キリシタン絵画、安土桃山時代制作か 大磯・澤田記念館

 澤田美喜記念館(神奈川県大磯町大磯)の所蔵する、キリシタンの信仰画「ご聖体の連禱(れんとう)と黙想の図」が16世紀末の安土桃山時代に制作された可能性が高いことが、記念館などの調査で分かった。国内で現存する信仰画としては最古級で、墨の使用や描かれている習俗などからより日本的という。

 記念館が19日、発表した。信仰画は23日から横浜市歴史博物館(横浜市都筑区)で開かれる「神奈川の記憶展」で、初めて一般公開される。

 記念館と博物館によると、信仰画は和紙に墨で描いた巻物で、長さ320センチ、幅22センチ。聖体(ミサで使うパン)をたたえる祈りの言葉の連禱と、イエスとマリアの生涯を15の場面で描いた黙想の図からなる。入手経路などは不明。全文が確認された連禱は国内で2例目、黙想の図は現存するもので3例目だが、両方で一つの作品になっているものは初めてという。

 末尾には「御出世以来千五百九十二年 はうろ」と記されており、西暦1592年に「パウロ」という洗礼名の信者が制作したと推測される。

 使われている紙には江戸時代のものの特徴があり、放射性炭素年代測定で1556~1633年の間に作られたとの結論が出た。また連禱のかな文字の書体や黙想の図に描かれた人物の刀のつるし方などからも、末尾の年号と同時代と判定できたという。

 調査した博物館の井上攻(おさむ)副館長は「これまでの信仰画は、裕福なキリシタン大名や商人が作らせた西洋風の高級感があるものが知られている」とした上で、「今回は粗く、上質ではない紙に墨で当時の習俗が描かれており、雰囲気が違う。日本的で庶民的、土俗的」との印象を語った。

 こうした信仰画が制作された背景には、キリスト教の布教を制限した豊臣秀吉のバテレン追放令(1587年)以降、逆にキリシタンが増えたことにあるという。祈りの空間や宗教道具が不足し、庶民がこれらを自ら創造していったとみられる。

「ご聖体の連禱と黙想の図」のご聖体の連禱部分(澤田美喜記念館提供)

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