「リレーコラム」豪快さの裏に周囲への気遣い プロ野球ソフトバンクの柳田悠岐外野手

広島との日本シリーズ第5戦の10回、サヨナラ本塁打を放ち、ヘルメットを投げ捨ててホームインするソフトバンク・柳田=ヤフオクドーム

 今季パ・リーグ2位から2年連続日本一を勝ち取ったプロ野球ソフトバンク。17年ぶりにチーム本塁打が200の大台を超える202本塁打を放った強力打線の中で、とりわけ目立っていたのが柳田悠岐外野手だった。

 36本塁打、102打点はキャリアハイ(自己最高)。打率3割5分2厘で3年ぶりの首位打者にも輝いた。

 ヘルメットが吹っ飛ぶほどのスイングで、ピンポン球のように打球を飛ばす。「豪快」の2文字がぴったりな男だが、気遣いの人であることは意外と知られていない。

 飛行機移動の際には、通路側に座ると到着時には頭上の荷物入れから他人の分まで一つ一つ下ろして手渡し、公式戦でもチームとは直接関係のないボールボーイやグラウンドキーパーに気さくに話し掛ける姿を目にする。

 周りの人を立てる姿勢が顕著に出たのは、レギュラーシーズン終了後の共同インタビューでのことだった。

 好結果の要因を問われた柳田は「自主トレの時に打つ量を増やした。浜涯(泰司)さん、松本(輝)さんに感謝したい」と、いの一番に2人の打撃投手の名前を挙げた。

 柳田は例年、1月の自主トレーニング期間前半をグアムで、後半を地元の広島で過ごす。ただ、昨年までこの時期は体づくりがメインで、本格的にバットを握るのは2月のキャンプインからだった。

 それが今年はバッティング強化を目指し、広島に打撃投手を呼んで打ち込んだ。そのおかげでいい成績を挙げられた、というわけである。

 浜涯打撃投手に広島でのことを聞くと「去年の段階で『今年の自主トレはお願いします』と頼まれ、キャリアハイを目指すと言っていた」と、今季に懸ける思いをひしひし感じたという。

 時間にして毎日1時間弱。若手と一緒にみっちり集中して打ち込み、充実した時間が流れた。

 「それなのにオープン戦では1本もホームランを打たなくて、シーズンに入ってもなかなか1本目が出なかった。おいおい、俺が投げて打てなかったなんて嫌だよ。頼むから今年だけは打ってくれよなって何度も言った。でも最終的に、自己最高の成績。すごいよね」。長いシーズンを懐かしむように遠くに視線を投げ掛けた。

 柳田はサポートしてくれるスタッフたちに心から感謝しているようで、7月のオールスター戦のホームラン競争で、打球の平均速度が最も速かった打者に贈られる特別賞を受賞した時も「いつも投げてもらっている浜涯さんのおかげです」とコメント。

 日本ハム、西武を破ったクライマックスシリーズ(CS)で最優秀選手に輝き、賞金100万円を手にした際は「みなさんのおかげなので、チームのスタッフのみんなに還元します」と宣言した。

 思えば、大きなホームランを打った後は「本当にたまたまっす」「奇跡っす」と謙遜し、無安打に抑え込まれた時は「いやー、いいところに投げられました」と相手投手をたたえる。

 球界屈指の強打者になった今も全く偉ぶることがない。

 チームメートからもマスコミからも好かれ、そして福岡のファンから「ギータ」のニックネームで愛されるのは、飾らずおごらない姿勢にあるのではないかとつくづく感じる。

 ちなみにCSのMVP賞金は、裏方スタッフが参加するゴルフ大会の景品にあてられる見込みだ。

岩田 朋宏(いわた・ともひろ)プロフィル

2013年共同通信入社。大阪社会部を経て14年12月から大阪運動部でプロ野球を担当。15年12月に福岡運動部に異動し、主にソフトバンクを取材する。東京都出身。

© 一般社団法人共同通信社