.数名の単位と思っていただいていい。

Q.ゴーン氏はカリスマ経営者だったのか、それとも暴君だったのか。
A.事実としてみると、他の人間ができなかったこと、特に初期は非常に大きな改革をしたのは実績として紛れもない事実。その後については、功罪両方あるかな、というのが実感だ。いろいろ積み上げてきたこと全部を否定はできない。ゴーンがトリガーを引いたことでも実際に担ってきたのは従業員であり、パートナー、取引先。この部分の価値は毀損するものではない。最近は、やや権力の座に長く座っていたことに対するガバナンス面だけではなく、業務の面でも弊害がみえたとの実感がある。

Q.今回の件は粉飾には当たらないのか。
A.本来記載すべきことが記載されていなかったので、その部分は適正ではなかった。どういう形になるかわからないが瑕疵を認めなければならない。

Q.ゴーン氏の高額な報酬について。優秀な人材には「必要」と言っていたが、西川CEOの考えは。
A.具体的にコメントするのは適当ではないと思うが、総論として日本人だから、日本企業だから「低い」というのは是正されるべき。ただ、絶対額としてなにが適正かは第三者の機関が決めるべき。本来の価値とパフォーマンスによって是正されるべきだろう。

Q.司法取引はしたのか。
A.コメントできない。

Q.なぜ不正を見抜けなかったのか。
A.会社の仕組みが形骸化していたというか、透明性が低い。ガバナンスの問題が大きかったと思う。ガバナンスに問題があるから不正が必ず起きるというわけではないが、日産では「集中」という部分で色々なことが起きても検知できない部分があった。決めつけてはいけないが、(日産の)43%の株主であり、執行権があり、日産の取締役会の議長である、という非常に注意をしないといけない権力構造であった。その部分の歯止めが弱かったのではないかとみている。

Q.国内マーケット軽視していたと感じるが、これは(ゴーン氏の)負の遺産なのか。
A.今現在、日本市場を軽視していることは全くない。お客様から「Nissan Intelligent Mobility」を評価いただいていると思う。我々の財産として育てていきたい。今現在、経営会議メンバーとしてやっている人間は、日本のマーケットそのものの価値を見ているが、過去にその部分が十分に重要視され意思決定されなかった時期があった。これがあったために、商品投入には時間がかかるが、挽回しにくいことがこの数年間あった。今は解消しつつある。これが負の遺産かについては断言を避けたいが、過去に偏った意見で商品投入がなされ、影響があった時期があった。これは私の実感だ。

Q.なぜ権限がここまで集中したのか。
A.(ゴーン氏は)2005年にルノーと日産のCEOを両方兼務することになった。その時、我々は今まで日産を率いてくれたゴーンさんがルノーの責任者になるのだから、日産にとっていいことと思い、日産にどういう影響があるのかをあまり議論しなかった。それが1つの契機だと思う。

23時25分
 会見が終了する。

 一夜明けた11月20日。TSRには引き続き、マスコミや取引先からの問い合わせが相次いだ。取引先の1社は、「(ガバナンス改善に向け)管理が細かくなることで、取引契約などでのスピード感は落ちないか心配だ」と吐露。また、別の取引先は「今期の生産計画に変更はないと思うが、とにかく今は情報収集に努めるしかない」と話す。
単なるトップの「乱脈経理」だったのか、組織の不正だったのか。日産には的確な情報開示が求められている。

会見する日産自動車の西川・代表取締役CEO

会見する日産自動車の西川・代表取締役CEO

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年11月21日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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