元DeNA&鷹細山田がトヨタにもたらした相乗効果 指揮官「うちにはないものを」

トヨタ自動車・桑原大輔監督【写真:篠崎有理枝】

西武源田、ロッテ藤岡ら、毎年のようにプロ選手を輩出

 2016年の都市対抗野球大会、2017年の日本選手権で優勝し、社会人野球の名門として知られるトヨタ自動車。2016年のドラフト3位で西武に源田壮亮内野手が、2017年のドラフト2位でロッテに藤岡裕大内野手が入団したのに続き、今年は富山凌雅投手がオリックスから4位指名を受けた。毎年主力選手がプロの舞台へ旅立つが、都市対抗には4大会連続、日本選手権には15大会連続出場を続けている。常勝と言われるチームづくりについて、2016年から指揮を執る桑原大輔監督に聞いた。

 毎年プロ入りを掴む選手がいる一方で、チームにはプロの舞台にたどり着けない選手もいる。桑原監督は、そんな選手たちにはトヨタを引っ張っていく存在になり、社会人野球の醍醐味を楽しんでほしいという思いがある。亜細亜大学で藤岡とともに指名漏れを経験した北村祥治内野手は、社会人3年目の今年、プロへは進まずトヨタに残るという選択をした。

「北村はプロに行くことはできたと思いますが、残るという選択をしてくれた。一発勝負の面白さを感じているのだと思います。社員の皆さんの応援を背負って戦い、1つのミスが負けにつながる。リーグ戦にはない緊張感の中で戦います。社会人野球の面白さは、経験したことのある選手じゃないと分からないと思います」

 また、逆にプロから社会人野球に戦いの舞台を移す選手も、近年増えている。トヨタには、DeNAとソフトバンクでのプレー経験を持つ細山田武史捕手が2016年に加入したが、チームにいい影響をもたらしているという。

「いろいろな経験もあり、知識もある。うちにはないものを入れてくれています。逆に、細山田もうちに来て勉強していることもたくさんある。社会人は個人ではなく、チームで戦うというのが一番プロとは異なります。大学を出てすぐにプロ行っていますから、仕事をするということも勉強になっていると思います」

細山田、佐竹らベテラン勢の活躍がチーム内の刺激

 就任1年目に藤岡や富山、細山田をはじめ9名の選手を獲得。同時にベテランにもチームに残ってもらった。若返りを図ることも必要だが、同時に細山田や佐竹功年投手らベテランがチームを引っ張り、チーム内で熾烈な競争が生まれたことが、毎年主力をプロに輩出しても戦力が落ちない理由だと説明する。

「若手が育っても、プロ入りして抜けてしまうのは社会人野球の宿命です。プロで活躍してくれるのはうれしいことですし、それに憧れて入ってきてくれる選手もいます。残ってくれる選手も頑張ってくれている。自分が試合に出たいと思っている選手ばかりなので、競争は激しいですし、誰が出てもおかしくないくらい頑張ってやってくれている。(他の選手が)プロ入りしてポジションが空いたら『ラッキー』と思っているはずです」

 2017年の日本選手権で優勝に輝いたが、今年は1回戦負けを喫した。社会人野球は常勝と言われるチームでも、1つ勝つことが非常に難しい。そして、その負けた時の悔しさこそが、選手のモチベーションに繋がっている。

「都市対抗にも2013、14には2年連続本選出場を逃しました。その悔しさがあるから、みんな頑張ってやっています。楽に勝つにはエース級が何人もいなくないといけないし、駆け引きもある。何が起こるかわからないのが社会人野球です。都市対抗も日本選手権も、とにかく1戦目を勝つことしか考えていません」

 桑原監督がチーム作りで大切にしていることは「明るく元気よく」。試合も練習も辛いことばかりだが、そんな中でも前向きにやれたら、という思いがある。今年、日本選手権を制したのは、同じ東海地区の三菱重工名古屋。ライバルはすぐそばにいる。激戦の東海地区で勝ち抜くためにも、選手たちは野球を楽しむ気持ちを忘れず、厳しい練習に励み続ける。(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

© 株式会社Creative2